総合「社員教育」が抱える矛盾 “独学”こそが成長を生む
企業にとって“人材は宝”である。優秀な人材がいるか否かで、その会社の将来が決まる。だから、どの企業も採用した社員の成長を願っている(はずだ)。しかし、「その宝(人材)をどう磨くか?」という社員教育の問題は一筋縄ではいかない。
テレビ業界に入ってはや16年。私もこの年齢になると、さすがに内定者や新入社員への講習を任されることがある。20歳近く年が離れた彼らは、必ずこう尋ねてくる。
「佐々木さんが新入社員のころは、どんな感じだったんですか?」
この素朴な質問にいつも「どうしよう、どこまで本音で語っていいのか……」と答えを躊躇(ちゅうちょ)してしまう。今、40歳の私は、入社当時の23歳の自分が何を感じ、何を考えていたかを鮮明に覚えている。
まず、入社後に配属された部で、周囲の先輩たちの仕事ぶりを見た私は、「なんだか、やたらと忙しそうだな」と感じた。誰もが引っ切りなしに電話で誰かと話していた。朝、徹夜で編集を終えてボロボロに疲れ切った顔で「おはよう」と声をかけられたりもする。「そうか、これが番組制作というものなのか!」と感じたりしていた。
ところが、ほどなくして私は疑問を抱くようになった。1日中、オフィスで忙しそうにしている先輩たちが作った番組を、私自身は正直に言って「ものすごく面白い」とまでは思えなかったのだ。誰もが一生懸命、仕事をしている。それなのに、出来上がった番組は普通。この“大いなる矛盾”をどう捉えたらよいのか、新入社員の私はただただ困惑した。
「面白い番組を作ろうと必死に目の前の仕事をこなしても、さほど面白くない番組が出来上がるなんて……。なんてこった。これでは“無間地獄”みたいじゃないか」
そして、入社したばかりの私は、こう考えるようになった。
「忙しそうな先輩と同じ仕事の仕方、時間の使い方をしても、10年後、自分も同じようになるだけだ。出来上がった番組もそんなに面白いわけじゃない。だったら、まったく違う仕事の仕方、時間の使い方をしたほうがいいんじゃないか?」
入社わずか3カ月で異動、その後の経験が今の自分を作った
今、振り返っても、生意気としかいいようがない新入社員だと思う。先輩たちにニコニコ愛想笑いを浮かべながら、腹の底ではそんなことを考えていたのだ。当時の私は、何の実力もノウハウも人脈も持ち合わせていない、ただの若造だった。だが、素直な“違和感”に従って、自分なりに悩み抜いて「最も確実なことは、別な道を歩むことだろう」と結論づけた。具体的には、できるだけ空いた時間を「勉強(学び)」にあてようと考えた。
それから私は、新入社員なのにしょっちゅう自席を離れるようになった。白板にはいつも「1資(1階・資料室)」と書いた。NHK放送センターの1階には、過去の番組を視聴できる資料室がある。時間があればそこへ入り浸り、過去の名作番組を見倒した。「まるで、無料で借りられるTSUTAYAみたいだなぁ」といつも胸を躍らせて“独学”に励んだ。
「新人」といえば、先輩に気を使い、言われたことをすぐにやるような人材が重宝される。それとは正反対の私は、明らかに「変なやつ」と思われていたのだろう。配属からたったの3カ月で他の班へ異動させられた。こんなに短期間で異動を命じられるケースは後にも先にもない。その後も20代は異動の連続で、まるで“根なし草”のようだった。
だが、そのおかげで、ジャンルやスタイルが全然違う番組制作を数多く経験できた。そうしたキャリアを積んでいなければ、自らセットデザインを描いて世界観ごと構築したり、CGの絵コンテを描いたり、それらをドキュメンタリーと融合させるような一風変わった番組を作るようにはなっていなかっただろう。自分の番組には、ある意味、自分の歩んできた経歴が反映されているように思う。
仕事の仕方も業界の常識にとらわれないようにしている。取材のアポイントや仕事の連絡の大半はメールでも十分できるので、日中、誰かに電話を頻繁にかけることもない。そもそも電話は相手の時間を奪うので、四六時中、電話で話しているテレビマンはどうかと思う。取材相手にじっくり話を伺う場合も、直接会って話を聞いたほうがいい。
編集は手間のかかる作業だが、徹夜をすると翌日の編集に支障が出る。マラソンのように一定のペースで効率良く進められるよう、徹夜はしないことにしている。いろいろと自分の例を出すのはおこがましいが、これから業界を担っていく若手は、あまり前例にとらわれずに自分のスタイルを模索し、実践していってほしいと思う。
改めて考えると「社員教育」というのは矛盾した面を抱えているように思う。会社や先輩に教えられた通りに育った社員が、もし“優秀な人材”になれるのなら、世の中にはもっと優秀な人材が溢れかえっているはずだ。だが、現実はそうではない。
真に優秀な人材を育成する社員教育とは、「教えられた通りでなく、独自の方法論を実践できる人材になることを教える」ことだと思う。手取り足取り教えてもらわなくても、自ら考え、行動できる人材でなければ、会社の将来を託せるほどの優秀な人材ではないのだから。
元も子もない話のように聞こえるかもしれないが、「じゃあ、どうすればいいのか?」と問われれば、以下のビートたけしさんの金言がすべてのように思う。
「勉強するから、何をしたいか分かる。勉強しないから、何をしたいか分からない」(『余生』北野武著/ロッキングオン)