人手不足が意味すること 改めて考える人口問題(6)

総合人手不足が意味すること 改めて考える人口問題(6)

今回は、人手不足問題について考えてみよう。この点については、本連載の「ついに表面化した潜在的労働力不足 改めて考える人口問題(2)」(2014年5月28日)で触れたが、この人手不足問題は、単に雇用という側面だけにとどまらず、日本経済全体の重要な局面の転換を意味している。最新の雇用情勢を踏まえて、もう少し詳細に取り上げてみよう。

ひっ迫する雇用情勢

このところ毎日のように人手不足の話題が新聞に出る。「建設会社が人手が集まらないために倒産してしまった」「人手が集まらないため公共投資が遅延している」「アルバイトに頼って事業を拡大させてきた外食チェーン店の事業展開がとん挫した」「契約社員、パートなど非正規労働者の待遇改善が相次いでいる」といった記事が頻繁に見られるようになった。人手不足問題が次第に範囲を広げ、その影響がどんどん深まりつつあることがうかがわれる。

データで確認してみよう。2011年11月以降景気の拡大が続く中で、雇用情勢は急速に好転してきた。2012年11月には0.82倍だった有効求人倍率は、本年6月には1.10倍となった。これは、1992年6月以来の22年ぶりの高水準である。

失業率は、2012年11月には4.1%だったが、本年6月には3.7%となった。5月には3.5%にまで低下していたのだが、最近時点ではやや上昇した。この点はややトリッキーな側面があるので注意が必要だ。失業率は、景気の上昇期に一時的に上昇することがあるからだ。

やや細かい話になるが、データの話はもともと細かいものなのだから、我慢してほしい。普通、景気が良くなると失業率は低下すると考えられている。これは、職を得られない状態でいた失業者が、雇用機会の増加によって新たに雇用されるようになるからだ。ところが必ずしもそうとは限らないのだ。

「15歳以上の人口(2013年11083万人)」は、働く意思を持った「労働力人口(同6577万人)」と、働く意思のない「非労働力人口(4506万人)」に分かれる。この「労働力人口」が、既に就業している「就業者(6311万人)」と、仕事をしたくても仕事の場を見つけられない「失業者(265万人)」に分けられる。この失業者を労働力人口で割ったのが「失業率(4.0%)」である。

さて、この「非労働力人口」の多くは、学生、専業主婦、引退した高齢者などなのだが、難しいのは「失業者」の定義である。ここで言う失業者とは「仕事をしていない人」ではなく「仕事をするつもりはあるのに仕事がない人」である。もっと具体的に言うと「仕事がなく、求職活動をしている人」が失業者なのである。すると、今まで「仕事を探してもどうせ職はないだろう」と考えて求職活動を止めていた人が、景気が良くなり、世の中が人手不足だと言われるようになったので、職探しを再開すると、この人は失業者になってしまう。この場合、失業率の分子は不変で分母が減るから、失業率は上昇してしまう。最近の状況はこれだと思われる。総理府の労働力調査によると、非労働力人口(季節調整値)は、5月に前月比30万人減、6月15万人減とこのところ大きく減少している。これが景気拡大下での失業率上昇の理由だと考えられる。

均衡を越えて制約要因へ

こうした雇用情勢の変化は、「雇用機会が増えて喜ばしい」という段階を越えて「労働制約が厳しくなり、経済の足をひっぱる要因になっている」という状況になりつつある。この点を詳しく検討してみよう。

まず、前述のように最新の有効求人倍率は1.10倍ということだった。求人倍率は、求職者数(分母)と求人数(分子)の比率だから、これが1を上回ったということは、「人手を欲している数」の方が「職を求めている人の数」を上回ったことを示している。「需給が均衡した状態」を越えて、人手が足りない状況になったということだ。

企業の判断もそうなってきている。日本銀行の全国企業短期経済観測調査によると、本年3月調査以降、大企業、中堅企業・中小企業いずれも、自社の雇用が「不足」だと答えた企業が「過剰」と答えた企業を上回っている。最新の6月調査では、中小企業については、人手不足の度合いはバブル崩壊後で最も高いレベルとなっている。

失業率の低下についてはどうか。失業率は、需要不足による失業率と構造的失業率(ミスマッチによる失業率)の2つに分けられる。失業率をこの2の要因に分けるために考えられたのが「UV分析」という手法だ。図は、首都大学東京の村田啓子教授が描いた最近時点での「UV曲線(考案者の名を取って、ベバリッジ曲線とも呼ばれる)」の動きだ。

この曲線は、縦軸に雇用失業率(雇用者ベースの失業率)、横軸に欠員率(企業が人を求めているのにまだ雇われていない部分の割合)をとって、現実の数字をプロットしたものだ。景気が良くなると失業率が下がって欠員率は上がるはずだから(景気が悪い時は逆)、プロットすれば、原点に凸の曲線となる。

ここで、経済全体の需要と供給を考えると、

労働需要=雇用者+未充足求人
労働供給=雇用者+失業者

となる。

すると、労働需要と労働供給が一致するのは、

未充足求人=失業者

の時である。図の45度線がそれである。経済全体の労働需要と労働供給が一致している状態で発生している失業は、ミスマッチによる失業だと考えることができる。つまり、プロットした曲線が、45度線と交わった時の失業率がそれである。

現実にプロットしたものは、放物線そのものが右上・左下へとシフトする動きと、放物線の上を左上・右下へと変化する動きに分けることができる。前者がミスマッチの変化による構造的な失業率の変化であり、後者が景気の変動による循環的な失業率の変化である。

図は、2002年第1四半期からスタートし、2007年にかけて右下に向かっている(景気上昇)、その後、2009年にかけて左上へと動き(景気後退)、その後はアベノミクス景気の中で再び右下に動き、最近時点(2014年第2四半期)ではほぼ45度線に近付いている。つまり、最近時点の失業率はほぼ労働需給が一致した状態での失業率であり、その多くはミスマッチによるものだということになる。

図 UV曲線の最近の推移
(備考)
1.総務省「労働力調査:、厚生労働省「職業安定業務統計」により、首都大学東京村田啓子教授作成。
2.雇用失業率=完全失業者数/(雇用者数+完全失業者数)
3.欠員率=(有効求人数-就職件数)/(有効求人数-就職件数+雇用者数)
4.季節調整値

このことは大変重要なポイントである。なぜなら、現在の失業の多くがミスマッチによるものだとすれば、これからは単に景気が良くなっただけでは失業率は下がりにくくなり、雇用を改善するにはミスマッチの解消に働きかけるような構造政策(職業紹介機能・職業訓練の充実、労働移動の弾力化など)が主役となっていく必要があるということを示しているからだ。

これからも続く労働力の減少

さらに重要なことが2つある。1つは、人口面から考えて、労働力の減少はこれからさらに強まるということであり、もう1つは、日本経済全体としての供給能力が経済を制約し始めているということだ。

前者から考えよう。日本の生産年齢人口は、1995年の8730万人をピークとして一貫して減少を続けており、2013年(10月1日現在)には7900万人となった。全人口に占める比率も、同期間で69.5%から62.1%に低下している。これに伴って、労働力人口も、1998年の6793万人をピークに減少し続け、2013年は6577万人となった。15年間で216万人も減ったことになる。

問題は今後だ。生産年齢人口は、2030年6773万人、2060年4418万人へとさらに減少する(国立社会保障・人口問題研究所、出産・死亡中位ケース)。すると、ある程度高齢者や女性の労働参加率を高めたとしても、労働力人口もまた相当減るはずだ。ただし、労働力人口の将来を展望するには、年齢別・性別の将来の労働力率を想定する必要があるので、それほど簡単ではない。

ここでは、日本経済研究センター桑原進主任研究員が、2013年を基準として、2030年、2060年の労働力人口を推計したものを紹介しよう。その推計によると、ある程度の労働参加率の上昇や政策効果を織り込んだ上でも、労働力人口は2013年の6577万人から、2030年5954万人、2060年4017万人へと減少していく。減少率は、2013~30年平均で0.6%、2030~60年で1.3%と加速していくことになる。

なお経済財政諮問会議「選択する未来委員会」の中間とりまとめでは、参考資料として2060年の労働力人口5522万人という計算が示されている。この場合は2030~60年の労働力人口減少率は0.3%程度にとどまる。しかしこれは、出生率が2030年までに2.07に回復し、女性の労働力率がスウェーデン並みに上昇し、さらに60歳以上の労働力率が5歳繰り上げられるという、かなり背伸びをした推計となっていることに注意する必要がある。

経済が停滞して労働需要が極度に低迷しない限りは、今後長期的に労働力不足はますます強まると考えるのが自然である。

需給ギャップの解消が意味すること

もう1つ重要な点、日本経済全体の供給制約について考えよう。この点で重要なのが「需給ギャップ」である。需給ギャップというのは、供給力から日本経済の潜在的な生産能力に対して、現実の需要がどの程度のレベルに達しているかを示す指標である。

この指標は、多くの仮定を置いて計算しなければならないので、計算する人(機関)によって違った数字が出てくる。需要の方はGDPだから話は簡単なのだが、潜在生産力(供給能力)の推定は、仮定の置き方によって計算結果が異なるのである。

日本では、内閣府と日本銀行の計算がしばしば引用される。ただし、両者とも、定期的な統計資料として公表されているわけではないので、一般の人にはオリジナルのデータを見つけるのが結構難しい

内閣府の需給ギャップの計算は、四半期ごとのGDP統計が発表されてからしばらくたつと、「今週の指標」という形で発表されている(最新のものは「2014年1-3月期GDP2次速報後のGDPギャップの推計結果について」今週の指標 No.1099、2014年6月13日)。日本銀行が計算している需給ギャップは、(私が知る限りでは)毎月公表される「金融経済月報」の参考図表に入っている(最新のものは、7月号の図表33)。前述のように、計算方法によって結果が異なるものなので、「数字の独り歩き」を恐れて、積極的なデータの公開をためらっているのかもしれない。重要な指標なのだから、分かりやすい形で国民に公表して欲しいものだ。

最新の2014年1-3月期の需給ギャップは、内閣府の計算ではマイナス0.3%(供給超過)、日本銀行の計算ではプラス0.6%(需要超過)となっている。何度も言うように、計算方法で結果は異なるので、細かい数字を気にする必要はない。大事なのは「需給ギャップがほぼゼロになった」ということだ。

まもなく公表される4-6月期のGDPは、消費税の駆け込みの反動で大幅なマイナス成長となることが確実だから、需給ギャップは再度供給超過方向に動くはずだが、それも7-9月期には戻るはずだ。その後、堅調な成長が続けば、需給ギャップはプラス領域(供給不足)を進んでいくことになるだろう。

これは、日本経済全体にとって、「需要不足」状態から「供給不足」状態へと大きな局面の変化が起きたことを示している。この局面の大転換とともに、経済政策も企業経営も、政策の基本方向を考えなおしていく必要がある。

経済政策という点では、これまでは需要不足状態だったから、需要を増やすことが経済政策の基本であった。アベノミクスの第1の矢の異次元金融緩和も、第2の矢の公共投資の増額も、需要喚起を狙ったものであるという意味で、基本的には「需要不足時代の経済政策」だった。しかしこれからは供給力を高めることが重要になる。アベノミクス第3の矢の成長戦略がまさにそれだ。供給力を高めることなしに、需要がこれ以上伸びていけば、失業率は改善せず、物価だけが上がって行くということになってしまう。これからは「供給制約下の経済政策」を考えていく必要がある。

これまでの需要刺激策の後始末も重要になる。いわゆる出口政策である。これには、金融政策の出口と財政政策の出口の2つがある。金融面では、異次元緩和状態からいかにして平時に戻っていくかという大問題が控えている。財政面では、公共投資等の大盤振る舞いの結果拡大した財政をいかに再建していくかという、これまた大問題が控えている。

人手不足経済はこれからますます強まる。そして、それは日本経済全体の局面変化を示している。このことを認識して、企業はこれからの経営の在り方を再考し、政府は経済政策のスタンスを変えていく必要がある。