総合転職先でご用心「やりすぎ管理」 中小企業で嫌われ者
経営コンサルタントとして参加した、クライアント企業での長時間ミーティングがやっと終わりました。席を立って職場に戻る参加者たち。それでもしつこく資料を見ている私に向かって先方の役員が一言、「先生、その資料、持って帰っていいですよ」。私は「ありがとうございます。では守秘義務の契約書はのちほど交わしましょう」と応じました。
コンプライアンスに一応、気を配った私。大して重要な書類でもなかったのですが、いまどきの大企業では、書類1枚持ち帰るにも注意が必要です。
すると、役員から意外な言葉が返ってきました。「いらないよ、契約書なんか。法務部と話すの、嫌いなんだ。俺、あなたが信頼できるって知っているから」
「そうですか」と、お言葉に甘えて、その場で資料をバッグに入れた私。さて、問題はそこからの帰り道です。まるで国家機密情報を運ぶかのごとく緊張した私の心境をおわかりいただけるでしょうか? 事務所でも書類は厳重に管理し、もちろん決して内容を人に話すことはありませんでした。
「あなたを信頼している」。この言葉は私の心にずしりと響きました(繰り返しますが、大した書類ではありません)。それは守秘義務契約よりはるかに強力なプレッシャーを私にもたらしたのです。
私はその役員さんが大好きです。ちなみに社内でも人望の厚い「親分肌」で有名。実はこの人の存在自体が不正行為に対する抑止力になっているのではないかと思うのです。
■大企業で増殖する「管理マニュアル」
「信用してくれたあの人に迷惑を掛けられない」あるいは「世話になった上司の顔に泥は塗れない」。上司が部下にそう思わせることができれば、不正や悪事は起こりにくくなります。このような「信頼」という名の抑止力は、契約書よりはるかに効き目があるからです。しかし、昨今の大企業はそんな目に見えない「信頼」ではなく、明文化された契約書やマニュアルに頼り始めました。
どちらであれ結果として不正が減れば問題ありませんが、最近の大企業では粉飾、偽装など、様々なルール違反が増えています。この背景には「信頼」という名の絆が失われてきたという事実があるように思います。
不正が起こった会社では再発防止策の名のもと、不正防止ルールが新設されます。不正が起こっていない会社でも、やはり予防的にルールをこしらえます。かくして日本中の大企業で、あれはするな、これはやめろと、細かく具体的なルールやマニュアルのたぐいが増え続けています。
私が見たところ、こうした不正防止のための「管理マニュアル」には不可逆性があります。厳しくする方向へはどんどん進むものの、いったん厳しくしたルールを「緩める・止める」のはたいへんに難しい。かくして大企業では時に「バカバカしい」とも映るルールが増え続けています。
■転職先でつまはじきにあうリスク
大企業においてコンプライアンスルールが厳しくなるのは仕方のない面があります。たとえば、上場企業は「人様のカネ(=株主が投資した資金)」で商売しているのだから、当然「預かった者の責任」を果たさねばなりません。自分の金ではなく、人様のお金で商売しているのだから、清く正しく、不正なく管理運用しなければならない。昨今のように企業不正が増えてくると、締め付けのルールや過剰管理はますます強くなります。
その事情はよくわかります。問題はそこで働く個人が長い勤務のうちに、その「過剰管理」を当たり前だと思ってしまうこと。この「過剰管理グセ」は、大企業を辞めて中小企業に転職する際、大きな問題となるのです。
大企業から中小企業へと転職する人にとって、大きな壁として立ちはだかるのが「過剰管理グセ」。あれほど過剰管理にぶつぶつ文句を言っていたくせに、いざ中小企業に行ってみると、その「いいかげんさ」が我慢ならない。「ちゃんとしましょうよ!」と叫んで中小企業の同僚から煙たがられるという事例が多発しています。このような過剰管理グセは立派な「大企業のしっぽ(=大企業時代に身につけてしまった習慣や考え方)」といえましょう。
人は「過剰管理」の環境の中で育ち、それが当たり前になると、「自由奔放」な雰囲気に耐えられなくなるのでしょうか。「細かい時間管理に耐えられない」と大企業を飛び出した人が、自分で独立してから「部下を厳しく時間管理する」という例を山ほど見ました。
■中小企業の気風に順応せよ
これから先、おそらく大企業の「過剰管理グセ」はますます強化されると思います。転職や定年で大企業から中小企業に転職する際は気を付けましょう。組織というものはそのサイズによって「いいかげんさ」が大きく違います。とくに上場企業及びそのグループ企業にお勤めの人は要注意です。皆さんの会社で最近「当たり前」の過剰管理は、決して「世の中の常識」ではありません。
ここを誤解すると、独自の環境で進化を遂げたガラケーならぬ「ガラパゴス・サラリーマン(=ガラリーマン)」になりかねません。ガラリーマンになってしまうと、外界に存在する中小企業へ順応するのが難しくなります。
組織を運営するうえでルールはもちろん必要です。ただ、ルールを振りかざし、すべてのものごとをキッチリと四角四面に処理しようとすれば、そこに必ずあつれきが生まれます。何ごとも「過ぎたるは及ばざるがごとし」。ルールと現実の折り合いをうまく付けたいもの。なかなか難しいですけどね。
細かいことで部下や我が子をガミガミと怒りたくなったら自問自答しましょう。自分は「この人の顔に泥は塗れないな」と、部下に思われる上司であるかどうか。自分は「この親に迷惑は掛けられない」と、子どもに思われる親であるかどうか。
そう思ってもらえることだけを心がけて、少々のことには目をつぶりましょう。今の世の中、いちいち目くじら立てていると、ストレスで胃がやられますから。