女性活躍、成功のカギは男性管理職の意識変革

女性雇用女性活躍、成功のカギは男性管理職の意識変革

「女性活用企業を優遇」

2014年5月19日の日本経済新聞朝刊1面にそんな大きな見出しが躍った。

女性活躍を成長戦略の中枢に置く安倍政権は、女性活用が進んでいる企業を公共調達で優遇する検討に入った。価格や技術を評価して選ぶ公共工事の入札などで、女性活躍という観点からも評価するというのだ。記事によると対象の公共調達は数兆円規模の見通しで、「政府は自らの巨額な購買力をテコに(企業に)女性の活用を促す」という。

安倍総理は、世界に向けては日本を「女性が輝く国にする」と宣言し、国内においては昨年、「全上場企業で女性役員最低ひとり登用を」と経済三団体に要請した。今度は、公共調達という事業売り上げに直結する局面で女性活用という物差しを持ち込むことで、さらに企業に強いプレッシャーをかける。経団連も4月に女性管理職登用に関する行動計画をつくるよう提言をまとめた。企業にとって女性活躍推進はこれまで以上に重要なテーマとなりそうである。それでは、果たして企業の女性活躍推進を成功させるポイントは何であろうか。

筆者は、日経ウーマンの創刊メンバーであり、のちに編集長、発行人となった。4半世紀以上企業の女性活躍を見続けてきた。また、日経ウーマンの企業の女性活用度調査の報告書を作成し、この度、編著で『なぜ、女性が活躍する組織は強いのか?~先進19社に学ぶ女性の力を引き出す「仕組み」と「習慣」』(日経BP社)を上梓した。そこに収録した先進企業の事例をもとに、女性活躍推進の肝心なところをまとめてみたい。

 

女性活躍施策とWLB施策は同時に展開してこそ

わが国の管理的職業従事者に占める女性の割合は11.1%と先進諸国の中で突出して低い(内閣府「平成25年度男女共同参画白書」)。役職別に見ると、2012年で、係長級で14.4%、課長級で7.9%、部長級では4.9%である(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。仮に100人課長がいても女性は8人くらいしかいないのだ。

なぜ、女性管理職比率は突出して低いのか。それは日本の雇用システムと男女の性別役割分業に関係がある。

日本の企業は、長期雇用を前提としいろいろな職務を経験させてから、管理職ポストに合う人材かどうか見極めて昇進させる。一方、男女雇用機会均等法施行から25年以上たつものの妊娠・出産を契機にした離職は依然として多く、第一子出産前後の女性の就業継続率は4割未満である(内閣府「平成25年度男女共同参画白書」)。つまり、企業が選抜をしようとしたとしても、すでにそのフィールドから多くの女性は退出しているということなのである。

同志社大学教授の川口章氏は、著書『ジェンダー経済格差』(勁草書房)の中で、「企業における女性差別的雇用制度」「家庭における性別役割分業」「ワークライフバランスを妨げる社会経済制度」が均衡状態にあると指摘している。企業が求める長時間労働や突然の残業などは家庭や育児に責任を持つ女性にとっては困難であり、結果として女性は退職して主婦となる。女性から家事や育児の提供を受けることで、男性は企業の都合に応じた柔軟な働き方ができる。かくして、企業における女性差別的雇用制度と家庭内における性別役割分業企業が強い相互依存関係を持ち、それが女性の就業継続を困難にしているということである。このような構図においては、単に女性対象の両立支援制度のみを拡充しても就業継続率もなかなか向上せず、女性管理職登用も進まない。

女性管理職を増やすためには、その候補となる母集団の形成が欠かせない。そのためには女性が会社を辞めないこと、会社にとっては女性を辞めさせないことが肝要である。家事・育児・介護などの制約がある場合でも長く働き続けることができ、成果を出せる仕組み、仕事の成果や実力が公正に評価される仕組みが重要である。何の制約もなく、24時間仕事に打ち込むことが可能な旧来の男性のようなタイプしか昇進しないのであれば、女性管理職を増やすことは難しい。男性のように無制約に働く「名誉男性」のような女性管理職が増えても管理職候補である若い女性社員からは、「ああいうふうになれない」「ああいうふうにはなりたくない」と思われ、女性のキャリア意識や昇進意欲にはつながりにくい。

そこで重要なのが、女性活躍支援策とワークライフバランス(WLB)策を同じく実施することである。法政大学の武石恵美子教授は、著書『雇用システムと女性のキャリア』(勁草書房)で「仮に両立支援のみを実施し、一方で男女雇用機会均等施策を実施しないと女性の能力開発は阻害され、女性(母親)にとって制約の多いキャリア展開、つまり『マミートラック』(母親のための限定的なキャリアコース)の弊害も懸念される」と記している。そして、仕事と家庭の両立支援策と機会均等策は、男女間のキャリア格差を解消するうえで「車の両輪」と位置付けている。

女性活躍支援策だけを実施しWLB策がおろそかであれば、管理職に登用されるのは、家事や育児などの制約のない一部の女性だけとなり、逆にWLB策だけで女性活躍支援策がおろそかとなれば、長く働き続ける女性は増えるかもしれないが、管理職層に女性が増えるかどうかは疑問である。

たとえば、かつて結婚・退職で退出する女性社員が多かった大和証券グループでは、「女性が辞めない会社にしよう」という経営トップのメッセージを受けたことから、本格的に女性活躍推進の取り組みが始まった。育児休職期間延長や19時前退社励行などWLB施策を打つ一方、社内サイトにキャリアに関する相談窓口を設置するなど、女性を対象としたキャリア開発支援策も展開。さらには男性職場と見られていた法人営業課にリテールで営業経験のある女性を配置し、メンバーの3分の1を女性に入れ替えるなど職域を拡大し、2009年には女性役員を一挙に4人登用するなど矢継ぎ早に社内外に大きなインパクトを与える施策を実行した。

この6月、その4人の一人である田代桂子常務執行役が取締役常務執行役に就任。同社で初の生え抜きの女性取締役が誕生するが、それは、このようにWLB施策と女性活躍施策という「車の両輪」を戦略的に回してきた積み重ねがあってこそ、である。

同時に男性管理職への取り組みも強める

回すべき「車の両輪」はほかにもある。女性の管理職を増やしたいのであれば、女性従業員と男性管理職双方への取り組みが必要である。「男女雇用機会均等法からもうすぐ30年だから、もう女性をターゲットとした施策は不要だろう」という向きもいるようだが、それは的外れな話だ。年齢別研修や職階別研修しかないのであれば、女性活躍の効果はそう期待できない。「これまで男女共通の階層別研修などをしてきたが、これでは効果が出るのが遅すぎる」と、先駆的な企業ほど女性に焦点を当てた取り組みを導入または加速させており、さらには男性管理職の意識変革への取り組みにも着手し始めている。

日本IBMでは、次世代の女性グローバルリーダーの育成のため、「テーキング・ザ・ステージ」という研修を行っている。これは昇進、上司との個人面談、社長とエレベーターの中で一緒になるなどさまざまな「ステージ」を想定し、いざというときに尻込みすることがないように男性と同じような準備をしておこうというものである。そこには自然な声の出し方や、しぐさ、身のこなしなども含まれる。

アクセンチュアでは、全管理職を対象に日々職場で発生しがちな男性上司と女性部下のコミュニケーションギャップを題材に、女性部下の立場になりロールプレイを行うことで行動変容につなげるきっかけを提供している。また、相手の性別や国籍によって、同じスキルでも無意識のうちに昇進判断に差が出ることを管理職に自覚させて、無意識のバイアスを取り除く研修も行う。女性の活躍にあたって男性管理職の無意識のバイアスが邪魔をしていないかを考えてもらうきっかけにもしているという。

「そこまでやるのか…」

このトピックを取材で聞いたときに最初に出た、筆者の心のつぶやきである。しかも日系企業よりも女性登用などでずっと進んでいる外資系企業なのに、である。しかし、そのような深層心理にまで踏み込んだ取り組みが必要なのだ。そこまでやらなければ、この女性活躍の後進国である日本で、政府目標である「202030」(2020年までに指導的な地位に占める女性の割合を3割にすること)は、達成できないであろう。

男性管理職の意識や行動が女性部下の昇進意欲を左右する。21世紀職業財団の調査では上司の職場マネジメント(上司の育成意欲、良好なコミュニケーション、部下への接し方、評価等)が、女性の昇進意欲やモチベーションを高めることが明らかになっている。女性だけを対象としたキャリア研修を受けた女性がモチベートされて意気揚々と職場に戻ってきたとしても、職場の上司が旧態依然であるがゆえに意欲がペチャンコになってしまったというのはよく聞く話である。女性活躍を進めるには、女性そのものへの取り組みのほかに男性管理職への施策を打つこと。この両輪を回すことが効果を高める。

トップダウンとボトムアップ、両方の仕組みを

もう1つは、「トップダウン」と「ボトムアップ」という「両輪」である。

女性活躍推進にはトップのコミットメントは欠かせない。トップが何度も女性活躍の重要性を社内外に発信し本気度を示すことが大切である。先進企業は意識的にそれを行っている。ある企業で経営層が年にどれくらいこのことに触れたかを数えたら、三桁になったという。そのくらいのトップは「ことあるごとに繰り返し口を酸っぱくして」伝え、会社全体に浸透させなければいけない。

トップは理解があるものの男性管理職が女性活躍に納得していないという課題感を持つ企業も多い。その意味でも、男性管理職向けの女性活躍関連の研修は重要である。先進企業では、管理職の人事評価項目に女性管理職育成・登用を反映させるところも出てきている。

そしてボトムアップであるが、先進企業は、本社のみならず、事業所、エリアごと女性活躍推進担当を置き、会社全体を巻き込むスキームを構築している。会社の方針や施策は社内文書を回すだけでは社員全体の共通認識にならないと、担当部署が全国を飛び回り年間に社員1000人以上に直接面談し社員1人ひとりに伝え歩くという草の根活動を展開する企業もある。また、従業員サーベイやラウンドテーブル、ヒアリングなどで現場の生の声を拾い上げ経営に届ける仕組みがあることも重要だ。現場の意向は、仕組みを作る人・回す人には想定外のことも多い。若手女性の早期退職率が問題だったある会社は、仕事と育児の両立支援体制を手厚くすることが解決策だと思ったが、当該女性のヒアリングから、むしろロールモデルが社内にいないことによるキャリアの見通しの悪さが原因だと突き止めた。またある会社は、女性に望ましい両立支援策を聞いた結果、想定された育児休業の長期取得ではなく、育児休業から復帰した後も働き続けられるような施策であることが分かった。どちらも女性の意向に基づいた施策をその後展開し効果を上げている。

もし、自社で女性活躍がなかなか進まないのであれば本稿で紹介した「車の両輪」――女性活躍支援策とWLB策、男性管理職と女性従業員の取り組み、トップダウンとボトムアップ――のどこかが詰まっていて回っていないのかもしれない。その一方の輪を回しただけでな車はなかなか前に進まない。参考にしていただければありがたい。