ジャニーズと日ハムに学ぶ、人材輩出企業の正しい在り方

総合ジャニーズと日ハムに学ぶ、人材輩出企業の正しい在り方

このところ「雇用の流動化」という言葉をよく耳にする。「成長産業に人を動かし、国を成長させる」という大義名分と、「いらなくなった人、パフォーマンスが悪い人を合法的にクビにできるようにしたい」という下心が見え隠れしていて悩ましい。

安倍政権の目玉法案とも言える「働き方改革国会」は視界不良で、「働き方改革」関連の法案が会期内に通るかどうかは微妙な状況になってきたし、野党から「定額使い放題」「スーパー裁量労働制」などと批判されている高度プロフェッショナル制度をめぐっては、今後も議論が紛糾することは間違いない。ただ、あくまで個人的な推測だが、働き方改革関連法案が通ると、見送りになっている裁量労働制と解雇ルール(解雇規制の緩和)が来年以降に提案されるのではないかと見ている。

ところで「雇用の流動化」とは何か。新卒の学生がこれまで興味を示さなかった業界・企業に行くケースが増えそうだし、自社から人が辞めて他社に行くケースも増えそうだ。ただ、いかにもこれを推進したがっていそうな経済界のナカにも、勝手な願望を抱いている人がいる。

先日、財界系の大規模なセミナーに識者として参加したときのことだ。その場で、「雇用の流動化」を主張する大企業の役員がいて、例によって「成長産業に人を」とか「パフォーマンスの低い社員を解雇しやすいように」と言っていた。どこかで聞いたことがある話が続いたあとで、「優秀な人に辞められては困る」「若者は3年で3割辞めるから困る」という趣旨のことを言い出したのだ。

気持ちは分からないでもないが、ちょっと待ってほしい。矛盾していないか。都合がよすぎるのではないか。彼が「困る」と言った話は、「雇用の流動化」そのものである。だが、彼のような矛盾をはらんだ主張こそが、経済界の本音なのだろう。

注目の「人材輩出企業」

では、気持ちの良い「雇用の流動化」とは何か。同じ釜の飯を食っていた同僚が後腐れなく辞めて、新天地で活躍することである。いわゆる「人材輩出企業」というやつだ。

人材輩出企業ってどこのこと? このように聞かれると、リクルートや、マッキンゼー、P&Gなどを挙げる人が多いのでは。リクルートに関しては「人材“排出”企業」とも「人材“流出”企業」とも呼ばれていて、OBの筆者も大きくうなずくところだ。

マッキンゼーを辞めた人を見ると、起業家や経済評論家もいれば、お笑い芸人もいるという振れ幅だ。P&Gは経営トップ層や、マーケティング関係者に多数の人材を輩出している。最近話題の人物といえば、マクドナルドのV字回復を手掛けた上席執行役員マーケティング本部長足立光氏だ。同氏はP&GのOBである(ちなみに、ゼミの先輩だったりもする)。

このような人材輩出企業のOB・OGには名前が付く。リクルートなら「元リク」だ。一時、雑誌が華僑のように「リ僑」という言葉を仕掛けようとしたが、まったく定着しなかった。P&G出身者は「P&Gマフィア」と呼ばれている。電通を辞めた人は「辞め電」、博報堂を辞めた人は「脱博者」と言われている。ちなみに、元アイティメディアの人は「ヤメティメディア」と呼ばれているそうだ。

筆者が最近、注目している「人材輩出企業」がある。それはジャニーズ事務所と、北海道日本ハムファイターズだ。

ジャニーズ事務所でいえば、人気グループ「関ジャニ∞」のメンバー、渋谷すばるが脱退し、今年12月31日をもって事務所を退所すると発表した。日本ハムファイターズでいえば、二刀流の大谷翔平が海を渡って、大リーグで大活躍している。

渋谷すばるの脱退については、ファンとしては悲しい知らせであり、“すばるロス”が広がりつつある。裏事情は分からないが、ジャニーズ事務所の歴史の中で、最も美しい脱退劇ではないか、と筆者は感じている。一昨年のSMAP解散騒動などは、ファンとしても悲しい出来事であった。その反省を生かしたのかもしれないが、渋谷すばるの脱退・退所に関しては、メンバーの絆や、お互いの夢を応援する姿勢が感じ取れてよかった。

ジャニーズ事務所の「強さ」

北海道日本ハムファイターズは「人材輩出企業」

と同時に、ジャニーズ事務所の「強さ」を感じた。筆者は、ジャニーズ事務所を芸能界の自民党だと見ている。このように書くと、「なんだと!? 森友・加計問題で揺れに揺れている自民党と一緒にするな!」とファンからお叱りの言葉を受けそうだが、悪い意味ではない。

自民党には右派、中道、左派とさまざまなスタンスの政治家がいて、派閥もある。経営者、弁護士、官僚から転じた者もいれば、コテコテの2世議員だっている。70代の長老もいれば、30代の若手だっている。支持するかどうかは別として、この多様性と、次世代の政治家が常に生まれているのが、自民党の強みだ。

ジャニーズ事務所は、しっかりとした稼ぎ頭がいつつ、新しいタレントを育て続けているのが強みだ。まさに、プロダクトポートフォリオマネジメントである。SMAPが解散しても、渋谷すばるが退所しても、ジャニーズ事務所は常に次世代のスターを生み出し続けている。しかも、強烈な個性を持った者たちを、だ。

日本ハムファイターズに関しては、スターを育て、しかも大胆に放出することに美学を感じる。大金を積んで「どうかチームに残ってくれ」と慰留するのではなく、大胆に手放すのである。

同球団の順位は年によってブレている。ただ、何度もリーグ優勝を経験している球団である。甲子園などで活躍した選手だけでなく、これから伸びそうな選手を含めて獲得する力、目利き力、育成力が強みだと見ている。

突き詰めると、「人材輩出企業」と呼ばれているところは、採用力、育成力が違うのだ。そして、人材の層の厚さが違う。単に会社を辞める人が多いところなら、他にもたくさんある。それこそ「ブラック企業」と呼ばれるような企業がそうだ。

魅力的にする努力が不足

そのような企業は毎年、大量の新入社員を受け入れ、たくさんの転職組を採用している。人事担当者は毎日のように面接対応に追われているのだろう。大変だ。なぜブラック企業と呼ばれるところは、人材輩出企業になれないのか。

結局のところ、その企業を労働者にとって魅力的なものにする努力が欠けているのである。人を人と思わずに、単なるコマのように扱っていないか。人を育てる、気持ちよく働いてもらう、という意識はあるのか。労働者から会社への愛が自然とわきあがるような組織になっていないのである。

働いていた企業を嫌いにならないで旅立ってもらうために、どうすればいいのか。その企業のOB・OGであることを誇りに思ってもらうために、どうすればいいのか。経営者と人事は真剣に考えるべきである。