総合「いい会社」が、若手の成長機会を奪っているかもしれないという指摘
「私たちの若い頃は、残業が続いてヘトヘトなのが当たり前、という時代でしたよね?」こんな“問題発言”で始まる今回。残業時間のチェックなど、労務管理がちゃんとしている会社で起きている人事の悩みとは?
●最近の日本の会社員は大して働いていない?
ある企業の育成担当者が、とても興味深い悩みを打ち明けてくれました。この話は、ある意味、時代錯誤な悩みであり、コンプライアンスの観点からみるとダメな話なので、ちょっと歯に物が挟まったような書き方になるかもしれませんが、気になるテーマであることは間違いないので、恐る恐る始めてみます。
「私たちの若い頃は、残業が続いてヘトヘトなのが当たり前、という時代でしたよね?」
会話は、この台詞で始まりました。もう、これを見ただけで嫌悪感を覚える人も少なくないでしょう。「年寄りの若い時の苦労自慢かよ」とか「残業していたら仕事していると思い込める時代は終わったのだ」とか「それならそもそも残業代をキチンと払えよ」といった罵詈雑言が聞こえてきそう。私も「確かにその通りだ、残業代払えよ」と、心情的には罵詈雑言サイドなのですが……話を続けます。
「最近は労務管理が徹底されていて、残業時間も厳しく制限されていますよね。働き過ぎといわれていた時代から一転して、私たちの若い頃などと比べると、相当楽な勤務形態になったなと」
●若手の成長機会を奪っているのは、残業時間の減少なのか?
企業の若手と話していても、残業時間のリミットが来てしまったので、仕事が積み残ってしまい困っているという、ある意味本末転倒した愚痴を耳にすることがあります。勤怠管理を徹底的にして、従業員に無理をさせないよう気配りしている企業も少なくないということなのでしょう。
「その状態が、若手の成長を阻害しているかもしれないと、最近思っているのです。成長する機会を奪っている、そんな気がします」
ということは、「残業する=成長の機会」なのでしょうか?
この話を、別の企業の育成担当者にしてみると、以下のような解説をしながら、おおむね同意するという意見でした。
「『残業をさせる=成長の機会』という話ではなく。ポイントは、ストレッチをかけられるかどうか、ということですね」
従業員の育成方法はいくつもありますが、やはりビジネスの現場の中では「経験を重ねること=成長の源泉」になることがほとんどです。そのため、優秀な人材が育つには、さまざまな経験をすること、たくさんの場数を踏むことが必要になってきます。同時に、できることばかりをやらせるのではなく、できるかできないか、ギリギリのところの経験を積ませることもまた、成長を促すためにはとても重要になってきます。
「できるかできないか、ギリギリの仕事をさせるということは、それだけ仕事にかかる時間が増える可能性があります。必然的に残業しなければならなくなる。ただ、労務管理の観点から、それが望ましくないとしたなら結果として、なるべくできること、残業をしなくて済む時間内に収まる仕事、とバランスを取りながら、仕事をさせなければなりません」
●能力を超える仕事に挑むからこそ成長できる
仕事だけが人生ではないとか、成長する源泉は職場の経験に限らないという声があるのは十分承知していますが、それでも、時間的な制限がかけられている結果、場数を踏む機会も失い、結果として成長できなくなるかもしれない。その状態は、育成担当者としてはもどかしいし、悩みどころだと考えているようです。
ある企業の中間管理職は、こんな風にこぼします。
「できそうもない量、あり得ないくらいの時間を費やす仕事は、それをやり切った経験そのものが、大きな価値になるはずなのです。ビジネスパーソンとしての基礎体力のようなもの、といっても過言ではないでしょう」
そして、それはできる範囲で、できる仕事をしていても決して身に付かないはずだといいます。自分のキャパシティを超える仕事に挑んだからこそ、それを乗り越えた経験は自信につながってきますし、乗り越えるためにいままでの自分の仕事の進め方や取り組み、さまざまな姿勢をもう一度見直す機会も得ることになり、結果的に大きく成長できる可能性もあると。
確かに、「今までの方法では、より多くの仕事をこなすことができない」という経験をすれば、「それではどうすればいいのか?」と考え、仕事の方法などを再構築しなければならなくなります。その経験が新しいビジネスを生み出したり、職場での仕組みを作り出したりする可能性は高い。逆にそういう経験のない人は、いつまでたっても誰かが引いたレールの上を走っているだけになるかもしれない。
●ビジネスの現場における「良質な苦労」に代わる成長機会とは?
「そうはいっても、働かせすぎるのは良くないし、時間をかける=経験を積むという考えは古いだろう」という声が聞こえてきそうです。確かにその通りだと思います。しかし、現実的には、仕事の量と難易度、成長機会の創出と労務管理のバランスを取るのは至難の業。もっと別の方法でストレッチをかけられればいいのですが、それも見つからないのが現状。妙な表現になるかもしれませんが、現場での「良質な苦労」に代わる方法は、そうそうないのです。
さらに、成長という言葉自体の受け取り方が、人によってマチマチです。多様な価値観の現れ、といえば聞こえはいいですが、同時に企業のマネジメントをする立場から見ると、モチベーションそのものがバラバラであることの弊害は少なくありません。まあ、そういう時代であるといってしまえばそれまでなのですが、だからこそ、答えが見つかりにくい。
しかもこの手の話は、価値観が違う人たちには、それぞれが相容れないという新しい問題をも作ります。仕事がいま以上にできるようになるためには「成長する=当たり前である」という考えそのものも、覆る可能性もあります。
育てる、という考え方を捨て、「求める機能や能力を持った、自社に必要な人材は『調達する』……そういう方針にかじを切る企業も、今後さらに増えるかもしれません。