総合上場ベンチャーの「良い面、悪い面」
レアジョブ 山田裕一朗
1984年生まれ。同志社大学経済学部卒業後、三菱重工業、ボストン コンサルティング グループを経て2010年、レアジョブ入社。現在、新規事業開発部チームリーダー。
このレアジョブという会社に入って僕は5年目になります。それまでには新卒で三菱重工に入って、それから戦略コンサルのBCG(ボストンコンサルティング)に勤めた経験があるのですが、その2社にいた頃はまさか自分がスカイプを利用した英会話サービスの会社で働くとは思ってもいませんでした。
4年間という時間を振り返ってまず言えるのは、会社が大きくなっていく途上で起こる様々なこと――それを良い面も悪い面も見せてもらった、という実感があることですね。
僕が入社した4年前、レアジョブは東京の神田警察署の上に今もある「ベンチャー神田」というインキュベーションオフィスにありました。オフィスは各社ごとにパーテーションで区切ってあって、まだ社員数は10人ほど。会員数は数万人くらいだったかな。最初は警察署の上にそういう貸オフィスがあるとは思わなくて、辿り着けずに面接に遅刻しそうになったくらいでした。
僕がレアジョブに興味を持ったのは、社長のブログを読んでいたらそこに社員募集の告知があったからでした。ブログのタイトルに「戦略コンサルをやめて起業した日記」とあって、僕が朝5時くらいまで働いてついに頭がまったく働かなくなり、つらいなーって「戦略コンサル」と何となく検索したら、上から3番目くらいに出てきたんですよ。
で、昔の日記を遡っていくと、戦略コンサルに勤めていた頃の社長も朝5時くらいにブログを更新していて、僕がBCGで感じていたことと同じようなことに悩んでいたんです。なんていうか、明確な理由があったというよりは、ほとんど直感としか言いようのないものでしたね。
あとは、そうだな……。あまり人には言ってこなかった理由もあります。
僕にとってBCGでの経験は人生で初めての挫折だったんです。通用すると思っていたんだけれど、通用しなかった。
夜中の2時から4時まで上司から電話で怒鳴られて、何やってんだろうな、って自信をなくしたり。そもそも僕は夜中に頭が回らなくなってしまっていたわけですが、周囲の奴らはよくもこんなに長時間頭が動き続けるなっていう人たちで、僕がブログを読んでいる横では「バババババ」とキーボートを打つ音が聞こえそうなくらいの勢いで働いているんですよ。すげえなあ、とただただ思いましたよね。
僕には戦略コンサルでやっていく覚悟が、やっぱり足りなかったのでしょう。本当にそこまでやる奴らって、課題の答えを出すスピードが速いだけではないんです。頭が良いというのは確かにそうなのですが、この世界でのし上がってやろうという気持ちの部分が凄まじいんですよ。成長に対する投資に抵抗がない人たち。その場にいて自分が成長しているという実感が、何よりのモチベーションになる人たち。ただ、BCGで学んだことはその後めちゃめちゃ活きましたね。論理的に人を口説く術や、課題の因数分解、大きな会社との向き合い方、などなど。
成長が鈍化し、空気が変わった
まあ、そんな経緯でベンチャー神田を訪れてみたわけですが、僕がこの会社で働いてみようと思ったのは、その採用面接の中で加藤さんが学生ベンチャー時代の挫折の話をしていたからなんです。
事業の話をして会社のビジョンについて語る中で、自分は挫折もしてきたけれど、今はこういう夢を描いてこういう世界を作りたいと思っている、と彼は静かに語っていました。ベンチャーの経営者でそんな素直な語り方をする人は珍しいんじゃないですかね。ただ、自分の挫折の話を淡々と語れるのは、それを乗り越えた結果であったり強さであったりするわけで。当時、BCGでの挫折をどうにか乗り越えようとしていた僕には、とりわけ強く共感するものがあったんです。
レアジョブは僕が入社して1カ月後にベンチャー神田を出て、渋谷の築40年の雑居ビルにオフィスを移しました。ペンキのバケツを持って灰色の壁を茶色に塗り替えながら、これがベンチャーだよなあ、と感じたのをよく覚えています。
最初に「良い面も悪い面も見せてもらった」と言いましたが、それから2年間は事業が絶好調だったんですよ。何をやってもうまくいって、倍々ゲームでお客さんも増えていく。
ところが、その後成長が少し鈍化しているような空気が社内にではじめて、さらに震災の翌年に不正アクセスによる情報流出の可能性が問題になったことがあり、何か会社全体の雰囲気が悪化していました。
こうした状況になると、会社も人も徐々にモチベーションが低下してくるんですよ。がんばって働いているのに、以前ほどにはアウトプットが残らない。
うちの会社がその危機から立ち直ったのは、外部から経験豊富な役員に入ってきてもらった以後のことでした。当時は危機の中で必死な状態でしたが、よくよく考えると、それってベンチャーの本を読めばそのまま書いてあるようなことなんですよね。
スタートアップの頃のイケイケの余韻がまだ残っているから、しばらくそのまま進んでいく。すると問題が次々に起こってくるので、外部からベテランの人を入れて危機を乗り切る。そうすると事業は安定するけれど、今度は以前よりもベンチャーっぽさが失われる――。会社というものが辿るそのサイクルを、レアジョブは教科書通りになぞってきたようなところがあると思います。自分のキャリアにとってその経験は、最も大きな意味を持っていくことになるでしょうね。
アマゾンや楽天になれる会社とは
レアジョブは今年6月にマザーズに上場しました。オンライン英会話でスカイプを通してフィリピンの講師と日本の生徒を繋ぐという収益モデルは、すでに確立されています。なので、今後は新しい事業を生み出せるかどうか、というフェーズに入っていかなければならないでしょう。
新しい事業を成功させられる企業は少ないけれど、それができなかった会社で30年後も残っている会社はほとんどないはずです。ベンチャーの社会における価値というのは、どこよりも早く収益モデルを新しくしていくこと。収益モデルが確立している分野には、いずれ資本のある会社が一気に参入してくはずですから、そのことによってスカイプで英会話をする人が増えたとき、そのパイの増加に未知の収益モデルを打ち出せるかどうか。それをやり続けた会社がアマゾンや楽天になるんだと思うんです。
いま僕は、新規事業開発部というセクションを引っ張っています。そこで2つの事業の立ち上げを行っていて、一つは英会話のハードルを圧倒的に下げるために始めたスタンプ英会話「Chatty」。「“しゃべらなくていい”英会話」をコンセプトにチャットでスタンプを使って英会話を学ぶことができるアプリのサービスです。それともう一つはリクルートライフスタイルさんと提携してはじめた「レアジョブ英会話リクルート校」。 リクルートさんのIDを使って簡単に登録ができ、ポイントも貯まります。
大きな会社と覇権を争いながら、こうした新しいモデルを先駆けてつくっていきたいです。それを身軽にできることがベンチャーの最大の魅力ですから。オンライン英会話という分野では一定の地位を得ることができましたが、売り上げ規模的にはまだまだ。常に「追う立場」という意識を忘れないようにしたいですね。