総合副業は独立・起業の予習 丸紅の義務化がひらく未来
大手商社の丸紅が社内副業を義務付けるというニュースが関心を集めています。勤務時間の15%を、新しい事業の考案などに使うような仕組みを始めるそうです。正規の方針なので、人事考課にも反映されるのでしょう。私はとてもよい流れだと思います。
まだ社内制度として整備されていない会社のほうが多いと思いますが、もしこのような「副業」が認められているなら、セカンドキャリアのための「予習」として活用することをお勧めします。「いや、うちはまだだよ」という場合も、思考レッスンとして参考にしてください。なぜ私がそう考えるかを、自分の体験に基づいてお話しします。メリットを挙げていきましょう。
■「公認」の副業で堂々と時間活用
第一に「時間を有効に使える」という利点があります。丸紅によれば、新しいビジネスを検討するために「勤務時間の15%、1日単位で取得する場合、就業時間7時間のうち60分をあてる。月単位での場合は、15%分にあたる3日前後をまとめて取得できる」。これは義務とされます。
私は旭化成勤務の最後の3年間、会社には内緒で副業していました。90年代末の当時、社会的風潮として、「副業なんてとんでもない」という空気でしたから、内緒にせざるを得なかったのです。私の副業は、具体的にはビジネススクール講師、雑誌へのコラム寄稿、他社クライアントの社内研修講師、新規事業開発コンサルティングと、現在の私がやっている仕事と同じ内容です。
さすがに勤務時間内にはやらず、週末の土日、早朝、深夜を使っていました。こうした時間のやりくりに苦労せずに済むという点だけでも「社内制度として義務」化されている人は恵まれています。丸紅では15%の時間について、業務の効率化、たとえば会議を減らす、社内稟議書、資料作成を大幅に減らすことで捻出するとしています。簡単に言えば、「あってもなくてもいいものを見つけ、それをやめちゃって、時間をつくり出そうよ」です。
業務というものは、一度始めると、やめることが難しい性質を持っています。特に会議は、始めるのは簡単だけど、廃止は何となく人情がからんで難しいもの。「あの会議を始めたの、課長だからなあ。言えないしなあ」という事情はよくあります。同じく、プロジェクトも、始めるのは簡単だけど、なかなか「断捨離」が難しい。これを「会社のお墨付き」で堂々とできるのです。いいじゃないですか!
■家族と過ごす時間を確保
また、この制度には、「人生の時間の有効活用」というメリットもあります。私のように、週末の早朝・深夜に時間をひねり出すとなると、いきおい家族との時間が犠牲になります。今、振り返ると、副業を始めたころ、小学3年生だった息子の、その後の成長の姿を思い出せません。
独立後も家族そっちのけ、仕事優先で来ましたので、「パパ、パパ」と後追いしていた幼児がいきなり今のような成人男性に変身したかのようです。同じ息子とはいえ、別人であり、いかにも残念な思いをしますが、こればかりはどうしようもありません。
それが、会社のお墨付きで新規事業の「レッスン」ができるのであれば、何を置いても人生の貴重な時間を有効活用できるメリットがあります。これは大きいですよ。
■転職前から社外ネットワークの下ごしらえ
第二に、セカンドキャリアを豊かにするために必須の、人脈、ネットワーク作りの練習ができます。丸紅では導入にあたり、部門内でしか開示していなかった情報(投資先、顧客など)を社内ネットで閲覧可能にするようです。情報もさることながら、セカンドキャリアに欠かせない、人とつながり、シナジー(相乗効果)を生み出せる力を養ううえでの予習になって、とてもいいと思います。
旭化成時代の経験から思うのですが、丸紅クラスの大組織になると、部門が違えば、別の会社みたいな空気感なのではないでしょうか。旭化成での私は別の部門の人と会うときはたとえ社内でも名刺交換することにしていました。組織風土が違えば、使う言語も、文法も違う。私は建材部門にいましたが、樹脂化製品部門の人と話すと、互いの話の内容が理解できずに困ったものです。
日本語で話していても、言ってる意味がわからない。部門が違えば、別会社も同様。だからこそ、大企業に勤めながらの副業は、社外に人脈を広げ、互いの知見を生かして新しい価値創造する力を予習できるまたとない機会です。
■「CUTE商品」の生み出し方
部門をまたいで人を集め、新しい事業を生み出すプロジェクトを、クライアント先でやったことがあります。なかなかうまくいきませんでした。「うまくいかない」理由は、プロジェクトの進め方でも、参加者の意欲や意識でもなく、「社会が成熟化したことによる購買動機の変化」にありました。
社会が戦後日本の高度経済成長期であれば、「ないと困る商品」(「MUST(マスト)商品」と呼びます)を作れば売れました。三種の神器、テレビ、冷蔵庫、洗濯機のように、生活に必需のMUST商品を企画し販売する秘訣はシンプルです。わかりやすい「解」があります。即ち、他社より低価格にしてたくさん売ればいいのです。需要予測もやりやすかった。「普及していない白紙」を埋めていけばいいのですから。
ところが、先輩たちのおかげで社会が成熟し、「欲しいものがない」社会が実現しました。もう、白紙はありません。糸井重里さんの秀逸なコピー「ほしいものが、ほしいわ。」。このような社会だと、「かわいい!」「何これ!?」「一度体験してみたい」という商品が求められます。MUSTに対し、「CUTE(キュート)商品」と呼びます。なくても困らないけど、出会ってしまったら欲しくなる。そんなCUTE商品を開発するのは難しい。消費者は気まぐれで、何が当たるかさっぱり予測不可能です。
だからこそ、過去の延長線上には解がないと腹をくくり、他部門の「異見」をぶつけ合い、新しい視点を生み出す必要があります。
■まず自分が遊んで、発想を広げる
CUTEな製品・サービスを生み出すためには、まず、自分自身が遊んでいる必要があります。難しい顔をしてパソコンに向かっていては何も生まれません。
週に休みが3日取れるのであれば、旅に出るとか、映画や観劇、取材のために積極的に社外へ出るのがよいでしょう。例えば、バンジージャンプというのがあります。あれこそ、CUTE商品の最たるものです。なくても生活に困らない。でも、一度体験すると、生涯のよい思い出になる。一体誰が思いついたのでしょうね。バンジージャンプのような、とんがった商品こそが、これからの社会には求められています。
そして、企画は本やネットの情報からではなく、人から生まれます。セカンドキャリアに転身してからも、これは変わりません。