「短時間正社員」制度の先進国・オランダに見る 子育てママの新しい働き方

女性雇用「短時間正社員」制度の先進国・オランダに見る 子育てママの新しい働き方

ユニクロの「4時間正社員」や、洋菓子のモロゾフの「ショートタイム社員制度」など、短時間正社員という働き方が日本でも広まりつつある。勤務時間はパート並みだが、待遇は正社員と同等という制度だ。

勤務時間はパート並みだが、待遇は正社員。大手企業が続々と導入している、新しい働き方だ

優秀な人員を引き留めたい――。それが狙いだと、モロゾフは日経新聞の取材に答えている。同社では正社員の46%、パートの97%が女性。売り場の貴重な戦力が結婚や出産で辞めていくのが痛手だった。接客上手な販売員は売上増にも貢献するし、あの人を見習えばよいのだという模範にもなる。そんな人材を正社員に引き上げることで、「頑張ればわたしも……」というモチベーション向上も期待できる。

スーパーマーケットや小売店の店頭で接客にあたる従業員の大半は女性で、その多くが主婦だ。家事や子育てに時間を取られる彼女たちには、そもそもフルタイム勤務は難しい。だから低賃金のパートタイムしか選択肢がなかったわけだが、かといって彼女たちが時給相応の低付加価値な労働力でしかなかったかといえば、先のモロゾフの例にもあるように、決してそんなことはない。

伊丹十三監督の映画『スーパーの女』(1996年)は、激安を売りにする競合店に押されてつぶれかけた中小スーパーに、宮本信子演じる主人公がレジチーフとして入店し、改善策を次々に提案。パートの中でも向上心の強い人たちのモチベーションに火をつけて店の雰囲気を変え、競合店から客を奪うというストーリーだ。彼女のようにリーダーの資質を秘めた女性スタッフは現実にあちこちのお店にいるが、非正規パートとして埋もれ、芽を出せずにいるのが日本の現状だ。

「パートタイム大国」になった
オランダに見る女性の働き方

働ける時間は短くても、やりがいと責任のある仕事を任されてバリバリ働く。そんな仕組みを定着させて、女性労働力の活用に成功したのがオランダだ。夫婦がともにフルタイムで働く北欧スタイルとは異なり、女性は主にパートタイムであるのが特徴で、日本の労働市場との親和性も高い先行例として、見習うべき点が多い。

男は正社員、女は専業主婦――。じつはオランダも、出発点は高度成長期の日本と同じだった。

オランダはパートタイム大国として名高い。パートタイム就労者(週30時間未満)の比率はOECD諸国平均値では16.8%(2013年)だが、オランダでは38.7%であり、働く女性の6割強(男性は19.3%)がパートという現状だ。

パートといっても、日本と違って非正規雇用ではない。1996年の「労働時間差別禁止法」や2000年の「労働時間調整法」により、ライフスタイルに応じた労働時間で待遇差別なく働けることが法制化された。この「同一労働・同一賃金」の原則はEC諸国に共通するものであり、この点で日本ははるかに立ち遅れている。

ちなみにオランダの共稼ぎ世帯で非常にに多いのが、「1.5稼ぎ」と呼ばれる、夫がフルタイムで妻がパートの組み合わせだ。中谷文美著『オランダ流ワーク・ライフ・バランス』(2015年)で紹介されている家族の中にも、大手銀行のIT部門でマネージャーを務める夫はフルタイムで週4日9時間(以上)の36時間(以上)勤務、美術館勤務の妻はパートタイムで週3日9時間の27時間勤務といった例が多く見られた。

なぜ、北欧諸国のように妻もフルタイムで働かないのか?そこには伝統的価値観が深く根差している。じつはオランダでも、男は外で働き、女は家を守るという家庭像が長らく当たり前のものとされてきた。学校から帰ると母親が紅茶とクッキーを用意して待っていてくれたという記憶は多くのオランダ人が共有するものだ。家族による支え合いを重視するキリスト教民主主義の社会観が根強くあることから、女性が社会進出を果たしてからも、仕事と家事で半々という働き方が自ずと定着することになった。

「私たちはスウェーデン人ではない」「保育所がタダになったからといって、子どもを預けっぱなしにはしない」というのが、同書で紹介されているオランダ人の生の声だ。だから妻の多くは大学職員、研究所員といった高度な専門職に就いていても出勤日を週3~4日にして子どもの世話をしているし、夫も前述の銀行員のように、週3日を休日にして子育てを分担している人が多い。

こうしたオランダの「1.5稼ぎ」スタイルは、パートタイムの妻をユニクロやモロゾフの「短時間正社員」に置き換えれば、我々日本人のモデルケースたり得る。ただし、ここで忘れてはならないのは、週3日や4日というオランダ人の働き方がじつは相当な激務であることだ。前述の銀行員の夫などは休日を確保するために1日12時間以上働いているし、パートの妻にも仕事の電話やメールには休みの日にも対応していたり、仕事を持ち帰ってサービス残業したりという例が少なくない。

昼休みにいったん帰宅してもOK!
ママに優しい準社員制度を掲げた矢野調剤薬局

川崎市を中心に8店舗を展開する矢野調剤薬局は、ドラッグストアチェーンとは異なり、病院の処方箋に応じて薬を調剤する薬局だ。同社の求人情報で目を引くのが、「昼休みを長め(12時半~15時など)にし、いったん帰宅して昼食をとり、洗濯物を取り込んで、リフレッシュしてから午後の勤務に戻ってくる従業員もいます」といった文言だ。同社は主婦に優しい勤務形態を掲げており、週30時間勤務でもフルタイムと同条件の準社員制度を設けている。

フルタイムと同条件の「準社員制度」を設けた矢野調剤薬局。年収130万円の壁を超えさせるのだから、正社員同等に報いる制度とした

メディカル・ステーションサイド稲田堤店で働くIさんは、この準社員制度に惹かれて同社に応募したひとり。以前に正社員として勤めていた薬局では朝8時に家を出て20時過ぎに帰宅する毎日で、家事との両立が大変だった。それが今では木・金・日の週休3日で、昼休みもだいたい13時~14時半にとっていったん帰宅でき、ずいぶんゆとりが生まれたという。

「薬剤師は超売り手市場。紹介会社経由で人を探そうにも、応募者を見つけることすら難しいほどなのです」と、同社の矢野大太社長は語る。現在の準社員制度の前身ができたのは1994年頃。人手不足の穴を埋めるべく、当時全員がパートだった薬剤師に勤務時間を増やしてもらいたいと考えた先代社長が、年収130万の壁を越えさせるなら、それ以上のメリットを従業員に与えてやらねばと、社会保障をはじめとして正社員同等に報いることにしたという。

矢野調剤薬局の「準社員」は、日本の短時間正社員制度の典型例だ。優秀で貴重な人材を引き留め、職場のモチベーションを向上させるために会社が身を削ってでも従業員を優遇する。「主婦の生活スタイルを優先しているため、夕方以降の人員配置が悩みの種で、午後から閉店まで働ける人が喉から手が出るほど欲しい状態です」と矢野社長は語っていたが、じつにあっぱれな企業姿勢である。

オランダは国策として
中高年男性社員の退場を促した

話はオランダに戻る。出発点は高度成長期の日本と同じだったあの国が、なぜ世界に冠たるパートタイム大国になることができたのか?

その一大要因はかつて「オランダ病」と呼ばれた構造不況だ。2度の石油危機を経て貿易立国のオランダは国際競争力を失い、社会保障負担の増大に耐えられなくなった。そこで1982年に「ワッセナー合意」が政労使の代表者間で結ばれ、三方一両損のごとき妥協が成立した。経営者が求める賃金抑制と、労働者が望む労働時間短縮、そして政府による減税が同時に進められることになったのだ。

賃金抑制で大きな役割を果たしたのが、就労不能保険(WAO)だ。失業保険のようなものだが、最大限の8割支給を大半の人に認め、しかも無期限という運用がなされたため、当時のオランダ政府には耐えがたい負担だったろうが、これが結果的に、賃金の高い中高年男性をごっそり退場させることにつながった。今の仕事にしがみつくよりは、就労不能保険をもらうほうが得だったからだ。

中高年男性が抜けた穴を埋めたのが女性パートタイマーだった――。ごく大ざっぱにいえば、そういう図式が成り立つ。

元日未明の「朝まで生テレビ」で竹中平蔵氏が、「同一労働・同一賃金と言うんだったら、『正社員をなくしましょう』って、やっぱり、あなた、言わなきゃいけない」と発言したことが物議を醸したが、オランダの先例はこの点でもたいへん示唆に富んでいる。

国策として特権的な正社員を引きずり下ろし、下方平準化に成功したのがオランダだ、といえなくもないからだ。

日本の短時間正社員制度はまだ一部の企業が採り入れただけで、大多数の女性は非正規パートにとどまっている。そして雇用者の企業は、第3号被保険者制度を隠れ蓑に、社会保障費用負担を堂々と免れている。

同一労働・同一賃金を日本でも真に実現するためには企業の努力だけでは不充分だ。「正社員をなくしましょう」という竹中平蔵氏の持論をオランダのように国策としてやるくらいの荒療治が、斜陽国家日本の再浮上には必要なのかもしれない。