人手不足、派遣も争奪 時給6年ぶり高水準

派遣人手不足、派遣も争奪 時給6年ぶり高水準

景気回復を受け、派遣社員の不足感が強まってきた。IT(情報技術)や会計などの職種を中心に需要が急増。人材情報大手が15日まとめた4月の平均時給は11カ月連続で前年同月比プラスとなり、6年ぶりの高水準で推移している。人手不足を背景に企業は正社員や契約社員の採用も増やしており、働き方の枠を超えた人材争奪戦が激しくなってきた。

 

テンプスタッフは自社の研修センターでCAD技術者を養成する
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テンプスタッフは自社の研修センターでCAD技術者を養成する

「こんなに時給が上がっていいのかな」。都内のプラントメーカーに勤める設計技術者の派遣社員、森和明さん(28、仮名)は喜ぶ。2013年11月に今の会社で働き始めて約半年。時給は1700円と当初から合計で300円上がった。

CAD(コンピューターによる設計)技術者としての実務経験はなかったが、実地で学び今では一人前の技術者になった。時給アップは、森さんのスキル向上と人材の需要増が追い風だ。派遣元のテンプスタッフが顧客企業に8年ぶりに3~5%の料金一斉値上げを要請。森さんの派遣先企業はこれを受け入れた。

リクルートジョブズが15日発表した調査によると、三大都市圏(関東、東海、関西)の派遣社員の4月の平均時給(募集時)は1528円。需要増を背景に11カ月連続で前年比プラスとなり、リーマン・ショック前の08年以来の高水準で推移する。特に設計技術者やIT、会計など一部専門知識のいる職種や介護職などで伸びが目立つ。

時給の上昇だけではない。「派遣期間が終わったら、うちの社員にならないか?」。大手電子機器メーカーで働く事務職の派遣社員、山村香保里さん(37)は最近、派遣先から誘いを受けた。形態は契約社員だが、ボーナスも支給される。山村さんは「条件が良くなるなら」と前向きだ。

派遣会社によると、同様に派遣先に採用されるケースが増加。最近は「派遣社員が転職サイトに登録し、自ら正社員を目指す動きも多い」(インテリジェンスの木下学DODA編集長)という。

製造業で再活用

背景にあるのは深刻な人手不足だ。3月の有効求人倍率季節調整済み)は1.07倍と07年6月以来の高い水準。企業は大学新卒や中途で優秀な人材の採用拡大に動いているほか、アパレルや外食の一部ではパート・アルバイトの正社員化に乗り出す動きも出ている。

 

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派遣社員は本来、正社員の業務を補う位置付け。ただ正社員を中心に人手が足りず、「ハケン」にまで人材確保の動きが及んできた格好だ。

製造業でも変化が見られる。リーマン後の「ハケン切り」が問題視され、一時は現場から派遣社員の姿が消えたが、最近は「自動車関連や電子部品で繁忙感が強い」(製造求人サイト運営のアイ・アム&インターワークス)。富士重工業の系列工場内など、派遣社員を採用する動きが広がっているという。

人手を確保しようと、派遣会社も対策を急ぐ。パソナグループは電機メーカーを辞めた人など約100人を正社員として雇用し、無償で半導体検査技術者として養成、7月から企業に派遣する。技術者派遣のメイテックも毎年900人規模の新卒・転職者を正社員として採用する。CAD技術者の育成研修を拡充するテンプホールディングスの水田正道社長は「企業の要請に応えて必要な人材を確保する」と話す。

総務省によると、非正規社員数は13年で約1900万人と全体の36%を占める。最も多いのはパート・アルバイトの1320万人で、契約社員・嘱託は約390万人。派遣社員は116万人にとどまるが、政府は労働者派遣法を改正する方針。雇用環境の改善の動きは派遣市場の一層の拡大につながる可能性がある。

待遇は二極分化

企業による「ハケン争奪」の動きは働き手にとっては朗報だが、すべての派遣社員の待遇が改善するわけではない。景気回復が鈍い地方では需要はいまひとつ。一般事務などの職に就く派遣社員の時給も低いままだ。

今後取り組むべきは、より多様な働き方の提供だ。都内の中小企業でパートとして働く中村佳子さん(37、仮名)は時給が上がっている翻訳・通訳の派遣社員に魅力を感じているが、多くは「夜6時まで勤務」「残業可能な方」との条件付き。2人の子供を育てる中村さんには難しい。

短時間勤務など、女性やシニアなどのニーズに合わせた仕事を用意すれば、派遣市場に呼び込む余地はある。派遣社員が魅力ある働き方として選ばれるか。人手不足が深刻化するなか、派遣会社の覚悟も問われる。