総合社員満足を訴えるからこそ上場企業の内定を蹴ってでも入社してくれる
今春19名、昨春13名が入社 社員全体で70名弱の会社で
企業にとって、特に中小企業にとって、新卒採用は事業継続、事業拡大に大きな影響を及ぼす課題、この春の採用シーズンにどう対処すべきか? と頭を抱える経営者も多いと聞きます。
その社会問題とも言える新卒採用で、いわゆる営業系会社でありながら、毎年採用計画通りに採用ができていて、内定辞退も少なく、さらに若年層社員の退職も少ない会社があります。不動産オーナーが主たる顧客であり、「賃貸マンション経営のキャッシュフロー最大化支援」を事業の柱に捉えて活動する、ブロードエンタープライズ中西良祐社長に話を聞きました。
「うちの会社の事業に興味を持って入社してくる大学生は皆無、どんな仕事をするかはほとんど理解せずに入社してくる感じなんです」と笑顔で話す中西社長。まずは同社の事業の内容について。

全国で賃貸マンション・アパートの経営をしている「オーナー」、「大家さん」が同社にとってのお客様です。同社のスローガンにある、「ひとくふうで笑みを」。具体的には、入居者が喜ぶサービス、「入居者無料インターネット設備」の設置・販売を中心に、賃貸経営における「コスト」を削減するサービス。
また、オーナーが所有する賃貸物件の付加価値をアップするサービス、ITを駆使して、「賃貸経営ネット」の運営と、オーナーへのお役立ちを、リアルとネットを融合した事業展開をしています。
入居者無料インターネット設備について、現在全国約3000棟、7万5000室に展開しています。大型マンションから、中々設備投資がしづらい戸数が少ない小規模アパートでも導入が進んでいます。その背景には、少子高齢化・供給過剰な新築物件・物件の老朽化による空室率の増加が挙げられます。
コスト削減をオーナーに提案している同社、電気代の削減、ガス料金の削減、保守点検費用の削減、損害保険の見直しをすることで、オーナーのみならず入居者が喜ぶサービスを提供しています。電気代の削減には、照明のLED化、新電力会社と連携し、マンションの共有部の削減から各戸専有部の削減、プロパンガス、都市ガスの削減〜ガス設備の設置、エレベーター、キュービクル保守点検費用の削減等々、自社のノウハウだけでなく30社近くの連携企業と提携を結び、オーナーのコスト削減メニューを今後も増やしていくそうです。
賃貸マンションの付加価値アップサービスについては、防犯カメラ、宅配ボックス、オートロック、民泊運用管理代行、家賃滞納回収代行、自動販売機、外装・外壁工事、各戸のスマートロック化、24時間駆けつけサービス、ハウスメーカー・デベロッパー・建設会社紹介、賃貸物件設備のIoT化等々と幅広く、物件の差別化、入居率の向上を提案、オーナーが喜ぶ価値提供を行っています。こちらも30社程度の企業がこの連携に関わりサービスを提供しています。
起業当初はどうだったか? 事業・採用について
起業当初から今の事業であったかと言いますとそうではなかったそうで、2000年創業時はNTT西日本の代理店として回線販売を行い、通信機器やOA機器の販売、エリアも広がりNTT東日本の業務を受託。起業当初の3年は苦しい経営基盤でありながらも、販売力に定評があったことから、社員も増え、人数の最盛期では百数十名となっていました。給与体系は歩合給に偏重し、採用は中途採用のみ。会社としては業績も堅調だったそうです。
その後も新規事業として、EC事業をスタートさせ、子会社で不動産事業、エステ事業と事業領域を広げていきました。ところが、起業から7年ほどが会社は順調でありながらもなにか違和感を持ち始め、事業や社員について真剣に再考する期間がこの頃にあったそうです。
- 通信事業者として一流になりたいか? → 極めるとNTTになりたいのか?
- IT企業として躍進したいか?
- 不動産マーケットの中で管理会社になりたいか?
このような自問自答を繰り返すうちに、賃貸マンションオーナーの課題解決、空室対策ができるコンサルティング会社を目指すこと、そこに事業の方向性を絞ることに決めました。そこから、新規事業であったEC事業・エステ事業・不動産事業、更に事業の主力であったNTTの回線販売事業も大幅に縮小することに。
同時に、歩合制&中途採用中心であった雇用形態も一気に変革し、歩合制の縮小、新卒採用のみに大転換への道を選択しました。結果、30人以上が退職、売上の減少としたものの、覚悟を持って取り組んだそうです。
家族経営を目指したい
中西社長はよく周囲に、「人生の大半の時間を過ごす職場も家族的な環境を創出しなければいけない」と話しています。前述の事業の方向性を変革とともに行った、雇用形態の大変革こちらも同時に行った背景には中西社長の生い立ちが大きく影響を及ぼしているそうです。
ご両親が共働きで、わりと裕福な家庭に育ったと話す中西社長。転機は小学校5年の時、両親が突然離婚することに、その状況下であれば、父親か母親か何れかに引き取られることになるのが普通ですが、双方から引き取られることなく、年金暮らしをしていた祖父母の下で生活をすることに。その頃、小学生ながら、家庭の温もりに恋い焦がれ、憧れて、両親との再生活を望みましたが一度も実現することはなかったそうです。自身の強烈な体験から自身の会社も温もりある家族的な経営を目指したい、新卒で入社する親御さんから安心し、喜んでもらえる会社にしていきたいとそのためには抜本的な変革をすると決意したのが、事業の大転換と同時だったそうです。
両親がいない中で育った中西社長ですが、自立することには役立ったと話します。相談するべき親がいなかったおかげで、何でも自分で考え意思決定する「癖」が早い段階で見についたことが良かったと。大学時代はその影響からか、飲食店の経営を友人と共同で行って事業家の片鱗を表します。就職活動にはあまり熱心になる時間もなかったそうで、大学卒業後は、100%歩合制の教材の訪問販売会社に入社、当初から実績を叩き出し、常に10位以内のトップ層にいたそうです。
肩書もスピードに乗り、2年の最速で係長へ、ただ次の課長になるには入社後10年というルール、この決まりに納得いかずに転職。次に入社したのがNTTの代理店、こちらも「営業系」でした。社員数120名ほどの会社で、入社1 カ月で1位になる実績。ただこの会社の社長との意見の食い違いから退職することに。そこから独立起業の道を選択することになったそうです。
会社説明会参加者数が採用の成否を決める
この参加人数が最大の注目点だそうで、この人数に対する、一定の傾向値が決まっており、内定の人数の計画を策定する際は、まずこの説明会参加者を確保するために会社を挙げて取り組んでいるそうです。この採用の活動の総責任者は中西社長であり、全ての会社説明会(2017年度は19回)に登壇し、学生に語りかけるそうです。
他の会社と自社との採用スタンスの違いについてお聞きしました。
「どの会社さんも、学生に対して伝えているのが、営業系であれば『売り上げた人』→『会社に収益をもたらす』→『会社から当人にインセンティブがある』。内容に違いがありますがこの循環について話しているだけ。採用できない理由がありきたりとなるのもわかる気がします。 いわば競争社会についての解説をしている感じ。当社ではその全く真逆の話し、『家族経営』→『家族だからクビはない』→『協力しあう、助け合う』。この循環であること。協力する会社、社会を共に創りましょう。と話しています」
その結果、2015年5名、2016年7名、2017年13名、今年19名と順調に採用が推移しています。この5年での退職者は5名、営業系の会社では低い数字に感じます。
さらに「大人世代が疲弊している中で育つ新卒世代には、 昨今のSNS、インスタグラムの発信全盛の風潮を見ていると、この世代が心を動かせている現状がある、そこでのキーワードは『繋がり』、『受容』、『共感』。このようなことを大事にしているからこそ、インセンティブ偏重でなく、助け合い・家族、社員満足(ES)を訴えるからこそ上場企業の内定を蹴ってでも入社してくれる素質ある学生が入社してもらえていると感じます」と中西社長は話します。
これだけ採用に時間と労力を掛けている同社ですが、採用コストについてもお聞きしました。「1人の新卒を採用するコストはだいたい30万円程度、そこを目安にしています。金銭的コストより、見えないコストである説明会開催の工夫、選考フロー、面接質問内容の精査、経営理念を徹底的に話すこと、何を伝えるか? を考えながら、仕事の厳しさも話し、やさしさ、思いやり、困っている人を助けられるか? 自分の数字だけ評価されることに興味がある人は他の会社に行って欲しいとストレートに伝えています。いかに価値観を共有できる人に面接に臨んでもらえるか、そこにフォーカスしています」と、ここまで採用を自らのミッションとして動く経営者も少ないのではと感じます。
徹底的な家族経営
採用時期だけ家族経営を標榜して終わるのでなく、徹底的に社員と議論し、家族経営に取り組んでいる現状についてもお話を伺いました。
「当社の家族的経営を実践していく中で、『家族だからこその福利厚生』を大事にしています。それを社員に分かりやすく見える化しているのが、『ブロードエンタープライズの家族的経営・Thirtyone System』と『ブロードエンタープライズの行動指針・スマイルブック』の存在です、家族経営についての社内制度をThirtyone Systemとスマイルブックを活用することで社員全員に浸透できるようになりました」と中西社長は話します。
Thirtyone Systemについて
31項目の福利厚生制度を掲げており、「いのちだいじに編」、「しっかりやすめ編」、「みんななかよく編」、「みんながんばれ編」、「おかねはたいせつ編」と5つに分類されています。この内容についても少し触れたいと思います。
「いのちだいじに編」→ 社員の医療費の個人負担分を会社が一部負担するもの、社員のみならず配偶者やそのお子さん、飼っているペットも家族とみなして。また予防接種の費用負担や健康診断の法定健康診断以上の健診に掛かる費用を負担、防災グッズを4年に1度支給する制度も。
「しっかりやすめ編」→ 休暇制度には4項目、アニバーサリー休暇、チャリティー有給休暇制度、マネージャー休暇、ゆとり休暇を設けています。チャリティー休暇は、社員がチャリティーに参加する等の休暇ではなく、社員が有給休暇を取得すると、会社がユニセフ等の慈善団体に募金するという制度。有給休暇を取れば世の中の役に立つという制度だそうです。
「みんななかよく編」→ 社員全員が仲良くできるように、「ワッショイ」という恒例行事があるそうです、これは、毎朝の朝礼の最後に、社員の誕生日やお祝い事をハイタッチで祝福するそうで、この実践で全員が気分良く始業に就けているそうです。また「サンキューセレクト」こちらも朝礼時に2名の社員がメッセージカードを作成し「ありがとう」をサプライズで直接他の社員へ伝え、身近な社員同士でも感謝の気持ちを忘れず、言葉で表現する習慣化を行っています。さらに中西社長は社員及びその家族の皆さんに記念日にお祝いメッセージを自筆で書いているそうです。

「みんながんばれ編」→ 社員のスキルアップの資格取得に関しての奨励制度や、業務改善や新規事業の案を社長に直接提案できる制度。こちらは社内掲示板をシステム化し運用しています。その他資格取得お祝い金、社内図書館、社員表彰制度のアワードも開催、社員投票で決定しているそうです。
「おかねはたいせつ編」→ 給与体系で大事にしているのが、人生設計が出来るように定期昇給制度を1番に掲げ、手当関係も手厚く支給し、退職金制度、スマートフォン・タブレット端末無償貸与の制度も設けています。
社員数100名以下でここまでの福利厚生はなかなかできることではないように感じます。中西社長も収益性を重視するとここまでの対応にはかなりの決断が必要だったと話します。しかし、家族経営を目指す上で、大量の社員の離脱という痛みを伴ないながら、自身の想いだけでなく、理念浸透に共感して社員の皆さんが実際に家族経営に取り組んでいるからこそこの経営が成り立っていると感じました。この理念浸透に基本となっているのがスマイルブック、この活用を、朝礼〜研修まで日々の仕事に練り込まれるように落とし込んでいます。その結果価値観を共有し家族のような会社組織になっています。
カタチだけの社員満足ではなく、社員総和で実践しESある経営から、顧客満足のCSへ、その上での社会貢献を実践し本気で取り組む同社に今後も期待したいと思います。