総合メガバンクもLGBTを「認知」 五輪に押され企業動く 福利厚生から商品・サービスまで、経営トップの判断が左右
企業による性的少数者(LGBT)への対応ルールが急速に進化している。社内制度にとどまらず、商品・サービスでもLGBTの当事者から「高い壁」と見られていたメガバンクが動き出した。追い風となっているのが2020年の東京五輪・パラリンピック。五輪憲章は性的指向による差別を禁じており、企業の受け入れ体制作りが一段と進みそうだ。
10月11日、LGBTと職場の問題を考えるイベント「ワーク・ウィズ・プライド(WWP)2017」が都内で開かれた。同日はLGBTが自らについて告白する「カミングアウト」を祝う国際的な日。当事者らが自らの体験や現況を語り、企業の人事担当者ら500人が聞き入った。
「かつて『御社は外資だからできる』と言われたが、フェーズは変わった」。日本IBMで人事・ダイバーシティ企画を担当する梅田恵部長はこう指摘する。同イベントに12年の第1回から関わったが「このテーマに関心を持ち取り組む国内大企業が飛躍的に増えた」という。経団連も5月に企業のLGBT対応を推進する提言を発表した。
法律関係者も活発に動いている。東京弁護士会は15年6月に有志の弁護士による「LGBT法務研究部」を立ち上げた。部長の五島丈裕弁護士は「既存の法がLGBTを想定していないために起きていた権利侵害がようやく問題視され始めた」と話す。
現状では厚生労働省がセクハラ関連指針に「同性間も対象」と明記している以外、労働法など企業に直接関係するルールにLGBTについての規定は見られない。ただ20年に東京五輪・パラリンピックを控える。五輪憲章は性的指向による差別を禁じており、五島氏は「20年を目指し体制づくりを始める企業はさらに増えるのでは」とみる。
では具体的にどう対応するか。一つは福利厚生など社内制度の整備だ。WWPはLGBTの人が働きやすい企業を評価する指標を策定、2回目の17年は109社が応募した。運営委員会の川村安紗子氏は「配偶者手当などで同性パートナーを登録できる動きの広がりが目立つ」と評価する。
企業に大きな影響を与えたのが自治体だ。15年11月、東京都渋谷区は条例に基づき、結婚に相当すると認めた同性カップルに「パートナーシップ証明書」の発行を開始。公正証書を発行の条件とし、すでに23組に交付した。他の自治体にも条例によらない証明や宣誓の制度があり、17年6月には札幌市が政令指定都市で初めて導入するなど全国に広がりつつある。
法的拘束力はなくても公的な手続きの裏付けになるため、特に渋谷区の証明書は企業の商品・サービス面の対応に変化をもたらした。証明書を条件に通信料金の家族割引や保険受取人指定の対応をする動きが相次いだ。
LGBTの当事者から「最も大きな壁」とみられていた業種も動き出した。メガバンクだ。みずほ銀行は7月、同性パートナーでも共同で住宅ローンが組めるよう商品を改定した。
住宅ローンは本人や家族が長期間住む条件で低利で融資するため、従来の社内規定では法律上の配偶者が前提だった。内規を変更し、まず7月に渋谷区の証明書を条件に「婚姻に準ずる関係」とみなすようにした。さらに10月19日に居住自治体にかかわらず同行の定める公正証書などを提出する場合に広げた。
公的な証明書がなくても自社基準で対応する企業も増えつつある。先駆け的な取り組みとなったのがライフネット生命保険だ。15年11月、同性パートナーの生命保険の受取人指定を始めた。条件は同社指定の関係確認書の提出でよい。
導入までには約3年をかけてリサーチを重ね、リスクなどを検討した。
保険金の受取人の指定範囲には法律上の制約はない。一般的には「配偶者か2親等以内」などとされ、その他は保険会社が個別に判断するという。同社でも事実婚などに対応していた。
検討過程では、支払いの審査に必要な死亡診断書を同性パートナーが医療機関から受け取れるかという疑問も浮上した。個人情報保護などで原則は法的な家族にのみ発行されるからだ。医療機関や弁護士に照会するとケース・バイ・ケースと分かり、「保険会社として要請するなどサポートはできるだろう」(経営企画部の川越あゆみマネージャー)と判断した。
結果的にすでに延べ100件以上の申し込みがあったといい、今のところ問題などは起きていないという。
こうした先進的な企業に共通することに、経営層の判断がある。川村氏は「経営層のコミットメントがあるとスピード感を持って進められる」と話す。みずほ銀行でも若手が社員研修でプレゼンした提案に経営トップがGOサインを出した後、一気に検討が進んだという。トップの認識が取り組みを左右しそうだ。
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■トランスジェンダーは対応事例少なく
性的少数者を指す「LGBT」という呼称の認知度は高まったものの、当事者の状況は多種多様だ。
L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)の差は恋愛対象など性的指向の違いなのに対し、T(トランスジェンダー)は性同一性障害などで身体的な性別と性自認が一致しない人を指す。トランスジェンダーに関するルールづくりは、同性パートナーへの対応に比べるとまだ事例が少ない。
周囲から認識される性と当事者の自認する性が一致しないと、施設や設備の利用、職場の同僚や取引先との関係で課題を抱える場合もある。戸籍上は男性だが女性として勤務する経済産業省職員が、女性トイレの使用などを求めて国を訴えた例がある。
五島丈裕弁護士は「心の性に適合する設備の使用を認めないことが企業の円滑な運営に必要かつ合理的かが一つの判断の基準になるが、現実には企業は難しい判断を迫られる」と指摘。「当事者と十分に協議し、できる限りの解決策を模索して対応することが重要だ」という。
スターバックスコーヒージャパンでは性別適合手術向けの休暇制度があり、17年1月以降すでに6人が利用した。ただ同社のように明確な制度を整える例はわずかで、基本的には個別対応が中心のようだ。JR東日本はトランスジェンダーの社員に、本人が希望する性別の制服を支給する個別対応をしている。
生命保険では性別適合手術後にホルモン治療を続ける場合が多く「『治療中』の場合は基本的に保険に入れない」(ライフネット生命保険の川越あゆみ氏)という課題があるという。

