相互補完的な「モザイク型」の働き方へ。 ――多様な人が活躍できる「業務改革」「仕事環境改革」

総合相互補完的な「モザイク型」の働き方へ。 ――多様な人が活躍できる「業務改革」「仕事環境改革」

井上 総論的にはなりますが、まずは、豊田さんが最近感じていらっしゃることからお伺いできればと思います。

豊田 われわれの組織(リクルートワークス研究所)は、大企業を中心とした日本の主要企業の人事の方々との対話を重視してきました。これまで日本の社会は、大企業が何らかの形でリードしてきましたし、変革の先兵となってきた――というスタンスで取り組んできたわけです。組織としては今もスタンスは変わらないのですが、ただ個人的には、大企業にはもう変革の力はないのではないか? と、ここ何年も前からひしひしと感じ始めています。


井上 確かに、戦後から高度経済成長期を経て「失われた10年」といった言葉が定着する頃あたりまでは、まず大企業が何かを取り入れ、変革の先鞭を付けたところからテーマが立ち、社会が動くというところがあったと思います。ところが、最近は大手企業というと、メディアも悪い気がするのですが、どちらかと言えばいつも謝っていたり、不祥事を報道されたり、といった印象が強い。逆に、新しいものは、ベンチャーや新しい領域の人たちの話になっているところがありますよね。

豊田 正直、それは感じますね。ベンチャー企業・新興企業は、いつの時代もあったわけですが、それは社会的に言うと、「アナザーサイドに面白いものができている。これはこれでいいよね」という感覚だったと思います。そして、「やっぱりメインストリームが世の中をつくっているし、大企業が世の中を変えていく」あるいは、「大企業がイニシアティブをとらなければ……」という感覚は失われた10年の間にもあったし、われわれも議論していました。ところが、最近はベンチャー企業や新興企業が、ある意味でメインストリームになっていくような感覚を持っています。

井上 もちろん、大企業さんも当然チャレンジは続けていると思いますが、それが「未来に向かって行くぞ!」というよりは、何か「苦しみの中での英断」みたいな取り上げ方をされることが多い気がします。トヨタ自動車のようなナンバーワン企業でさえ、何か辛そうなニュースとして伝わってくるのが、ある意味、今の日本を象徴しているような気がしますね。
さて、それはともかくとして、今回は豊田さんからあらかじめ5つのテーマをいただいています。今の話から、半ば強引に(笑)第1のテーマ《多様な人が活躍できる「業務改革」「仕事環境改革」》に入っていきたいと思います。

豊田 個々の企業というより、マクロ文脈として、「人手不足」ということがありますよね。でも、人手不足と言いながら、実は働きたいけれど働けていない人はたくさんいる。もうあきらめて労働市場に出てきていない人たちです。「失業率の数字より実は大きなボリュームゾーンがある」というデータがあって、その状態は非常に望ましくない。
本当は、企業側がその人の持ついろいろな能力や知識といったものをもっと活用するための「業務改革」「仕事環境改革」に創意工夫をこらしていかないといけなくて、そうでないと、日本の今のポテンシャルは、どんどんシュリンクしていってしまうと思います。「リモートワーク」とか、就業時間の問題といった施策も大切だとは思いますが、それは手段のワンオブゼムに過ぎません。以前、当研究所では、『2025年 働くを再発明する時代がやってくる』というレポート出しているんですが、この中でも、働く人を社会的に増やしていかないと日本はジリ貧になってしまう、という話をしています。

井上 とても興味深く拝読しました。同レポートにはこうありますね。「これまでの人材の多様化は、雇用形態の区別など別制度下におくことで実現されてきた。しかし、2025年にかけては、多様な人材を職場レベルでインクルージョン(包摂)していかなければならない」――。いわゆる「モザイク型」の働き方ということですが。

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豊田 リクルートワークス研究所ができたのが1999年。その時から、われわれは「モザイク型社会」の実現を標榜していました。当時は、「多様な就業形態の人たちをもっと活かしていきたい。正社員時代は終わる」といった言い方をしていたんですが、今は、就業形態もそうですが、年齢ゾーンもあるかもしれないし、制約もそうだし、能力も嗜好もそうですが、「そうした多様な人たちをどうやって活かすか? どうやって多くの人々を働けるようにするか? と考えていった時に、フルタイムどこでも働く正社員中心のモデルはありえない。仕事そのものを細分化、再編し、多様な働き方を可能にしていく」という話もしています。
リクルートグループに「リクルートジョブズ」という、アルバイト、パート領域の人材採用を支援している会社があります。そこの実態を見ると、企業は求人をしてもなかなか人が採れないわけです。ではどうするかというと、《毎日8時間労働 × 何人》と言う仕事ではなくて、この仕事をもっと違う形に細分化して、ある部分を主婦に託し、ある部分をシニアにやってもらうといった形が考えられます。そんな方法を少しずつ提案して、今までは労働市場に出てきていなかった人に働く機会を提供するということを事業でもしています。

井上 必然から生まれるところというのはやっぱりあると思いますし、それが健康的な気がするのですが、理に適う人が採り切れないとすると、「時間限定でもいいよ」とか、女性社員の中で結婚・出産されて退職された人をどう戻していくかということにもなっていきますね。

豊田 リクルートグループが起点となり、今は100社以上の企業が導入している「ZIP WORK(ジップワーク)」という取り組みがあります。育児や介護などで時間制約を抱える人たちに対して、「フルタイムは働かなくていい。短い時間でもいいし、週数日でもいいから働きませんか?」というご提案しています。託している仕事は、補助業務、周辺業務ではなくて、プレインワークが多いのですが、逆に言うと、時間の制約があるそういう人たちを活かせない状況があるんですね。
今までの仕事というと、フルタイムで来てもらったほうが楽だし、割と長い時間働いてくれるパートアルバイトが前提だったという形の中でやっていたわけですが、それがかなり頭打ちになっている。そういう人材はいないわけです。そんな中では、ある意味で新しい働き方、いろんなモザイクの新しいピースを創造していくことが大事であって、その創造ができる企業が、より良い人を活用できるような形になっていくように思います。

井上 リクルートさんも自体も導入されていますが、いわゆる「テレワーク」についてはどう見てらっしゃいますか?

豊田 いろんな議論がありますよね。実際、その現場にいなければ仕事にならないサービス業など、ビジネス特性でリモートワークがあり得ない仕事も一部あると思いますが、多くのホワイトカラー業務では意外とそれなりにできるのではないかと思っています。いろんな企業の内情や、リクルート社内の現場の話を聞いていても、そのポテンシャルは相当あると感じますね。

井上 例えば、某外資系企業では、かなり前から、営業部隊はオフィスに出勤しません。僕らも、エグゼクティブサーチの候補者としてその企業の在籍者とはお付き合いをすることが多いのですが、彼らは週一回くらい集まるものの、基本的に自宅からクライアントへと直行直帰します。そうすると、新人からそういう育ち方をした方が30代になり、僕らに相談に来るときには、おっしゃることが2パターンに分かれるます。一つは、「慣れてしまっているからそういう勤務形態の方がいい」という人、もう一つは、「寂しい。同僚のいるオフィスに勤めたい」という人です。こういう勤務形態は大手では独特かもしれませんが、規模の小さい会社では、わりと存在していますよね。

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豊田 今おっしゃった「さみしい問題」ですが、私はすごく大切な話だと思っています。単純に、若い人がずっとオフィスにいたら育つのかというとそうではないわけですが、ただ、初期の仕事のやり方を身に付けていくときには、やっぱり先輩、グッドプレイヤーの観察が基本になります。今は、それぞれの仕事がブラックボックス化してしまって、PCで何をしているかわからないといったことはありますが、そうはいっても、何とはなしに「あれが売れてる〇〇さんだ」とその立ち振る舞いを見たり、ちょっとしたやり取りから学ぶ部分は絶対にあるので、個人的にはキャリアスタートの、自分の型をつくっていく時期に関しては、ロールモデルとなるような人を観察する機会や同じ空気を吸う時間をできるだけ与えてあげる必要があると思いますね。その時期におけるリモートワークがダメだとは言いませんが。

井上 新卒的なキャリアパスの時だったら若手時代はまずしっかり勤務をする。一人前で自立型で仕事ができるようになったら、出勤形態にはとらわれず、ある意味テクノロジーを使いながらやっていこう――。こういうやり方なら、リモートワークは有効な手段であり得るかもしれないですね。