女性雇用「非正規雇用の多くが女性」は世界共通 止められない非正規化を乗り越えるヒントはオランダのパートタイム経済
先週は、女性が家事や子育てのために20代、30代で仕事を辞め、それがひと段落したらようやく仕事に戻る状況をグラフにすると現れる「女性のM字型労働力率」についてお話をしました。そして、女性が自ら望んで専業主婦を選ぶのではなく、就労や育児環境が整っていないために専業主婦を選ばされている状況があることを示しました。
・専業主婦という生き方を選ぶのはなぜか? 結婚・出産・育児で仕事をやめる女性たち
今回は女性の多くが就いている「非正規雇用」について考えてみたいと思います。
女性の多くが非正規雇用であることは世界共通
始めに正社員男女の賃金格差はどれくらいあるのかを国別に見てみましょう。
本来であれば、何年生まれかということまで考慮して、その世代が年齢とともに変化していく中での就業率を示すべきなのですが、「今の20代、30代の女性が働いているのかどうか」に注目するため、ここでは今現在の年齢別就業率を出しています。
日本は主婦パートなどを含む女性非正規雇用就業率が増加したことによって、20代30代でも働く女性は増えていますが、20代30代の女性就業率は各国に比べかなり低い水準にあります。
一方、世界的に女性の非正規労働者の多さが目立ちます。正規・非正規の分け方は国によって異なり、その社会的地位も異なること、またデータを公開していない国などもあり単純比較はできませんが、すべての国において働き盛りの世代で非正規雇用の多くを女性が占めています。
非正規雇用には問題もありますが、絶対悪というわけでも、全ての労働者が正規雇用であるべきだというわけでもありません。たとえば、オランダはパートタイム労働者の占める割合が非常に高く、世界で唯一のパートタイム経済と呼ばれています。オランダでは男女共にいわゆる「正社員」ではない形態で働いている人の割合が高く、非正規雇用で働く人の割合は8割にもなり、もはや「非正規」とはみなされていません。
労働組合が勝ち取ってきたパートタイム経済への道のり
オランダも最初から非正規雇用者の権利や賃金が守られていたわけではありませんでした。オランダの社会変革の事例から日本が得られるものは多いはずでしょう。ここからはオランダがいかにして「パートタイム経済」と呼ばれるまでパートタイム労働者を増やしていったのかを見ていきましょう。
1950年代、オランダは現代の日本と同じような女性の労働力不足の問題を抱えていました。そこで企業は、既婚女性向けにパートタイム労働を導入するようになります。当時は女性就業率はそれほど増大しなかったようですが、1970年代になると、結婚しても働き続ける女性が増えたこと、女性の教育レベルが上がって就業率が向上したこと、出生率の低下などによって、女性の就業率は上昇し続けました。
一方で、保育園不足に加え「子どもは家で母親が育てるべきだ」といった固定観念や性別役割分業意識などの社会的背景、正社員の男女賃金格差が大きく、パートタイム女性の時給のほうが正社員女性の時給を上回る現象なども起こっていました。そして、妊娠出産などによる女性の解雇を禁止する法律や、日本の配偶者控除にあたるような制度も整備されたことで、この時期に女性のパートタイム労働者が増えていきます。
また、オイルショックやグローバリゼーションによる競争の激化などで、1970年代の後半から深刻な経済の停滞期に入ります。深刻な財政悪化をめぐり緊縮財政が掲げられ、企業の収益力の強化、雇用の改善、経済の立ち直りが緊急課題とされ、男性労働者も含めた雇用の流動化を求める雰囲気が強まりました。
オランダには、各種労働組合と企業(雇用主)団体の双方が国家レベルで組織化され、諮問機関を通じて協議・協力しながら、労使関係をめぐる団体交渉を行ってきた長い歴史があります。パートタイム労働力の活用が労働者側からも企業側からも求められる中、1980年代、90年代を通じて、パートタイム労働に関する労働組合側と企業側の合意が形成されていきました。
たとえば、賃金の上昇を抑制する代わりに、企業側は投資や雇用拡大を進め、労働者全員の労働時間を縮小するワークシェアリングを導入することなどが決まります。また、時短勤務が一斉に導入され、仕事と子育てを両立させるための解決策のひとつとして、パートタイム労働が推進されました。
労働組合は政府も巻き込み、雇用の流動化による経済成長だけではなく、パートタイム労働者など不安定な雇用状態にある人の社会保障を充実するための制度も整えていきました。パートタイム労働者でも失業給付金が受けられ、賃金、残業手当、ボーナス、職業訓練などについて、フルタイム就労者と均等な待遇を受ける権利が与えられ、労働時間法が制定され、正規・非正規といった枠組みを超えて従業員が特定の状況下で、労働時間を自分で変更できる権利など、パートタイム労働が社会の公平性を高め、自由な働き方を進め、同時に経済成長を達成するための手段として法的に整備されていきました。
労働組合側は当初パートタイム労働について、組合に参加しない労働者が増えること、雇用条件が悪化することなどを懸念していました。しかし パートタイム労働が再分配の要素を強く持ち、ワークライフバランスを確立する手段であることを強調したことや、企業・政府との合意形成などの実績によって、社会の労働組合に対する期待とともにパートタイム労働者の労働組合参加率も高まっていきました。
一方で、パートタイム労働者が就いている職務レベルは依然として下位に位置付けられており、職務レベルが上になるほど正規雇用者の割合が増えるなど、正規・非正規の格差はいまだにあります。また、非正規労働者は男性よりも女性が多く、正規雇用における男女賃金格差が残るなど、ジェンダーによる差も残っており、他のヨーロッパ諸国と比較して必ずしも非正規労働者や女性の雇用環境が良いわけではありません。
課題は様々残っているものの、オランダの非正規雇用は日本とはまったく異なるものだということがおわかりいただけたかと思います。
非正規雇用の増加を止めることはできない
さて、現代の日本で見過ごしてはならないのは、非正規雇用にある人々は転職や失業を繰り返し、場合によってはなかなか仕事が見つからず、不安定な生活を余儀なくされていること、そして非正規と正規の労働条件、賃金などの処遇格差があまりにも大きいことです。その上、社会保障や税制は、男性世帯主を中心とした正規雇用労働者を想定してデザインされているため、非正規雇用労働者が労働者の4割を占めている状況、非婚・未婚・離婚などによる家族構成の変化などに全く対応できていません。日本の非正規雇用者の現状は「非正規雇用」ではなく「不安定雇用」です。
日本でも日経連や経済同友会、少なくない数の政治家が、経済力を高めるために雇用の流動化を進めるべきだと主張しています。しかし、彼らは非正規雇用という「柔軟な働き方」に伴うリスクを労働者に負わせることを前提に議論しています。また、日本の労働組合も男性正規雇用労働者を中心に組織されており、出産・育児・介護といった家庭の事情を抱えながら働くことのできる非正規雇用という働き方の可能性を見据えた議論とはなっていません。
非正規雇用の増加は今後も止めることができないものでしょうし、性別役割分業意識が強い日本では、「家庭の事情」を抱えやすい女性が非正規雇用に就く割合が高い状況を是正するのも難しいでしょう。であるならば、「雇用の流動化」への反対ではなく、オランダの労働組合がしてきたように、社会の再分配、ワークライフバランスを支える仕組みとして非正規雇用・パートタイム労働を捉え直し、非正規雇用労働者が安心して働いていくためにどのような法的な枠組みや企業側の取り組みが必要なのかを考えながら、一番苦しんでいる非正規雇用者のためにこそ強く交渉していくべきだと思います。
