顧客と長年寄り添うから社員採用に時間をかける

総合顧客と長年寄り添うから社員採用に時間をかける

ドイツの工作機械大手のギルデマイスター社と資本・業務提携を強化し、2013年に社名変更したDMG森精機。日本とドイツに合計1万人以上の従業員を抱える。事業拡張へと攻め続ける3代目の森雅彦社長にダイヤ精機の諏訪社長が、経営者としての姿勢と、人材採用・教育について聞いた。

DMG森精機の森雅彦社長(左)とダイヤ精機の諏訪貴子社長(写真:上野英和、以下同)

諏訪:森さんは、ドイツの会社と協業されていますが、世界経済の影響については、どう感じていらっしゃいますか?

:私が子供の頃はオイルショックやベトナム戦争がありました。昔から5年に1度くらいは大きな波がくるんです。うちは僕が小学生の間に3回は倒産しかけていますからね。それを乗り越えてきた。

気温だって、冬はマイナス2~3度で夏は40度近くになるでしょう。ある意味、気候変動のほうが怖いんですよ。為替も1ドル=80円から120円にもなる。気候だって変わるんだから為替もそれくらい動いて当然でしょう、そのくらいに思っています。

諏訪:器の大きさに驚いているんですけれど(笑)。

:アウトドアスポーツから体得したマインドでしょうか。

諏訪:アウトドアスポーツ?

:僕は、ヨットやスキーなどアウトドアスポーツが好きなんです。少ない休みの日に出掛けるのですが、そんなときに限って、風がなかったり天候が悪かったりする。自分が思うような、いい条件が揃わないのが当たり前なんです。ですから、その状況に対応しなければなりません。

インドアでいったん決めたら制限時間内にこれをやらなければならないという状況とは違います。

諏訪:経営者には、予測できない外部のどんな環境にも適応力が不可欠だということですね。

森さんは森精機入社前、伊藤忠商事で働かれていました。なぜ商社で働こうと思ったのですか?

:当時の商社マンは、トレーディングといって、ものの流れ、お金の流れ、文書の流れすべてに携わることができました。いわば経営者に一番近い仕事だったんです。

幼い頃から社長を意識

諏訪:社長になることを既に意識されていたのですね。

:幼稚園の頃から、社長候補の従兄弟たちと「俺が社長だ!」なんて遊んでいましたからね(笑)。

諏訪:プレッシャーはありませんでしたか?

森雅彦(もり・まさひこ)氏
1961年、奈良県大和郡山市生まれ。85年、京都大学工学部精密工学科を卒業後、伊藤忠商事に入社。繊維機械の営業に携わった後、93年に森精機製作所に入社。94年に取締役に就任し、常務、専務を経て、99年から現職

:なかったですね。父は、景気が悪いと機械はもうあかん、お前にチャンスはないから医者になれ、と言っていたんです。でも、景気が良くなるとやっぱり機械工になれと。そんな感じでしたから。

諏訪:反抗心はなかったですか?

:ありましたよ。家出して、1年間祖父の家から学校に通っていました。

諏訪:なぜ家出を?

:高校に入って勉強を休んだら成績が下がって怒られたんです。自分で理由も対策も分かっているから、焦らんでよろしいと口答えしたら、生意気や、出て行けと言われまして。

諏訪:強いですね(笑)。ご自身と先代とで違うところや、意識して変えた部分はありますか?

:あまりないです。違うのは多少英語ができることと、精密工学の基礎を勉強したことでしょうか。

諏訪:経営はどこで学ばれたんですか?

:今も勉強中ですが、経営の基本は伊藤忠商事で叩き込まれました。経営者として、約束を守ることや、実印の管理の仕方などは、子供時代に親から教わりました。

諏訪:実は、私が社長になって初めて機械の見本市に行った時、最初に声を掛けてくださったのが森精機の営業担当者だったんです。女性にも、偏見なく説明してくださる社員さんの姿勢が素晴らしいなと思いました。

:中小企業はご夫婦で経営している会社も多く、女性が決定権を握っている場合が多いんですよ。

諏訪:社員もお客様の状況を把握しているのは、きちんと教育されているからですね。

諏訪:人材採用について伺いたいのですが、森さんは今、右腕となる社員はいらっしゃいますか?

:右腕はたくさんいます。いなければ経営は成り立ちませんから。

諏訪:たくさんいらっしゃるのですね! うらやましいです。私は社長に就任して今年で13年目になりますが、ちょうど今、自分の右腕を育てている最中です。森さんの人材採用と教育の考え方を教えてください。

新卒社員の最終面接はすべて私が立ち会います

:大学卒業後、私は8年間伊藤忠商事で働きました。その間にリクルーターを経験しています。また、伊藤忠には「指導社員制度」と呼ぶ1年間の新人教育制度があるんです。私も指導社員として直属の部下をじっくり育成しました。こうした経験を通して、伊藤忠のように長く続く組織は、人の採用と教育に膨大な時間と労力をかけていることを学びました。

それで当社では新卒社員の最終面接はすべて私が立ち合うようにしているんです。

諏訪:全員!? 何人ですか?

:毎年、数千人の新卒社員の応募があって、その中から約100人を採用します。最終面接ではその倍の約200人と会っていることになります。会社経営においてはどんな人を採るかが最も重要だと思っているので、働いている時間の20%くらいは採用と教育に使っていますね。

諏訪:どのような基準で社員を採用されているんですか?

:我々の場合、一度機械を購入していただくと、数十年間のお付き合いになるので、お客様に気持ちよく添い遂げられる人材かどうかを見ています。

諏訪:コミュニケーション力を重視されているのですね。面接の時に必ず聞く質問はありますか?

:2015年から「あなたのライフストーリーを語ってください」という質問をしています。履歴書通りに語る人もいれば、「私は厳しい父のもとで育って」「父が忙しかったので祖父に育てられました」など生い立ちを語ってくれる人もいる。また、家族のことは一切語らない人もいます。答え方で人柄がよく分かりますよ。

諏訪:いいですね。私も同じ質問をしたいです。

:当社は社員を3つのカテゴリーに分けて採用しています。世界各国で仕事をするグローバル人材、特定の国でじっくり仕事をするナショナル人材、そして工場などでコツコツと1つの作業を極めるローカル人材。どれも重要な役割です。

面接では、その人がどのカテゴリーの仕事に向いているのか、適性を見極めています。

社長を目指して入社

諏訪:森さんは3代目ですが、次期社長についてはどのようにお考えですか?

:私たちのグループはドイツと日本に会社があります。ドイツでは現地の40~45歳くらいの社員が組織を牽引しています。彼らが60歳くらいになるまでこのまま頑張ってくれるでしょう。

日本では、今35~40歳くらいの優秀な人材をビシビシ鍛えているところです。例えば私が60歳まで社長をするとして、その後、65歳までの間にグループ全体の会長になるでしょう。その時に日本で次の社長を選ぶとしたら、今育成している35~40歳の社員の中の誰かだと思っています。

諏訪:この先の計画がきちんとあるんですね。

:今、45歳以上の社員は、私が社長に就任する前からいるので、私は直接は採用していません。彼らは次期社長には同族がなるのだろうと思って入社しています。

しかし、私が採用した35~40歳の社員たちには、「あなたも社長になる可能性がある」と伝えています。例え1万分の1の確率であっても、社長になる可能性があると考える人材が集まっていないと、組織は強くなりません。「ナンバー2でいいや」と思って働いている人の中からナンバー1を選ぶのは無理ですから。

諏訪:確かにそれによって働く時のモチベーションが全然違いますよね。面接の時から伝えているのですか?

:もちろん話します。それで会社全体が良い緊張感、競争意識に満ちています。

諏訪:素晴らしいですね。森さんは3代目でありながら、常に攻めていますよね。私も、守りは後退だと思うので、攻める姿勢が大事だと思います。後継者は先代の苦労を見ているので難しいことだと思いますが。森さんが攻めの姿勢を続けられる理由は何なのでしょうか?

:うーん。まずは、よく食べてよく寝る(笑)。そして、元気のある人と会うことですね。自分が使える時間は限られていますから。

諏訪:確かに(笑)。私も森さんに元気を頂きました。