女性雇用会社を救うのは女性の逆転発想にあり!?キリンビールが工場長に女性を起用した理由
「男の職場」のイメージが強いビール製造。キリンはそんな既成概念を変え、この春、神戸に日本で初めての「女性ビール工場長」を誕生させた。それだけではない。神奈川県内の湘南工場見学のプロジェクトリーダーも女性を起用。さらには「アルコール度数戦争」の開発者も女性。そんな現場を訪ね、彼女たちにキリン復活の秘策を聞いた。
◎男の職場に女性工場長
2014年のビール類市場は、キリンビールの「一人負け」に終わった。課税出荷で他社が揃って前年比シェアを上げている中で、2位の座はキープしたものの、前年比1.6ポイント減となってしまったのだ。そのキリンビール復活のカギを握っているのが、主力商品である『一番搾り』だ。
一般的なビールの製法は、もろみをろ過して最初に流れ出した「一番搾り麦汁」と、一番搾り後のもろみにお湯を注いでエキスを搾り出した「二番搾り麦汁」を混ぜる。しかしキリンビールの一番搾りは、その名のとおり一番搾り麦汁だけを使うという贅沢な製法でつくられている。このこだわりを、全国に九つあるキリンビールの工場が日々、確実に実現し続けることが、キリンビール復活にもつながる。その工場で異変が起きた。今年の三月付けで、神戸工場長に神崎夕紀さんが就任したのだ。
装置産業であるビール製造は、そもそもが「男の職場」といわれてきた。従業員比率でいえば、現在も圧倒的に男性が多い職場だ。そうした中で女性の工場長の誕生は「事件」である。キリンビールにとっても初めてのことだが、日本のビール業界でも初だった。
「行政関係者とかにあいさつに行っても、女性工場長ということで、まずは驚かれますね。でも、それも慣れてもらわないとね」
と言って、神崎さんは笑って話す。それでは本人も戸惑っているのかといえば、そんなことはなさそうだ。
「むしろ、差別されなかった結果でしかありません」
1988年に佐賀大学農学研究科を修了した神崎さんは、体外診断薬製造メーカーに入社する。そしてキリンビールに入ったのは、92年のことだった。つまり、中途採用組である。
「最初に就職した職場は学生時代に考えていた仕事のイメージとちょっと違っていました。でも、キリンビールでは、辞めたいと思ったことは一度もありません。それより、与えられたチャンスを生かすことばかり考えていました」
福岡工場で品質保証の仕事に携わり、97年には醸造担当して神戸工場の立ち上げに加わり、その後に横浜工場を経験し、2007年には栃木工場の醸造担当部長に就任した。さらにはキリン株式会社R&D本部種類技術研究所の副所長も経験している。このキャリアからすれば、工場長は当然のポストであり、今流行の「女性登用」にのっての話題づくりではないことは明白だ。もちろん、それには神崎さんの努力が不可欠だったことは言うまでもない。
「これから工場長として、一番搾りのおいしさの設計を120%再現していくことに全力を尽くしていきます」
力強く、神崎さんは言う。一人負けといわれたキリンビールの、このままでは終わらないパワーを感じた。
◎アルコール度数1%へのこだわり
キリンビールも一番搾りだけの「一本足打法」で経営がうまくいくわけがない。たくさんの商品が補完しあってこそ、本当に強い経営になる。そうした中で、最近、注目を集めているのが今年三月から全国発売された『キリン バタフライ』だ。
アルコール度数1%というバタフライは、「若い人たちに好まれる酒」というコンセプト開発から始まった。始まったのは発売の五年も前のことで、開発期間は半年から一年が普通といわれる中では、長すぎる時間のかけかたである。それだけ、苦労して生みだされた商品ともいえる。
最近の若者は、がっつり酔うことを好まない。だからこその1%なのだが、ジュースになってしまっては意味がない。そうなると、なおさら「味こそが命」となってくる。その味を担当したのが、実は女性なのだ。アップル、ジンジャー、紅茶という三つの味があるが、それぞれひとりの女性が担当している。京都大学農学部生命科学研究科を卒業、2008年にキリンビールに入社し、バタフライ開発の途中から参画した茶木香保里さんが担当したのは、アップルだった。
「飲みながら本を読んだり、酔いすぎないからほかのこともやれるといった良い面があります。そこを生かしながら、お酒の感覚も得られる味づくりに四苦八苦しました」
と、語り尽くせない苦労を茶木さんは口にする。それを実現できた大きな要素が、「シードルを使うことでした」とも打ち明けてくれた。
◎見学者を惹きつける工場
キリンビールだけでなく、キリングループには活躍する女性がまだまだいる。工場見学は、消費者との距離を近くする有効なツールでもある。『午後の紅茶』を生産するキリンビバレッジの湘南工場でも、これまでは小学生中心だったが、今年四月からは大人にまで広く対象を広げて見学者を受け入れている。もちろん多くの見学者を惹きつけるには、見学者が楽しめるコンテンツが必要になってくる。そのプロジェクトのリーダーを務めたのが、高井美奈さんだ。
「感動してもらえるものを目指しました。例えば材料が膨らんでペットボトルができる瞬間は、多くの人が見たことのないものですが、映像で見せても感動が薄い。本物の機械の前に案内するのは、安全面で問題がある。そこでミニチュアの機械を特注して目の前で見てもらえるようにしました」
と、高井さん。それには少なくない費用がかかる。直接の利益を生まない工場見学に多額の経費をかけるのはリスキーでもある。しかし、そこは高井の押しの強さで乗り切った。そんな妥協しない高井さんを中心につくられた湘南工場の見学コースは多くの人を集め、多くのビバレッジファンをつくりだしていくはずだ。
その高井さんは、四月から中四国地区本部西中国営業部の部長として赴任している。女性の営業部長は、キリンビバレッジとしても初めてのことだ。もちろん、女性登用の流行にのったのではなく、高井の実力が評価されてのことである。実力をきちんと評価できる経営と、それに応えられる力を持った女性たちがキリングループを支える。