総合「社員全員が兼業」すると会社はどう変わるのか? 「辞める理由がなくなる」アソブロックの仕組み
「社員全員の兼業必須」を掲げて、組織の新しいカタチを体現してきたアソブロック。会社と従業員の関係を見直し、双方が対等な立場でお互いのメリットを享受し合うために必要なことは何か?導入理由と会社のビジョンを明確にすることで見えてきたのは「会社人」から「社会人」へという意識の革新だった。アソブロック代表取締役の団遊氏に狙いと成果を聞いた。
[この記事は「ヒューマンキャピタル2019」(主催:日本経済新聞社 日経BP、2019年5月29~30日、東京国際フォーラム )での講演をまとめたものです]
「働き方改革」につながるとして政府が推進し、働き手の期待も高まっている兼業。だが、実際には社員の兼業を認めている会社はまだまだ少ない。そんな中で、兼業を推進する制度をテコに、強い組織作りと収益の安定化に成功した例として注目を集めるのが、広告などの企画・編集・プロデュースを手がけるアソブロックだ。
「アソブロックの働き方の最大の特徴は、兼業が必須だということです。加えてコアタイムなしのフルフレックスで、会社に来る必要もありません。10年間の取り組みで分かったことをお伝えするとともに、なぜ兼業を必須にしているのか、従業員が会社に来なくても組織がうまく回っているのか、その理由についてお話したいと思います」。代表取締役の団氏はこう切り出した。

10年の取り組みで分かったポジティブな事実とネガティブな事実
アソブロックの兼業の取り組みも最初から上手くいったわけではなく、10年間、試行錯誤を繰り返して現在の形に落ち着いた。兼業の導入によるメリットについて、団氏は次の4点を挙げる。
- ①個人にとってメリットが大きいから辞める理由がない組織になった
- ②個人がキャリア形成において有益だと感じるから採用に苦労することがなくなった
- ③個人が主体性をもって自律的に動くようになるからマネジメントが劇的に楽になった
- ④会社を潰さないために、個人が経営意識を持って運営に携わるから収益が安定した
「会社を辞める理由の多くは、兼業OKにすることで解消されます。弊社では兼業OKにしてから人材募集期以外にも飛び込みの応募が増え、採用に苦労することがなくなりました。私はこの10年間、従業員のモチベーションを上げることに悩まされたこともありません。弊社に限らず、私の周りの兼業OKの会社も確実に収益が安定しています」(団氏)
兼業への過大な期待は禁物
一方で、兼業への過大な期待は禁物のようだ。団氏は兼業を導入して気付いた「ネガティブな事柄」について2点を指摘する。
- ①メンバーのエンゲージメントは上がらない
- ②兼業の実践者が多数派にならないとシナジーは生まれない
「兼業OKにすることで、従業員の会社へのエンゲージメント=忠誠心が上がると考えがちですが、絶対に上がりません。ただ、これは悪いことではありません。会社と従業員の関係が対等に近づくことを意味するからです。兼業がもたらすシナジーやイノベーションに期待する向きも多いでしょう。しかし私の経験上、実際にシナジーやイノベーションが期待できる状況になるのは、兼業実践者が社員の半分を超えてからです。兼業を導入するのであれば、半数以上の社員が兼業実践者になることを目指すべきです。兼業者が多数派になると、従業員同士の普段の雑談の『質』が変化し、これがイノベーションの源泉になっていくのだと思います」(団氏)
導入理由と位置付けの明確化が重要
団氏は、兼業を会社に上手く導入するためのポイントは「導入理由の明確化」と「位置付けの明確化」の2つだと指摘する。
「この2つがしっかりしていれば、大きく失敗することはありません。アソブロックの場合はどのように導入理由と位置付けを明確化しているのか。次のような会社システムの模式図でご説明します」(団氏)

「ここに掲げた『人が成長するプラットフォーム』というのは、弊社の経営思想=ビジョンです。このビジョンの実現に最も効果的と考え、『兼業必須』を会社のメインシステムと位置付けています。つまり弊社が兼業を導入している理由はビジョンに資するからであり、その位置付けは会社におけるメインシステムです。そして、それを支えるサブシステムとして『ジョブの明確化』や『情報の徹底共有』を置いています。このように兼業の導入理由と位置付けの明確化が大切です」
兼業が上手くいかない理由
一方、上手くいっていないケースで最も多いのは、導入理由が不明確・情緒的であったり、位置付けが場当たり的になっていたりすることだと団氏は指摘する。
「よく見られるのが、会社のビジョン(雇用思想)を『社員は家族=一生面倒を見る』とし、終身雇用をメインシステムに位置付けているケースです。メインシステムを支えるサブシステムには「年功的な人事運用」「内向きな賃金テーブル」「新卒一括採用&定年制」を据え、各種制度には「積立型退職金」「社宅・各種研修」「賃金外手当の充実」などがあります。この各種制度の中に、『時代の要請があるから』との場当たり的な理由で、全体の構造や位置づけを明確にしないまま、唐突に『兼業許可』を入れているのです。これでは兼業制度は上手く機能しません」(団氏)

必要なのはオープンに検討すること
団氏は、兼業導入の検討に際して具体的にどうすべきか、こうアドバイスする。
「まずは『オープンに検討すること』に尽きます。繰り返しになりますが、議論すべきは、兼業の導入理由と位置付けの明確化です。自社がどういったビジョン(雇用思想)とメインシステムで組織を回しているのか。経営思想、雇用思想を支えるサブシステムが本当に機能しているのか。サブシステムを下支えしている制度にはどういったものがあるのか。そして、兼業を導入するとしたら会社システム内のどこに位置付けるべきなのか――こういったことをオープンに話し合うことが大事です。兼業導入を検討するということは、会社と社員の関係性を考え直すことにもつながります。それこそが、現在の日本企業に求められていることではないでしょうか。
逆に絶対に避けたいのは、『時期尚早』として議論もしないことです。やる気のある従業員からすると『会社は何も考えていません』という風にしか見えないからです」(団氏)
兼業必須を支えるアソブロックのサブシステム
団氏の話は、自身の経験に基づく実践的な内容にも及んだ。兼業を成功させるには、その土台となるサブシステムが重要だという。アソブロックにおいては、①ジョブの明確化、②納得できる報酬規程、③情報の徹底共有の3つがある。
【①ジョブの明確化】
誰がやるのか不明確なジョブが社内にあふれている。自分のジョブが終わったら、自分の好きにしてよく、その代わりにきっちり成果を出す。この合意形成があるからこそ兼業が可能となる。アソブロックでは電話は誰が取るかといったことに至るまでジョブを徹底的に明確化しているという。
【②納得できる報酬規程】
会社が兼業を許すと従業員の個人としての収入が増えるため、従業員自らが兼業を含めてトータルでどう稼ぐかコントロールできるようになる。そのときに会社が用意すべきなのは、『この仕事ではこのギャランティー』という納得できる報酬規定だ。アソブロックでは、自分で報酬を決めることが一番納得を得られるという考え方で、従業員が自分の収入を自分で決める『報酬の宣言制度』を設けている。例えば年初のミーティングで『今年はA社ではこれくらいのジョブで、B社とC社でも仕事をします。アソブロックの仕事は少し控えるので月15万円でいいです。その代わり社会保険はアソブロックでお願いします』といった具合です」(団氏)
【③情報の徹底共有】
アソブロックでは、代表取締役の団氏の分も含め、全員の報酬と経費が一円単位で常時公開されている。そうすると従業員にも経営意識が生まれ、自分がどれくらいの売り上げを上げるのが適正かを把握でき、業務改善に通じるアイデアが自然と出てくるという。「これまでの日本企業は社内の情報格差でマネジメントしてきた面がありますが、ネットやSNSが普及する今の時代には通用しません」(団氏)
「会社人」ではなく「社会人」を育てたい
団氏は最後に、アソブロックのように兼業を必須にすることが「働く人の意識改革」につながると強調した。
「アソブロックのおかげで『会社人』とお別れすることができた。今日からが本当の『社会人』です。兼業を必須にしているのは、こう言える人を増やしたいからです。『働く人=会社人』になるから、世の中で色々な不正が起きるのではないでしょうか。兼業すると、個人は損得ではなく、善悪で判断できるようになります。会社という足かせが無くなり、社会という大地に立てている気持ちになります。兼業を導入することで、働く人が善悪で判断して行動できる『社会人』になる。そういう人が一人でも増えれば、働くことがもっと楽しくなり、ひいては国全体がイノベーティブで朗らかになるのではないでしょうか」(団氏)