総合多様な人材の中で生き残れる人は何が違う? 日本人に絶対的に足りない3つの「プレゼン力」
近年、ビジネス環境の急速な変化を前に、多くのビジネスパーソンが悩み、戸惑っている。一方、幼少期から多様な国籍の人やさまざまな価値観の中で生活することが「当たり前」になっているのが、インターナショナルスクールに学んだ人たちだ。今年、一層注目が集まるインターナショナルスクールの特徴と教育資格「国際バカロレア」の考え方に触れた前回の導入編に続いて、今回は実際の教育現場レポートを通じて、「20年後も生き残る力」習得の裏側を紹介する。
労働人口が2割減少する日本で
絶対的に求められる「2つの力」
今年3月、内閣府より長期の労働力人口予測レポート「人口減少と日本の未来の選択」が発表された。その内容は「2060年には労働力人口が現在から2割減少」「2040年時点で523自治体の消滅可能性が高い」など、衝撃的なものだった。そして、その未来予測を受けた対策案の1つとして示されたのが「女性、高齢者、外国人など多様な人材の活躍と企業経営、移民」および「グローバルプレーヤーとして活躍する人材の育成」である。
週刊ダイヤモンド7月19日号特集「2020年からのニッポン 人口減少ショック!」内でも触れられているが、労働の場を日本の内に求めようと外に求めようと、国籍・価値観・社会属性のいずれにおいても多様な人材と労働を共にする世の中がやってくる。もちろんそのような社会においては、あらゆる業種のあらゆる場面で「グローバルプレーヤー」であることが求められる。
人材が多様化する社会において求められる「グローバルプレーヤー」には、備えておかなくてはならない2つのコミュニケーションスキルがある。それは他者を「受け容れる」力と、自分の存在を「届ける」力だ。「受け容れる力」は文字通り、多様な人材それぞれが持つ違いを受容すること。近年多用される「ダイバーシティ」の考え方にも通じるものが大きい。
企業やチームにおける「受け容れる力」の高さは固定観念や思考の硬直化と対極にあるもので、国際化が進む現代において生産性向上やイノベーションに直結する「強さ」である。
この「受け容れる力」については、実際の企業の現場レポートを基に次回記事にて取り上げる予定だ。今回の記事では、もう1つの求められるスキル、自分の存在をプレゼンする「届ける力」について考えていきたい。
インターナショナルスクールの4類型
さて、本連載の主役でもあるインターナショナルスクールだが、前回も触れた通り明確な定義はなく「外国人児童生徒を対象とする教育施設」という大まかな括りで認識されている。
その中には、1)特定の国籍の家庭だけを対象にした限定性の高いスクール(アメリカンスクール、インディアンスクールなど)から、2)複数の国を短期間で飛び回ることの多い外交官家庭を対象としたスクールや、3)両親もしくはどちらかの親が外国籍を有する家庭を対象としたスクール、4)外国籍の家庭を中心としながらも国籍を問わず受け容れるオープンなスクールまで存在し、その種類は幅広い。

以上のように幅広いインターナショナルスクールだが、今回注目したのは、上記4カテゴリの中でももっとも多様性の高い上記の4)にあたるスクールだ。第1回記事でも取り上げた「インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)」もこのカテゴリに含まれる。
今回は近年増加している4)にあたるスクールの1つ、「アオバ・ジャパン・インターナショナルスクール(AJIS)」(東京都練馬区)において実施されている「Independent Studies」および「Speech Contest」という2つの取り組みを基に自分の「届ける力」について考察を深めていきたい。
あの有名アーティストも学んだ!?
「届ける力」を育てる3つの仕組み
アオバ・ジャパン・インターナショナルスクール「Speech Contest」で優秀者に選ばれた生徒たちアオバ・ジャパン・インターナショナルスクールは1976年創立、東京都練馬区光が丘と同目黒区代官山にキャンパスを持つ、幼児~高等教育までを一貫して提供するスクール。国際バカロレアの認定候補校でもある。著名な卒業生としてはファッションデザイナー山本寛斎氏の娘でモデルの山本未来さんなどが挙げられる。
そんなAJISで今年5、6月に「Independent Studies」および「Speech Contest」というプログラムの発表会が開催された。「Independent Studies」とは「自ら課題設定し、解決していく」学習の進め方のことで、大学教育で多用される教育手法である。「自主学習」「個人学習」と訳されることが多く、単なる自習と混同されることも多いが、AJISによると、「今回の取り組みでは、自ら設定したゴール達成のために教員を巻き込んだり、生徒同士の協力を行うなど、解決に向けた創意工夫を重視して実施」しているとのこと。
これら「Independent Studies」と「Speech Contest」はそれぞれ、生徒が中長期にかけて自らテーマを設定、発表に向けて取り組んでいくプログラムだ。これだけを聞くといわゆる一般校で取り組まれている「総合的な学習」と大差ないように思われるかもしれないが、従来型の教育と異なる点が3つある。
1つ目が、生徒自身が体系化/フレームワーク化を無意識に身につける工夫がなされていることだ。「Independent Studies」は1年間、「Speech Contest」は2~3ヶ月間という、どちらも1年間という長期に渡るプロジェクトであるにもかかわらず、すべての生徒が高レベルなアウトプットを実現することができている。それは「課題設定」→「仮説立案」→「調査検証」→「発表」の一連のフレームワークを、実施しながら身につける進行になっていること。そして、「Independent Studies」は中学2年生と3年生、「Speech Contest」は小学校4年生と5年生にあたる2回取り組む機会があるので、身につけたフレームワークをさらにレベルアップさせる機会を持っていることも、その精度を高めることにつながっている。
2つ目は、大人の役割が「指導」にはないこと。一般的に教育(授業)における教師や親といった大人の役割というのは「正解に向けて教え導くこと」が想定されがちだ。わかりやすい例に、「夏休みの自由研究を親に手伝ってもらった」思い出を持つ読者も多いのではないだろうか。対してこのプログラムではテーマ設定から発表に至るまで、大人が答えを設定することはない。「Speech Contest」のプロセスについて中学3年生のある男子生徒は「貧困問題について授業で扱ったことをきっかけに、逆に“発展しすぎた世界”で起きる問題について考えることを思いついた。先生は文法について直してくれたりしたくらいで、内容には口を出さなかった。自分で考えたことを基に、このテーマについて先生や親と議論したことを結びつけて作っていった」と語ってくれた。
最後は、「伝わる表現方法」に徹底的にこだわること。一般的な学校教育の現場では「調べたことを模造紙やパワーポイントにまとめて発表」という定式化されたフォーマットに沿って半ば儀礼的な発表が各発表者からなされる、というイメージにうなずく読者も多いのではないだろうか。
だが、「Independent Studies」や「Speech Contest」でもっとも目を引くのは、生徒ひとりひとりによる発表方法の多彩さである。ある生徒は「時計の歴史」を発表するために時計の模型をつくり、歴史の進行を時計の針を動かしながら説明していた。また話をすることが苦手なある生徒は、フットボールについての発表をより視覚的に伝えるための工夫を凝らすことで自らのハンディを克服する伝え方に取り組んでいた。「パラドックス」を研究テーマに選んだある女子生徒は「はじめはどうやったらうまく見せられるか、と考えていたが途中からはとにかくわかりやすくするためにはどうしたらよいか、が大事だと気づいた」と話してくれた。
これからのビジネスパーソンが
持つべき3つの「届ける力」
ここまで読んでいただいた読者の中には、紹介してきた3つの仕組みと、冒頭でお伝えした「届ける力」が既に結びついてきている方もいるだろうが、ここで改めて整理しておきたい。
多様な人材が溢れるこれからの社会では、まず第一に「共通のフレームワークの上に立つこと」が意思疎通における前提となる。第二に「正解を捨てること」で、文化や価値観の違う相手との議論が成り立つ。そして第三に「伝わる伝え方をすること」ができて初めて、「自分の存在を相手に示す=プレゼンする」ことができるようになるのだ。
それぞれはよく言われるスキルではあるが、そもそも「相手との属性が違うことが前提」という環境にいる、インターナショナルスクールに通う子どもたちにとってはこれらのスキルが生活を左右するほどのものであることを体で覚えていく。そしてこの3つのスキルは、次回解説していく「受け容れる力」を構成する要素とも共通している。
次回「受け容れる力」編では、インターナショナルスクールが持つ「受け容れる」構造とこれからのビジネスパーソンに求められるスキルについて、実際の企業現場へのインタビューを交えながら解説する。