女性雇用「自由は必然」女性起業家の元に人材が集まる理由
「働きやすい自由な職場」を提供し、多様な人材が最高のパフォーマンスを発揮できるようにすることが、リーダーの重要なミッションになっている。女性が多く働く組織をマネジメントする二人の女性起業家は、その問題をどう解決しているのか。ワークライフバランスの実現を実践する認定NPO法人ACE代表の岩附由香さんと、チェンジウェーブ代表取締役の佐々木裕子さんに聞いた。
起業につながった問題意識
──岩附さんはNPO、佐々木さんは企業という違いはあるものの、お二人はともに自ら事業を起こした起業家です。どのような事業を行っているのでしょうか。
岩附:ACEは「世界から児童労働をなくす」ことを目指し、その支援を行っているNPOです。活動範囲は日本と児童労働の問題が深刻なインド、ガーナ。メンバーは世界に約20人で、主に女性が中心。20〜40代のワーキングマザーが多く働いています。
義務教育を受けられないような過剰な労働や、法律で禁止されている18歳未満の危険・有害な労働を児童労働と言うんですが、こうした境遇の子どもたちが世界で約1億6800万人もいるんです。日本に住んでいると児童労働問題に触れる機会は少ないですが、世界では当たり前のように起きている。
ACEはこの問題が特に深刻なインドとガーナを対象に、集めた募金の有効な使いみちを現地の関連団体と一緒に検討するほか、子どもたちが働く必要がないように、その両親のビジネスを支援しています。これまで1500人ほどの児童労働の子どもが学校に行けるようになりました。
1974年東京生まれ。桐朋女子高校卒業。上智大学文学部卒業。大阪大学大学院国際公共政策研究科(OSIPP)博士前期課程修了。大学院在籍中の1997年にACEを設立し、代表に就任。会社員、国連機関スタッフ、通訳などの職と並行しボランティアで活動を続け、2007年からACEの活動に専念。2012年・2015年に出産、2児の母として、子育てと仕事に励む
──佐々木さんは2009年にチェンジウェーブを設立しています。
佐々木:私たちの会社はすごく説明しにくいのですが、ひと言で言うと「変革屋」。事業や経営そのもの、そして世の中全体に変化の波を起こす仕掛けをプロデュースする仕事をしています。
起業前は、日本銀行からマッキンゼーに移って約9年間、主に経営戦略の立案をお手伝いしてきました。馬車馬のように働きまくっていて、ワークライフバランスなんて縁遠い世界(笑)。ただ、ものすごく成長できた時間でした。
その経験から、社会や経済に大きな影響を与える大きな変化は、「たった一人の目に見える変化」から始まり、周りの人間に伝播して生まれることに気づいたんです。
人が目に見えない境界線を越え、自分自身のリミッターを外し、一人一人が志を持ってまわりを巻き込み動き始めることで、流れを変える大きな波、うねりがが生まれる。そのサポートをしたいと思い、チェンジウェーブをつくりました。
いまは20人ほどのメンバーと一緒に、主に企業経営や地方行政の変革の支援や、次世代リーダーの育成をお手伝いしています。
東京大学法学部卒、日本銀行を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。シカゴオフィス勤務の後、同社アソシエイトパートナー。8年強の間、金融、小売、通信、公的機関など数多くの企業の経営変革プロジェクトに従事。マッキンゼー退職後、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。2009年チェンジウェーブを創立し、変革実現のサポートや変革リーダー育成など、個人や組織、社会変革を担う
自由な職場をつくる理由
──ACEもチェンジウェーブも、組織としてワークライフバランスの実現に積極的です。どのような背景がありますか。
佐々木:私たちの組織も女性比率がかなり高く、ワーキングマザーも多い。彼女たちは子育てのリズムに自分の生活を合わせる必要があり、仕事に使える時間を自由に決められない人もいます。
そして、性別を問わず、子育てしているかどうかに限らず、ビジネスもプライベートもどちらも自分の大切な人生と思っているスタッフもたくさんいます。
自分の居場所や時間の使い方を柔軟に選べて、どちらも諦めなくていい環境を整えることは、優秀な人材を獲得し社員の満足度を高め、組織のパフォーマンスを高めるためには必要です。特に今の時代では、経営者の大きな仕事のように思います。
たとえば、弊社社員の中野円佳は、元日本経済新聞の記者で『育休世代のジレンマ』(光文社)というベストセラーを書き、メディア人としてとても優秀でした。その彼女が先日、チェンジウェーブの仲間になってくれました。
彼女がうちのような小さな組織の仲間になってくれたのは、彼女自身がプロフェッショナルとしてやっていきたいこと、プライベートで実現したいことを総合したとき、われわれの企業ミッションと働き方の柔軟性が、うまくフィットしたからだと思います。
また、私も家に帰れば、3歳の娘の母でもありますから、そういう環境を整えることは自分自身のプライベートにとっても、とても大切なことです。
岩附:私はACEのメンバーの中で一番最初に妊娠・出産したんです。子育てしながら働くにはどうすればいいか、トップが長期間、仕事から離れても、組織が滞りなく事業を継続・成長していくためには何をすればいいか、妊娠をきっかけに真剣に考えるようになりました。当時は今よりも組織が小さく、私が担う役割も大きかった。出産も待ってはくれない。切実な課題でした。
現在のメンバー構成は、正職員、契約スタッフ、インターンなどが混在し、年齢や性別もさまざま。その中で、子育てしながら働いているスタッフが多くいます。
また、事業の性質上、時間的・距離的に離れている海外スタッフとのコミュニケーションも多い。そういった環境の中でパフォーマンスを発揮してもらうためには、リモートワークを中心とした柔軟なワークスタイルを導入することは必然でした。
5年ほど前からリモートワークを取り入れ、実はそこから今に至るまで、いろいろな紆余曲折がありました。リモートワークを推進しすぎてコミュニケーションが希薄になったり、逆に出社を徹底したせいで窮屈になり、生産性が下がったりしたこともありました。
性別、年齢、国籍が異なる多様な人材が混在していても、それぞれの価値観を認め、一度決めたルールや仕組みでも時が経つに従って、最適な環境は変わるはず。常に新しい仕組みやツールを検討しては試し、いまではバランスを保てるようになってきました。
ミーティングで重視する内容と濃さ
──具体的には、どのようなワークスタイルを取り入れていますか。
佐々木:チェンジウェーブには20人くらいの仲間がいますが、出社義務は基本的にありません。リモートワークが中心で、週4回くらい出社する人もいれば、オフィスにほとんど来ない人もいます。
私自身がオフィスに行く日は週に1日あるかないか。席は一応ありますけど、ほとんど座っていない(笑)。毎日、4〜5つのアポイントを入れて、常に動き回っていますので、スマホやPCがオフィス代わりと言っても過言ではないです。
直接メンバーと顔を合わせる定期的な社内ミーティングは2週間に1回くらいで、決して頻度は多くないです。ただ、大切なのは会う回数ではなく「内容と濃さ」。会った時に何を話すか、です。
直接会って話す時間は、たとえば会社全体の戦略を共有するとか、プロジェクトが始まる前に目指すゴールをきちんとすり合わせるとか、皆でヨガをやるとか、一緒に物理的な「空間」を共有することで生まれる「一体感」が極めて重要な場合にフォーカスしています。
メンバー全員が互いに目指すべきゴールを共有することができれば、毎日顔を突き合わせて細かいマネジメントをする必要はほとんどありません。
岩附:オンラインのコミュニケーションではちょっとした認識のずれが生じやすいので、私たちはそれをカバーするために毎月1回全スタッフがそろうミーティングと、年に1回の合宿を開き、価値観やACEの優先順位を共有するようにしています。
それとは別に、毎朝10分弱の朝ミーティングを開いて、全員がコミュニケーションする機会もつくっています。リモートのスタッフはSkypeでコールインして、事務所にいるスタッフは自席にたったまま、その日の予定や重要業務を共有します。
今日誰が何をしていて、どう忙しいのか、特にリモートのメンバーは把握が難しくなるので、この10分間は大切にしています。ささいなことですが、これでわかることがたくさんありますね。
ツールは「簡単・便利・セキュア」
──リモートワーク環境をつくるうえで、どのような点を工夫しましたか。
佐々木:日々の会話や細かい判断は、チャットツールやスケジュール共有、メール、共有ストレージサービスを使っています。これだけで直接会うのと同じくらいのコミュニケーションが取れます。
われわれのメンバーのなかには、デジタルにそれほど興味がなかったり、ITリテラシーが高くなかったりする人もいます。なので、ツールは便利で簡単なこと。そしてセキュアなものを選ぶようにしています。
お客さまの情報や、進行中のプロジェクトに関するメッセージ、経営データなどが漏れたりすれば、会社のブランドや信用力は失墜します。ベンチャーにとっては致命的。オンラインでのコミュニケーションが当たり前になった今は、より一層セキュリティ対策に気を配るべきだと認識しています。
とくにメンバー一人ひとりが使うPCのセキュリティは重要。基本的に各スタッフに管理を任せていますから、使いやすさと同時に、強固なセキュリティ対策も、ユーザーのスキルや意識を問わず、あらかじめ施しておかなければなりません。
セキュリティの観点から、OSを中心としたソフトウェアのバージョン管理には気を使っています。私たちは、主にWindows 10搭載PCを使っていますが、常に最新バージョンにアップデートしています。
最近、ニュースでもWin10への自動アップデートで「使いづらくなった」という話題が出ていました。使い慣れているインターフェースを変えたくないから古いバージョンを使いたがる人もいます。その気持ちはわかりますが、それによってセキュリティに不安を抱えることのほうが、われわれのビジネスにとってはリスクです。
インターフェースの問題は「慣れ」で解決しますが、セキュリティはそうではありません。一時的に不便を感じたとしても、安全を確保することのほうを優先しています。
岩附:私たちも、同じようにメンバーのなかにはITリテラシーが高くない人もいます。だからこそ、わかりやすいルールと運用が必要。セキュリティには佐々木さん同様に気を使っていて、マイクロソフトのWindowsは常に最新版にアップデートするようにしています。
自由は経営者、スタッフにも効果大
──組織づくりの話に戻しますが、「働きやすい組織」をつくることは、スタッフや企業とそこで働く人、そして社会にどのような影響をもたらすと感じていますか。
佐々木:自由度の高い環境で働いている人は、ビジネスとプライベートの折り合いのつけかたを柔軟にデザインできます。それによって、仕事に対する「やらされ感」や、他責、諦めといったネガティブな観念が入り込む余地が少なくなる。結果的にビジネスでもプライベートでも、双方で高い生産性を得られると実感しています。
また、固定観念にとらわれない柔軟な働き方ができる企業が増えてきたとはいえ、まだまだ少ない。その中で、自由に働ける環境を用意することは、企業のブランディングにとっても、メンバーにとってもメリットがあると思います。
ただし、「自由と責任」はセットです。自由であるということは、それだけ個人の負う結果責任が重いということです。だからこそ、結果に対しては、徹底的に是々非々で評価する。それが柔軟な働き方の持続可能性を担保する肝だと思っています。
岩附:世の中には、時間や場所の制約のために、働きたくても働けない人はとても多くいます。これまで埋もれていた人が能力を発揮できる環境をつくることは、組織にとっても、社会にとっても意味があるはずです。
ただし、制約を乗り越えようと思うなら、自分たちがその前線に立たなければいけません。まず自分が実践し、自社で実践してみる。そして自分たちの経験を世の中に広めることで、たくさんの人や企業がワークライフバランスを考えるきっかけができれば、それは大きな意味を持つと思っています。