総合採用担当を肉体労働から解放する──HERPが目指す「採用2.0」の世界
生産年齢人口は年々減少の一途をたどり、それに伴い、有効求人倍率は年々上昇。日本はかつてない「人不足」に苛まれ始めている。こうした時代ににおいて、いかに「優秀な人材」を採用できるかが、企業の成長を左右するといっても過言ではない。採用担当の価値が向上していくのは目に見えた事実だろう。
AIによるエントリーシート判定など、データドリブンな採用設計が世間を賑やかにするが、その実態は人間の採用担当者がもともと人力で行なっていた作業を、機械が代替しただけにすぎないのが現状。つまり、本質的に新しい「価値設計」を行なったとは言えないのが実態だ。
「日本の採用担当は肉体労働化している。採用担当が戦略的な採用活動にフォーカスできるようにするためには、ルーティンワークしがちな事務作業は自動化しなければならない」
そう語るのは、求人媒体と連動したAIリクルーティングプラットフォーム「HERP」を立ち上げた、庄田一郎だ。HERPは求人媒体と自動で情報を連携するため、候補者情報の自動取得、候補者とのメッセージの一元管理、募集記事の一括投稿などが可能となり、採用担当が抱える多くの事務作業が自動化される。
また、HERPは採用における情報をもっとオープンにしていくことで企業の採用業務における合理的な意思決定をサポートする「Open Recruiting API構想」を提唱。本構想に共感した石黒卓弥(メルカリHRグループ)、河合聡一郎(ReBoost代表取締役社長)、高野秀敏(キープレイヤーズ CEO/代表取締役)ら8名をHERP PARTNERとして迎え、「Open Recruiting API構想」の実現を目指す。
リクルートで新卒採用担当、エウレカで中途採用を歴任してきた庄田。彼はなぜ、HERPを立ち上げようと思ったのか? 彼の言葉から見えてきたのは、いまの採用担当の価値観をアップデートする「採用2.0」の世界だった。

ー庄田さんは、リクルートやエウレカで採用担当をしてらっしゃいました。HERPを立ち上げるにあたり、日本の採用市場のどんなことに課題を感じたのでしょうか?
庄田:日本の採用には「母集団形成」という負の一面があります。母集団形成の考え方を簡単に説明すると、「応募件数から内定数を逆算する」という考え方です。応募が10人ある場合と、100人ある場合では、その中に含まれる「優秀な人材」の量は違う。つまり、新卒なら「東大生に何人エントリーしてもらったか」、中途なら「マッキンゼー出身からのエントリーが何件増えたか」が採用担当の目標となっているんです。
個人のキャリアが多様化し、企業の採用の役割が変化した現在でさえも、求人媒体のビジネスモデルは変わっていない。率直に言えば、リクルートが1962年に「企業への招待」を出した頃から採用市場に多少の変化はあっても、人事は、求人票を作成・アップデートし、候補者のエントリーを待ち、「入社」があった場合に支払いが発生するという点で変化はありません。
正直にいうと、僕はリクルートで新卒採用を担当していたとき、「良い採用を測る基準が何か」を常に考えていましたが、正解がわかりませんでした。たとえば、採用イベントを設計した場合「何人応募があり、応募者の中に内定者が何人いたか」を上司に報告する指標として測りますが、それが本質的な価値なのかというと難しい問題です。
ー人事としても「内定させること」が目的になっているということですか。
そうです。たとえしっかりした理由を持って「ソニーに行きたい」と語る学生がいても、何回もご飯に誘って口説き落とします。でも、本当にその子のためになっているかどうかはわからない。僕はリクルートが大好きですから、「大好きなリクルートのことを一方的に話しているのだ」と考えて日々学生さんとお話をしていました。
だから、候補者を「口説いて入社意思決定させられる人」が採用担当になりやすい。採用担当にクライアントと交渉して契約を獲得してくる営業出身の社員が多いのは、それが理由です。結果として、地頭や容姿がよく、交渉力が高い人たちは採用担当として成果を出しやすい仕組みなんです。
本来、採用担当の本質的な目標は「採用した人材が会社で成果を発揮したとき」に測られるべきものです。たとえば、IT業界では「ひとりの天才エンジニアが20億円の利益に貢献する」のはよくある事象です。
逆に、どんなに優秀でも入社して3ヶ月で辞められてしまったらかけた費用をドブに捨てるようなものです。「一人当たりの採用単価がいくらに抑えられたか」という議論に採用部としては価値がありますが、会社全体としてはそれだけを語っていても意味がありません。

ーこれからの採用担当には「経営視点」で考えることが求められそうです。
とはいえ、現状の採用担当に「戦略を考える時間がほとんどない」というのが現状です。
まず今の一般的な採用担当がどういう仕事をしているかを説明すると、実際のところ「作業」がほとんどです。中途採用の場合、求人票を媒体の管理画面上で作成ししたり、人材紹介会社に共有をしたりして、応募が来るのを待ち、来たら面接をする。日々の業務は、求人票を作成・アップデートしたり、候補者の情報をエクセルに転機したり、面接の日程や面接官、場所の調整です。
昼間は面接や説明会、夜は候補者を口説き落とすための飲み会、その後オフィスまで戻ってデータを打ち込む。応募経路・候補者数が増えるほど作業にかかる時間が増えていくので、採用担当業務は休まることがないんです。実質、「肉体労働」と言っていいでしょう。
ー目の前の仕事に追われてしまい、本質的な業務に割く時間がそもそもない、と。
本来、人事は一番「企業の健康状態」をフラットな目線で見ることができる存在です。経営者、社員、求職者、と普段から接する人が多く、それぞれの「現場」を分かっている。組織戦略を立てるための材料となる情報を一番持っているんです。
ただ、採用の価値を可視化しようとしても、そのために必要なデータをエクセルやスプレッドシートで集約し、マクロや、機械学習を用いて分析し、それを経営戦略へ転化することができる採用担当は、もはや「野球におけるイチローを探し出すようなもの」です。いないわけではないですが、ほとんど「存在しない」に等しい。天才エンジニアを探すより難しいとさえ、思っています。
ー「採用業務の可視化」にHERPが持つ可能性があるということでしょうか?
そういうことです。「良い採用」をするために測る指標はたくさんある。たとえば求人媒体での文言のABテストや、職種ごとに最適な媒体・エージェント・リファラル等の投資対効果を可視化するなど、実験できることはたくさんある。つまり、「データ」を集めるだけで採用力は底上げされる。
採用も広告を使って行う以上、マーケティングですから、データを駆使した採用の「グロースハッカー」がいて然るべきです。「採用目標に対して、何にお金を使うのか?」をポートフォリオとして組み、採用戦略を数字に基づいて出せるようになる。
アメリカではHRテックが進んでおり、今まで定量化できなかった多くの項目が数字で可視化されています。社員の会社への従属度を測る「エンゲージメント・マネジメント」、社員の定着度や満足度を測る「ピープル・アナリティクス」、健康状態を把握する「ヘルスケア・マネジメント」など、人材にまつわる課題をテクノロジーで解決する手法が確立されつつあります。
たとえば、採用面接で「あなたはデータ的にこの会社では何%の確率で、健康状態・満足度が高い状態で働けます」と示せた方が求職者も安心します。
「天才採用担当」がいなければ、採用チーム全体の採用力を底上げする必要があります。正しいデータを集めることさえできれば、それに基づいた戦略設計ができるようになります。今の採用担当はそもそも「データを入力する」ことに時間をとられている。そこを機械で代替するだけでも、「採用の基礎力」の底上げが図れると思っています。

ーHRテックが普及すると、日本はどのように変わっていくのでしょうか?
最終的には、HRテックが日本人の「ブランド主義」を棄却する一歩になると思うんです。日本人は「元グーグル」や「東大生」といったような肩書きに弱い。
現在の中途採用市場は、前職の給与水準を元に転職後の給与を決めることが多い。したがって元大企業の社員の給料は、そのブランドだけで給与が決まることもあるでしょう。そうではなく、「どんな会社でどれくらいの影響力を持つ業務をし、何億円の事業価値を生んだか」という「価値」をベースとして測る採用をしなければいけません。
新卒でも同じです。「上位校学生を何人採ったか」ではなく、「誰のどんな能力を期待して、事業にどんな価値を生んでほしいのか」を定める必要があるでしょう。
新卒一律で、給与水準や能力への期待値を決めなくても良いと思うし、インターンや入社後のパフォーマンスを見て、お互いに納得のいく給与条件をすり合わせて行く形でもいい。「優秀さ」を測る指標は多様にあると思っています。
後編では、「Open Recruiting API構想」に共感し、HERP PARTNERとなった石黒卓弥、河合聡一郎、高野秀敏との対談をお届けする。