女性雇用地銀64行が「女性の再就職」で手を組んだワケ 転居先の地方銀行でキャリアを活かせる!
「銀行の仕事、特に個人渉外の仕事は自分に向いているとつくづく思うんです。もっとたくさんのお客様に顔を覚えてもらえるように頑張っています」
神奈川県の横浜銀行で働く白井菜さん(22)は今、仕事への意欲に満ちあふれている。横浜銀行で働き始めたのは今年7月のこと。実はこの3月まで、福井県の福井銀行で働いていた。神奈川県に住む男性との結婚を控えた昨年9月、白井さんは上司に退職を申し出た。
「結婚して神奈川県に転居する予定なので、今年度いっぱいで退職させていただきます」
上司が退職に「待った」
地方ではよくある話かもしれない。地元で就職しても、結婚や配偶者の転勤を機に大都市へ出て行く女性は少なくない。銀行の仕事が好きだった白井さんだが、結婚後は新しい土地でまた一から仕事を探そうと考えていた。
ところがその2カ月後、上司が白井さんの退職に「待った」をかける。11月12日に千葉銀行の佐久間英利頭取が音頭を取る形で、地方銀行協会加盟の64行が名を連ねる「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」が発足。その中で、年度内にも配偶者の転居先にある地銀で再就職できるような仕組みを整えることになったのだ。この仕組みを使えば、白井さんも転居後も銀行の仕事を続けられるかもしれない。
2015年4月、「地銀人材バンク」が創設された。白井さんは3月末で4年間勤めた福井銀行を退職したものの、人材バンクを利用して同行人事部から横浜銀行への紹介を受けた。その後すぐに採用選考を受け、6月に内定、7月の入行が決まる。
「横浜に来てからいろいろな求人を眺めていましたが、これといった仕事は見つかりませんでした。再び銀行の仕事ができると聞いてうれしかったです」と白井さん。福井銀行で所属していたのは田舎町の小さな支店。都会の大きな支店で本当にやっていけのるか不安はあったというが、実際に働き始めるとその不安は払拭され、やりがいのほうが勝ったという。
受け入れ側の横浜銀行にとっても、銀行での経験を持つ白井さんは即戦力だ。もともと経験者のキャリア採用に力を入れていたこともあり、中途採用で入行した人でもなじみやすい風土がある。女性行員が活躍できるような仕組みも整えており、出産を機に退職する人はわずか2.7%しかいない。今後、白井さんが出産などのライフイベントを迎えたとしても、働き続けられるようなサポートの体制は手厚い。
地銀人材バンクについては、白井さんのような受け入れ事例だけでなく、他県に転居する行員を他行に紹介した事例もあり、女性の活躍を支援する仕組みとして有効だと考えている。横浜銀行人財部ダイバーシティ&インクルージョン推進室の堀田貴子室長は、「こうした仕組みは今後も積極的に活用していきたい」と期待を寄せる。
転職しても資格を継続保有できる
地銀人材バンクの創設構想は以前からあった。千葉銀行では2年ほど前に、結婚に伴う転居により退職することになった女性行員を転居先県の地銀に紹介をしたという経験があった。
「ただ、このケースはたまたま先方の地銀とシステムの共同化作業を進めていたこともあって、直接の口利きで実現した。でも、地銀同士がもっと幅広く密なネットワークを築いていれば、さまざまなケースに対応できるのではないかと考えられていた」(千葉銀行ダイバーシティ推進部の山本悠介氏)。
「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」の発足を機に、千葉銀行に置かれた事務局を中心に、このネットワーク化が本格的に推し進められることになった。64行の人事窓口を明確にして最新の名簿を共有。紹介については共通のフォーマットを作成してルール化した。
事務局は実績の管理はするが、紹介のやり取りは当該行の人事部同士で直接行う。銀行員が取得する資格の中には、転職によって消滅してしまうものものあるが、地銀人材バンクを利用する場合はほとんど継続できるようにした。
今年4月の創設から約半年、10月27日現在で39件の実績が上がった(21件が成約、15件は紹介中、3件は本人による辞退)。現時点の実績はすべて女性だが、ゆくゆくは男性の利用も出てくる可能性もあるだろう。なお、転居先から戻ったら、各行が持つ再雇用制度などを利用して、元の銀行で再び働くこともできる。
全国から女性行員が集まる会も
「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」は、地銀人材バンク以外にも積極的な取り組みを続けている。システムの共同化などは積極的に進められている地方銀行だが、実は人事担当同士の交流はほとんどなかったといっていい。
それが今では3カ月に1回のペースで「女性活躍推進研究会」を催し、各行の取り組みや関連データなどを全行で共有するような勉強会を行っている。また、同じく3カ月に1回開かれる「女性リーダー育成部会」は、各行精鋭の女性行員が集まってセミナーやグループワークを行っている。いずれの会も64行すべてが出席するという熱心さだ。
配偶者の転勤や介護などに伴う転居によって、これまでも多くの女性が退職を余儀なくされてきた。こうしたネットワーク化が地方銀行だけでなく、全国各地を基盤とするほかの業界にも広まれば、女性が働き続けられる機会は格段に増えるに違いない。