女性雇用ここまで入念!「女が辞めない会社」の名采配 環境整備は「少しでも手を抜けばすぐバレる」
「女性営業ゼロ」という職場も珍しくない自動車販売業界で、女性営業比率16.3%、女性サービスエンジニア比率5.9%と、頭一つ抜けている青森ダイハツモータース。女性が第一線で長く仕事を続けられる秘訣に迫りながら、男性も女性もイキイキと活躍できる職場づくりの極意を探ります。
高い離職率が常態化している自動車販売会社も少なくない中、青森ダイハツモータースに在籍する女性営業職はこの10年間、たったの2人しか退職していません。それに加え、女性社員の出産後の復職率は過去3年100%、女性社員に占めるワーキングマザー比率も47%と、圧巻の数字です。
この「低い離職率、高い復職率」を実現するための施策として、青森ダイハツモータースは、従業員に訴求するための”青森ダイハツブランド”を、せっせと磨いてきました。
社員全員分の「仕事着」を新調
「CS(Customer Satisfaction=顧客満足)は大事だが、ES(Employee Satisfaction=社員満足)はもっと大事」と主張する松沼光男社長。そのブランド確立のために、あらゆる施策を推進しました。
まずは「投資」。ES施策のひとつとして、松沼社長は着任早々、全営業社員98人に新しいジャケットとパンツを2本ずつ貸与しました。信頼感を持てる営業パーソンに見えるよう、個々ののサイズに合ったものをセミオーダーで新調したのです。その費用は、営業社員ひとり当たり4万円超。この規模の会社にとって、決して小さい額ではありません。
「よく言われることですが、『営業は見た目が9割』。スーツ新調とともに、社章も金色のものに新しく作り変えました。ネームプレートも、色褪せしやすいカード式のものから、かっちりとしたプレートに。結果、顧客からは身だしなみのよさを褒められるようになり、社員も自社のブランドをより強く意識するようになりました」(総務人事部・川森良悦部長)
「『私は青森ダイハツの社員なんだ』という誇りを抱けるようになりました。昔はカジュアルなスタイルでしたが、今はシャキッとしたスーツで営業するようになり、周りに見られている感も増しています。それが自分にいい緊張感をもたらし、ビジネスパーソンとしての成長を後押ししてくれました」(業販営業担当・神山百合子さん)

松沼社長は「教育」にも投資を惜しみません。東京で行われる公開型研修には、スキルと経験を考慮して選考した女性社員を積極的に送り込みます。「青森県だけしか知らない」という社員も多い中、東京での「他流試合」に参加することで大きな気づきを得て、仕事にも生かす社員が増えてきているそうです。
もうひとつユニークなのが「幼稚園研修」です。新入社員は参加必須のこの研修、1週間ほど地元の幼稚園に出向き、給食を一緒に食べたり、着替えを手伝ったりするそう。いったい、どういった狙いがあるのでしょう?
「子どもが楽しく過ごせないショールームでは、車は売れません。だから、お子様と遊ぶことを知らない若手社員には、必ずその体験をしてほしい。周りへの気遣い、思いやりがお客様満足にも繋がるに違いない。そう信じています」(松沼社長)
100時間残業が当然の業界に「どんどん休む風土」を
こちらは顧客視点の施策ですが、店舗に「納車ルーム」を設置するという大胆な投資も実施しました。鏡に囲まれた納車ルームで、お客様に新車に乗ってもらい、自分が運転している姿を誰よりも早く見てもらうという試みです。新しい車そのものを見ることはあっても、実際に乗っている自分を見ることはなかなかありません。その体験ができるとあって、「この車を買ってよかった」という感動を生み出しているそうです。
力を入れるのは「投資」ばかりではありません。松沼社長は休暇制度の充実も図りました。本来、同社の販売店は火曜日定休ですが、どの社員も月1回は土日に休暇を取得できるようにし、上司が率先して取得することで部下も休みやすい環境づくりを進めています。
「私は3人の子どもがいるので、日曜日に休みを堂々と取得できるのはありがたいですね。家族との時間も大切に持てています」(女性営業・神山さん)と、これには社員の評判も上々です。
また、残業時間は1カ月20時間以内、毎日遅くとも20時には終業するというのも大きなポイントです。営業の管理職クラスには月100時間以上の残業が常態化している現場も少なくない中、休暇の取りやすさと長時間労働の削減は、女性、男性双方にとって働きやすい会社の必須条件です。
職場環境の整備にも手を抜きません。まず、全社員に個人ロッカーを提供しました。これまではお弁当やお財布など、私物が散乱していたデスクの上を整理整頓できるようにし、店舗によっては営業社員はフリーアドレスにして店長・社員同士のコミュニケーションが図れるようになりました。
整備工場のほうにも目を向けてみます。現状、整備士の世界は「体力・筋力勝負」で「女性エンジニアはゼロ」というディーラーが多い中、青森ダイハツモータースの女性エンジニアは5人。全体の約6%と、決して低くない水準を長くキープしています。

なぜ、女性エンジニアの採用に成功し、定着、活躍を進めることができたのか。その秘訣を探ると、「働きやすい整備工場」を目指して実施された、細かな心配りの積み上げが見えてきます。
最初に、整備工場内に女性専用のトイレを創りました。工場など従来女性が少ない職場においては、女性専用トイレがない現場はまだまだ多いものなのです。身体が冷えやすい女性社員のことを考え、工場内には暖房も設置しました。さらに、女性でも作業しやすいオイル交換設備を導入、車体の下に潜らなくてよくなったため、作業者が油まみれになることを防げるうえ、工場内もクリーンに保てるようになりました。
少しでも「男性偏重」が残っていれば、すぐにバレる
また、軽自動車の整備にはあまり用いられない「タイヤリフター」という機材も追加。これは女性エンジニアのみならず、元々腰痛に悩まされていた高齢社員をも好評だったそうです。
工具についても、「汚れても壊れてもそのまま使え」から「壊れたらすぐに取り換えよう」という方針に180度転換。おかげで工場内はいつもピカピカ、誰にとっても気持ちのいい状態が保たれています。
今年の4月、同社の女性エンジニアはさらに2人増え、7人になる見込みです。男性色が強い世界で女性が活躍することで、よりいっそう女性顧客の気持ちに寄り添い、キメ細かいサービスができるようになるはずです。
「顧客からも、社内からも、『変わった』という声が多くきかれるようになった」(松沼社長)だけでなく、同社はダイハツ全販売会社60社の中で、最も顧客満足の高い会社・第2位(2015年度)表彰されました。厚生労働省が実施する「均等・両立推進企業表彰(均等推進企業部門)2015年度においても「青森労働局長奨励賞」に輝いています。
「女性活躍に取り組むなら『覚悟』を決めなくてはなりません。女性は敏感です。やっぱり男性の方が……なんてことを少しでも思っていると、すぐにバレます。自分ひとりではできませんが、心から社員の意見に耳を傾け、社員同士の心が通じ合う環境を整える。こちらも真正面からぶつかっていくと、社員もだんだんと歩み寄ってくれるのです」(松沼社長)