総合社員の働き方を変える実にシンプルな方法 カルビー・松本会長
日本を代表する「経営のプロ」として活躍するカルビーの松本晃会長兼CEO。6月20日に開かれる同社の株主総会で退任するが、一息つくまもなく6月24日からRIZAPグループの代表取締役COO(最高執行責任者)に着任する予定だ。
伊藤忠商事、ジョンソン・エンド・ジョンソンを経て、2009年6月にカルビーに入社した松本会長の経営手腕は、その後の同社の業績に鮮明に表れている。2009年3月期の売上高は1373億7700万円、営業利益は44億800万円。これを2017年3月期には2524億2000万円、288億4100万円と、売上高を約2倍、営業利益を6倍以上に成長させた。
そんな松本会長にカルビーの経営トップとして過ごした9年間を振り返ってもらうとともに、特に力を注いだ働き方改革について話を聞いた。
「やり足りない」なんて言い出せばきりがない
――カルビーの9年間を振り返り、ご自身が最も大きな成果を上げたと思うことは?
「良い会社」から「強い会社」になるかもしれないなという雰囲気が出てきたことでしょうか。
カルビーは昔から良い会社。人も良いし、商品も良い。就任当時の業績も悪くなかったです。ところが、強くなかった。
これからもカルビーが国内市場でぬくぬくとやっていこうと思えば、僕なんて必要ではなかった。スナック菓子に関して元々カルビーはダントツで、はっきり言って敵なんていませんでした。ただ、国内でもっと成長するとか、海外でビジネスを広げていこうとなれば、当然ライバルが変わってきます。
例えば、シリアル食品ではマイナー会社だったので、ケロッグに勝つというのは1つの挑戦でした。結果、国内では勝ちましたけど、あんなものでは駄目だと思っています。野球で言えば、今は3回裏を終わって2対1のようなもの。9回までだいぶ残っているし、場合によっては延長戦になるかもしれません(関連記事:“不毛時代”続いたカルビー「フルグラ」がなぜ急激に売れ出したのか?)。
ちょっとくらいは強くなったという感じはありますが、本当に強い会社になっていたら、海外事業でこんなに苦しまないです。海外に出てみると弱さが目立ちます。
――このタイミングで退任されるわけですが、正直まだやり足りないですか?
やり足りないなんてことはまるでありません。「あとちょっと」とか「いや、あれが終わるまで」なんて言っていたらきりがないです。ある時期が来たら次の人にどんどん代わっていくのが会社ですよ。
結局、僕は9年間CEOをやったけど、振り返れば1年長かったかなと思っています。
――9年前と比べてカルビーはどう変わりましたか?
テーマの1つだった女性登用によって社内の雰囲気は変わりましたし、働き方を改革したら早く帰宅する人や、オフィスに来ないで自宅で働く人もたくさん出てきました。
こないだもある社員が非常に働きやすい会社だと言ってくれました。いくつか理由があると思いますが、勤務時間が自由だし、どんどん権限委譲します。他社と比べて官僚的なところは少ないでしょう。そういった意味で働きやすいのでは。
――松本さん自身のビジネスマン、経営者としての長いキャリアの中で、カルビーの9年間はどう評価されていますか?
一言でいうと楽しかったですよ。楽しさはいつも仕事しながら求めてますからね。楽しいこと、そして成功すること。これは非常に大事です。
――それは松本さんが仕事をする上での必須条件ですか?
もちろん、成功したけど、楽しくなかったということもあります。だから必要条件は楽しいこと。十分条件は成功することです。
複雑に考えない、何かを変えればいい
――松本さんが入社してすぐに取り組んだことの1つが「働き方改革」です。オフィス移転に始まり、フリーアドレスや人事制度の刷新など、さまざまなことを推進しました。これは当初から決めていたことなのか、入社して「これではいけない」と思われて始めたのでしょうか。
これらは僕の仕事のやり方だから、決めていたと言えば決めていたし、カルビーに入ってから取り組んだこともあります。いっぺんにはできませんから、1つ1つ進めていきました。ただ、ほかの人よりも改革のスピードは少し速いかもしれませんね。
おっしゃるように、まずはオフィスから手を付けました。働き方改革と言っても、職場環境が悪ければ社員は十分に働けません。昔の赤羽の本社で今と同じことができるかと言えば、できないですよ。(関連記事:ダーツで席決め 好業績のカルビー、成長の源はオフィスにあった!)
例えば、四畳半のワンルームで、子どもが4人いて、生き方改革と言っても、そんなのは無理ですよ。だからまずは環境や制度を整えてあげないといけません。
――とはいえ、多くの日本企業はオフィス環境や制度をどうするべきかと、その前段階で議論が止まっている印象を受けます。
それは複雑に考えすぎるからです。何かを変えれば、何かが変わる。それをいっぺんにあれもこれもと言うんだけど、だからかえってうまくいかないのです。何か1つでも変えれば、それに追いついて物事は変わっていきますよ。
――何よりもまずは変えることが重要なのですね。その変化に対してカルビーの社員は抵抗なく、なじんでいったのでしょうか?
やってみて快適だったらなじむし、不快だったら怒るはずです。あまり文句が出ないところを見ると、まあまあ快適なのではないでしょうか。
フリーアドレスを例にとりましょう。社員個人の机があれば、皆その上にモノを置くに決まってますよね。オフィスを退出する際も、そのまま置いといたほうが翌日も便利に決まっています。するとモノがどんどんたまり、作業スペースが小さくなるだけでなく、どこに何があるか分からなくなり、探すのにものすごく時間がかかります。
ところが、モノがなかったらもっと簡単に仕事ができるわけです。こういうことって働いている個人は気付かないので、会社がそういう制度にしてあげればいいのです。「あなたの机は今日はここですよ、明日はここではないですよ」と。すると、たくさんの書類なんて置いておけません。鉛筆やボールペンを50本も100本も持ってる人がいるけれど、そんなに置けないですよ。ボールペン1本で十分ですよね。
机の上にモノを置くのをやめなさいなんて言っても、そんなのやらないですよ。人間ってそんなものです。けれども、スペースをなくせばできるのです。
――半ば強制的にそういう環境を用意すれば、人は順応していくということですね。
環境を用意して、制度をちゃんと作ってあげれば、人はそれに合わせるのです。
そうした環境を提供もせずに、ああでもない、こうでもないと言っていると、最終的に会社の目的をどんどん忘れていくでしょうね。会社なんて簡単なんですよ。世のため、人のためにやっていくのが必要条件。もうけるのが十分条件。これでおしまい。
ポテトチップスを作ろうが、何を作ろうが、商品を食べてもらって皆さんに喜んでもらう。そのためにやっているのです。ただ、慈善事業でやっているわけではありません。稼がないと商品開発はできないし、設備投資もできない。税金も払えないし、社会貢献もできないし、配当も払えない。だから稼ぐことは良いことなのです。稼ぐために働くのです。
無駄なことはしない
――働き方改革とともに、女性活躍の推進にも力を入れました。女性管理職比率が17年4月時点で24%を超えるなど、目に見える成果を上げましたが、ご自身の手応えはいかがですか?
手応えという表現は気に食わないですが、当社は日本企業で女性管理職の比率が1番か2番でしょ。しかし、こんなもので1番だと言われていては、日本という国が悲しいですよね。世界に出たら恥ずかしいレベルです。のびしろはまだまだあります。
女性の管理職については50%になったらゴールです。51%にするつもりはないです。日本人の男性と女性の数はだいたい同じでしょう。だったら比率も半々にすればいいのです。もし男性が75%で、女性が25%であれば75:25にすればいい。僕はプラグマティスト(現実主義者)で、無駄なことはやらないのが基本スタンスです。
――物事をシンプルに考えることが、経営する上でのスタンスでもあるのですね。
仕事はそんなに難しいものではないですよ。大学で数学を教えているわけではないのだから。けれども皆、ビジネスを勝手に難しくしすぎたので、結果的にうまくいかないのです。過去46年間、仕事に関してはほとんど足し算と引き算の世界で生きてきました。掛け算や割り算なんて滅多に使いません。微分積分? 1度も使ったことないです。
楽しいこと、そして絶対に成功する自信があれば
――今後のことについても教えてください。ご自身がチャレンジしたいことはありますか?
具体的にはありません。こちらから「おたくの会社で働かせてくれ」というスタイルはなかなか難しいので、相手からいろいろと声を掛けてもらうことにはなるでしょう(編集部注:本取材は5月9日に実施)。そうすると、どんなところで何をしたいかだけです。最優先するのは、毎日楽しいこと。苦労も楽しみの1つですし、難しいことをやるのも楽しいですが、いずれにしても楽しくないと意味がありません。
2番目は、自分がやったら絶対成功するという自信、確信。これが最低の条件です。
あえて言えば、今までやったことない仕事をやってみたいと思います。所詮、仕事は何をやっても一緒ですが、カルビーを辞めて、他の菓子メーカーで働くということはないです。お菓子の産業は面白かったけど、大体分かったのでもういいです。
自分が新しいことにチャレンジしたいと思ったら、勉強して、頭使わないと絶対にできないですよ。人間が生きていて何が一番楽しいのかといえば、頭使うこと。学んで、頭を使って、考えて考えて、実行して成功したら、それが最も面白い。そんな仕事があればやってみたいと思っていますよ。


