ITエンジニアがいない! 人材不足時代の採用と教育

総合ITエンジニアがいない! 人材不足時代の採用と教育

厚生労働省が2014年6月27日に発表した5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.09倍と前月から0.01ポイント上がり、1992年6月以来の高い水準となっている(6月28日付の日経新聞の記事を参照)。ここのところ外食産業、製造業を中心に人手不足の記事が連日新聞を賑わしているが、IT技術者の人手不足についてもかなり深刻な事態となりつつある事をご存じだろうか。

有効求人倍率(季節調整値)と完全失業率の推移

IT技術者が数万人規模とされる人手不足は、「2015年問題」「2016年問題」「2020年問題」とも呼ばれ、20万人月(人月とは、1人のシステムエンジニアが1カ月働く作業量)とも言われるみずほ銀行の基幹システムの統合や、マイナンバー関連のシステム構築など、近々に控えている超巨大プロジェクトによる需給関係の逼迫で人手不足が予測されている(こちらを参照)。

直近の求人の状況を見ても、業種別でIT/通信は求人倍率2.41倍で全業種の中でトップ、職種別でも技術系(IT/通信)の求人倍率は2.63倍と全職種でトップになっている(転職サービス「DODA」2014/5発表資料より)。また、実際の採用現場を見ていても、即戦力となるようなエンジニアの人気は高く、20~30社からのスカウトが届き、5~6社の内定の中から転職先を選ぶような状況が、ごく普通の光景となっている。

前回のコラムでは、今後企業が生き残っていくためには「高いITの技術力を持つ必要がある」と書いたが、優秀な技術者をどのように採用するか、また育成していくかという課題もまた、今後企業にとって生死を分ける分水嶺となるだろう。

今回のコラムでは、人手不足の中でのITエンジニアの採用、教育について、企業は今後どのように取り組んでいったらいいのかについて考察をしてみたい。

ITビジネスの新潮流

ITエンジニアの採用、教育について考える前に、その前提となるITビジネスの潮流の変化について整理をしておこう。ここ数年ITビジネスの流れは転換点を迎えており、その前提を理解していないと、採用、教育について考える際も、前時代的な視点に立った誤った判断を下してしまう事になってしまうためだ。

大きな潮流の変化とは、「ITビジネスの軸が、コストセンター中心からプロフィットセンター中心に移った」ということである。

これまでITは後付で語られる事が多く、会計、財務や給与計算といった、主に間接部門が人手で行っていたルーチンワークを効率化し、コストダウンを目的としてIT化を推し進める事が多かった。例えば、会計ソフトを導入したり、ERPなどを導入することにより管理部門のコストを削減する、というような事である。

それに対し、ここ最近は売上を増やすためにITをどう利用するか、もしくはITでしか実現できないサービスの付加価値をどのように作っていくか、ということにIT利用の軸が移ってきている。

例えば、都内最大手のハイヤー・タクシー会社の日本交通が2011年1月にリリースした日本交通タクシー配車アプリ(現在は全国タクシー配車アプリ)は、日本交通のシステム部門の日交データサービスが内製で開発をしたものだが、2013年12月の時点で累計ダウンロード100万件、アプリ経由のタクシー配車台数が100万台、タクシー売上は25億円を突破している(現在は日本マイクロソフトとの協業)。

また、現在、料理本に代わって広く利用されるようになっているクックパッドだが、現在の投稿レシピ数は170万品を超え、日々料理する20~30代の女性を中心に、月間のべ4400万人以上が利用するサービスとなっている。その結果として、2014年4月期の売上高は65.7億円、営業利益は31.3億円、営業利益率は47.6%となっている。

「全国タクシー配車アプリ」の画面と(左)と「クックパッド」の画面(右)

これらの事例は直接的にITが売上に貢献しており、ITが競争力の源泉として利用されている事を如実に表している。

外注中心から内製への流れ

ITビジネスの軸が「コストセンター中心からプロフィットセンター中心に移る」と何が発生するのかというと、「システム開発の体制が、外注中心から内製中心に切り替わる」という事が起きる。何故かというと、コストセンターでは、コスト削減にしか目が向かないので安く上げるために開発は外注を中心としようという力学が働き、プロフィットセンターでは、技術の流出を防ぎ競争優位性を保つために開発を内製化しようとなるためである。

IT産業全体を見ると、前回のコラムでも書いた通り、これまでは、NTTデータ、富士通、日立製作所、NECなど、ソフトウエアの受託開発をおこなうSIer(システムインテグレータ)が市場の大半を占めていた。SIerの仕事の中心となるシステム開発は、システム発注側企業の情報システム部等が中心となり、SIerなどの外部ベンダーにシステムを発注し、SIerがこのシステムを開発するという流れであった。

従来のシステム開発における発注側企業の情報システム部は、通常間接部門(コストセンター)であり、売上・利益を上げる部門ではない。

作られたシステムの「使いやすさ」や「生産性向上」などに、どの程度情報システム部が貢献したかを定量評価する事は現実的に難しいため、情報システム部の評価は「どのぐらいコストダウンできたか」「どれだけ安く作れたか」などのコストダウン面のみが評価尺度となるのである。

そうなると情報システム部門の風土も必然的に「いかに安く上げるか」にしか興味がなくなってしまう。経営レイヤーで売上増加のためのシステム開発を決めたとしても、実行部隊である情報システム部では「売上増加について評価対象にならない」という皮肉な事態が発生するのである。

システム開発には波があるため、安く上げる事を考えると、固定費として内部にエンジニアを抱えるよりは、変動費として必要な時だけ利用できるよう外部のエンジニアに依頼する方が良いと考えるようになる。

また、同じようなシステム開発を繰り返している外部の専門家に頼んだ方が習熟度が高く、リスクも少ないため「外注中心の方が良い」という事になり「企画段階から全て丸投げの開発」が横行する事になる。

このようにして発注側企業の情報システム部は次第に技術力が衰え、その結果として各部門との調整力も失い、またコストダウン面しか見ないで発注するようになるため、非常に使いにくいシステムばかりが出来上がる事となる。

間接部門のコスト削減のためのシステム開発であれば、このような形でも問題は少ないのだが、売上の中心となり、競争力の源泉となるシステムの開発を外注していては、コア技術の流出が発生し、競合との差別化が難しくなるため命取りになる。

そのため、Webサービス系企業を中心としたITを競争力の源泉として利用している企業では、以前のようにエンジニアを間接部門に配置するのではなく、プロフィットセンターの事業部の中にエンジニアを配置し、エンジニアも売上にコミットする体制を取るようになってきている。こういった企業ではエンジニアが企業の中心的役割を担っているのである。

こうした動きは米国が先行している事が、電子情報技術産業協会の調査結果(下記データ)から読み取れる。米国で、経営層や事業部門などの「非IT部門の責任者」がITに対して期待するものは、トップが「製品・サービス提供の迅速化、効率化(41.0%)」、2位が「ITを活用したビジネスモデル変革(28.8%)」となっている。一方の日本では、トップが「ITによる業務効率化/コスト削減(48.2%)」となっており、コストセンター中心のシステム開発が行われていることがうかがえる。ただし、日本でもここ2~3年でプロフィットセンターよりのシステム開発へ流れが変わってきたと私は感じている。

経営層や事業部門などの「非IT部門の責任者」のITに対する期待

ITビジネスの軸が、コストセンター中心からプロフィットセンター中心に移った事で、エンジニアの役割も、コスト削減のためのシステム構築という役割から、売上貢献するシステムを作る事へと役割が変化してきている。

従来ITエンジニアに対して重視されたスキルは、SIer側で多くのエンジニアをまとめ上げ、顧客と折衝できるようなマネジメントスキルであった。

しかしここ数年は事業者側でもシステム開発を行うエンジニアが多く求められるようになり、マネジメント力よりも開発スピードと技術力が重視されるようになってきている。口を出すだけでなく、実際にプログラムが書けるか?という事が、管理的ポジションにも求められるケースが多くなってきている。それはスピードの求められる開発の現場において、プログラムを書けない人間では正しい設計、判断が迅速におこなえないからである。

ITエンジニアが業務の中核に

またこの変化は、エンジニア自身が仕事に求める職務内容にも変化をもたらしている。従来ITエンジニアとしての中心的な働き方は、ソフトウエアの受託開発をおこなうSIerで、発注元の間接部門から外注されるシステムを、下請けとして開発する事であった。

これに対して現在は、事業者側でサービス開発の中心的役割としてのエンジニア職も多く存在するようになってきている。SIerの仕事は、下請けとしてコスト削減の仕事が中心となるため、安定性は高いが、駒としての働き方が中心となるのに対し、事業者側でのサービス開発は、自らの技術力によって大きく企業の業績を左右するような中心的存在となる事が可能で、そういった点にやりがいを感じるエンジニアも多くなってきている。

この変化はSIerを中心としたITベンダーからユーザー企業、ウェブ企業への人材の流出という形でも表れている。ユーザー企業が中途採用した人材の直前の勤務先のうち40.5%がITベンダーと回答している。またウェブ企業が中途採用した人材の直前の勤務先としても26.1%がITベンダーであり、ITベンダーからの流出が大きくなってきているのである。

以上のようにITビジネスの潮流は現在大きな変化の節目を迎えている。そのことがITエンジニアの採用、教育の現場にどのような課題となって表れているのだろうか。大きくは下記3点にまとめられる。

  • エンジニアが集まらない、既存の求人メディアではエンジニアにリーチできない
  • いい人を見分けられない、既存のプロセスでは技術の可視化が難しい
  • 人が育たない、既存の教育システムでは育成が難しい

次回はこの3点について考察を進めていきたい。