総合採用で最も大切な資質は「業界経験」ではない
私は以前、急成長中のテック企業で人事部長を務めていた。会社では、数か月で300人もの従業員を採用したこともある。
ある日、社長から「知り合いの男性の履歴書を渡すので、良い採用枠がないか見てくれ」と言われた。「もちろんです。どのような経歴の方ですか?」と聞くと「私の通うジムの責任者だ」という答えが返ってきた。私も知るジムだ。大きく高級感あふれるあのジムの責任者であれば頭の切れる人物に違いないが、テック企業への転職は可能なのか──?
履歴書を見ると、彼はフィットネス業界で経験を積んでいた。私は上司に次のように話した。「ほぼ全ての会社に共通のことですが……採用責任者は誰もが、特定の仕事を専門とする経験者を採用したいものです。初心者向けの仕事であれば、未経験でも有望な候補者を採用するよう部署長を説得できますが、この給与でこの履歴書だと、どのマネジャーもためらいますよ。『これだったら経験者がいるはずだ』と」
ジムの責任者についてマネジャー陣に打診したところ、採用が決まった。その後、新たに入社した彼は素晴らしい能力を発揮し、数回昇進を重ねた。私たちが最重要だと考えがちな業界経験は、実は全く関係がないことが分かった。
業界特有の考え方や専門用語は習得できても、精神の成熟度や信頼性、その場での問題解決能力などの資質は身につけられない。教育に時間と金を投資するのであれば、手順や組織の構造など、会社や業界に特有の分野にしよう。過去に同じ仕事をした経験があるからという理由で採用を決めないこと。
採用時に最も注意すべき点は、候補者がありのままの自分に自信を持っているかだ。といっても、流行を追いかけ、虚勢を張るような生意気な人物のことではない。威張った態度は、本当の自分の弱い部分を隠すためのものでしかない。見せかけの自信にだまさないこと。
あなたが人との対立を恐れていれば、自分の決断に意義を唱えそうな人の採用をためらうだろう。しかし、有能な従業員を採用してもあなたの立場は危うくならない。逆に、より良い決断を下せるようになるだけだ。こうした従業員は部署を回すあなたの重荷を軽くし、欠けているパズルの隙間を埋めてくれる。
私の昔の上司はいつも「自分の弱みをカバーする人を雇え」と言っていた。細かくて厳格な人なら自由で創造的な人、忘れっぽい人であれば時間に正確な人を雇う、などだ。
質問に対して教則本に書かれているような答え方しかできない人ではなく、見識にあふれた質問をしてくる人を雇おう。採用候補者の考え方を確認するには次のような質問をする。
1. この職務をより深く理解するため、会社や部署、ポジションや私について知りたいことはありますか?
面接官の質問に対する答えを聞くより、候補者から質問してもらう方がはるかに多くを知ることができる。
2. この職務にどうアプローチしますか? 取り組もうと考える問題やプロジェクトを3つ、優先度順に挙げてください。
3. 弊社には大きな機会点がある一方、課題や問題も存在します。現時点でうまく行っていることや、逆に改善すべきことは何だと思いますか?
従業員を人間として採用すれば、全ての面接で会話の質が変化し、新入社員や企業文化の質も向上する。箇条書きにした必要条件ではなく信頼を基に人を採用すれば、職務内容記述書を「効率的な機械を作るための条件」のように考えることもなくなる。
私たちは自分に自信と信念を持ち、人間的な信頼関係を相互に築くことで、初めて素晴らしいチームを作ることができる。チームを結束させ、組織を前進させる原動力になるのは信頼だ。
採用時に、特定のツールの使用経験が2年か3年かという問題や学歴を重視しないこと。履歴書の裏側にある人物像に注目し、ストーリーに耳を傾けよう。ストーリーを聞けば、相手の今までの経緯を理解できる。
また、あなたのストーリーも共有し、どのような問題で助けが必要かを説明しよう。「そんなことが問題なんですか? 本当に私の助けが必要ですね」と言う人ではなく、あなたの話を聞いて理解してくれる人を雇う。問題への解決策がすぐに用意できなくても、あなたと新入社員、チームの全員で答えを見つけられるだろう。
必要とする特性を全て備えているが、採用広告に載っている「必須要件」を全く満たさない人を雇っても絶対に後悔しない。こうした要件の大半は実際、全く重要ではない。
高度な訓練を受けた専門家だけを採用するとうたっていても、現実はそうではないはずだ。ある程度知性のある人ならば、ほぼ全ての事務職(技術的・科学的でないもの)を数か月で習得できる。
自分自身を理解し、恐怖心を理由として管理職に屈することのない人物を多く雇えば、あなたの会社は安泰だ。