総合介護人材の外国人依存は、苦戦必至 待遇の悪い日本は不利
介護分野の人手不足が続いている。厚生労働省の社会保障審議会で2017年に示された資料によると、25年には約38万人の人材が不足する見込みだ。
こうした状況の中、政府は介護人材不足を外国人労働力で補おうとしている。これまでインドネシア、フィリピンおよびベトナムとのEPA(経済連携協定)に基づき、約3500人の介護福祉士候補者を受け入れてきた。
さらに17年には外国人技能実習制度に介護職種を追加するなど、受け入れ数を増やす施策を追加した。だが、外国人労働力は日本国内の介護人材不足を解消するのだろうか。先行するドイツの事例を基に考える。
ドイツは人材を集められず
高齢化が進むドイツでも、介護人材の確保は大きな課題である。日本と同様、労働環境の悪さや賃金の低さが国内のなり手不足に直結している。
ドイツの介護現場では、欧州連合(EU)域内の東欧出身者を中心に外国人の就労が目立つ。ドイツの介護職を含むヘルスケア分野の賃金水準は、主な送り出し国であるポーランドやチェコと比較して3倍以上も高いためだ。
ドイツでは、高齢者ケアの中核を専門介護士が担っており、この専門介護士の確保がとりわけ重要とされている。しかし東欧出身者に専門介護士などの高度人材は少なく、多くは介護アシスタント(1年程度の通常の職業訓練修了レベル)や、それ以下の熟練度の低い職種レベルで就労している。
ドイツで専門介護士の資格を取得するには原則3年間の養成教育修了後、国家試験に合格する必要があるほか、十分なドイツ語能力も求められる。外国人にとって、そのハードルは高い。
最近では、専門介護士の資格を取得したとしても、EU域内の別の国へ移動する者も増加している。背景には、ドイツの所得の優位性が薄れていることがある。例えば、英国のヘルスケア分野の平均賃金は、ドイツよりやや高い(下のグラフ参照)。加えて、英語という汎用性の高い言語が話されているため、英国への人材の流出が増加している。
●各国のヘルスケア分野における平均賃金(2014年)


そこでドイツは近年、人口構成が若い中欧やアジアなどEU域外からの受け入れを増やしている。13年に始まった「トリプル・ウィン・プロジェクト」では、母国での就労が困難なセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナなどの看護師を、ドイツのヘルスケア分野に受け入れている。
また、ドイツで就労する専門介護士の確保と定着を目指して、ベトナムや中国の看護養成学校と協定を結び、育成の段階からドイツ語習得だけでなく、文化プログラムなどを組み込んだ支援を制度化している。
さらに専門介護士の資格を取得してドイツの介護現場で一定期間就労するなどの条件をクリアすれば、EU域外出身者にもドイツの永住権が取得できる仕組みを用意する。
ここまでの取り組みをしているにもかかわらず、現在のところ専門介護士以外の非熟練の介護士を合わせても、人材の流入・定着は十分ではない。ドイツ国内の介護職員数は緩やかに増加傾向にあるものの、介護職員1人当たりの要介護者数は、09年から15年にかけて2.6人のまま変わっていない。
さらに、送り出し国である東欧諸国の高齢化も、長期的に見ればドイツへの人材流入を抑制する要因となる。東欧諸国でも、人材流出によって自国の高齢化への対応が遅れていることが問題視され始めている。世界保健機関(WHO)は、人材不足に直面する途上国からヘルスケア人材を多く受け入れている加盟国に対し、受け入れを抑制するように求めている。
日本は魅力的な職場ではない
日本でも介護人材不足を補う外国人労働力に期待が高まっている。だが、ドイツの状況を見る限り、人材確保は容易にはいかないだろう。
まず、日本の賃金水準は他の先進国に比べて決して高いとは言えない。ドイツは賃金で優位性が薄れつつあると述べたが、日本の賃金はそのドイツよりもさらに1割以上低い。ドイツへの主な送り出し国は東欧諸国、日本への送り出し国はアジア各国ということを考えると単純な比較はできないが、日本の賃金の魅力は高いとは言えない。
さらに、厚労省が15年に発表した調査報告書でも、外国の人材は、「待遇」や「言語の違い」を日本の介護分野で働く際のネックだと考えていることが明らかになっている。母国で専門的な看護教育を受けた人材も多く、スキルを生かしきれないストレスも抱えるようだ。
こうした背景から、日本で介護福祉士の資格を取得しても、習得した日本語能力が自国の日系企業への就職に有利であるからと帰国する人材もいる。北米などのより条件の良い受け入れ国に行くまでの、資金と介護スキルの蓄積と捉えている人も少なくないとみられる。
つまり、外国人労働者にとって日本の介護事業者で就労することは、母国の同分野で就労するよりは条件が良いものの、他分野や他国と比較すれば、決して大きな利点があるわけではない。人材の送り出し国として期待されるアジア各国にとっては、英語圏で、かつ永住権の取得も可能となる米国やオーストラリア、カナダの方が魅力的に映るだろう。
●各国の高齢化率の推移

さらに、今後はアジア各国も急速に高齢化するため、日本への送り出しが減少する可能性は高まる一方だ。
従って、まずは日本の介護分野への就労について、日本人にとってもマイナスと捉えられている部分から改善すべきだ。国内で人材が集まらないような環境であれば、外国人労働者にとっても魅力的ではなく、中長期的な定着など望むべくもない。雇用環境の改善なくして人材の確保は困難といえよう。外国人労働者にとっては、就労の先に永住権、さらにその先に家族や子孫の将来が保障されていることも、必要といえるだろう。