「週5日」の在宅勤務、イノベーション生む柔軟な働き方

女性雇用「週5日」の在宅勤務、イノベーション生む柔軟な働き方

医療機器・医薬品の開発・製造販売、医療サービスを提供する世界的な大手ヘルスケア企業バクスターインターナショナルインク。その日本法人バクスターは、2014年9月に本社オフィスを虎ノ門ヒルズに移転し、同時に従来、導入していたテレワーク制度を拡大。週2日だった利用上限を撤廃し、週5日すべて利用できるようになった。

同社のテレワーク制度は勤続年数や育児、介護の有無などの条件に関係なく、上司の許可さえあれば誰でも利用できるという(工場勤務などは除く。試用期間は利用不可)。この取り組みについて、同社の人事総務本部長・執行役員を務める吉本靖弘氏に聞いた。(聞き手=ワクスタ編集部)

――希望すれば週5日の在宅勤務が可能というテレワーク制度は、かなり画期的です。このような大胆な仕組みを導入した狙いと経緯を教えてください。

吉本:根本にあるのは優秀な人材を確保して、より活躍できる環境を整えようという発想です。

2008年より当社のアジア・パシフィック地域では、優秀で多様な人材を採用・確保し、活躍していただくために男女比率を50:50にすることを目標にしたプログラム「ビルディング・タレント・エッジ」をスタートさせました。当社も例に漏れず男性比率が圧倒的に高い状況でしたが、そもそも男女の人口比率がほぼ50:50なのですから女性にも優秀な人材は同じだけいるはずで、男女比率を50:50にすることは幅広く優秀な人材を確保するという目的からしても自然なことです。そこで、女性社員が出産や育児などでキャリアを諦めてしまうことがないよう、もちろん女性だけでなく男性でも育児に参加したい、もしくは親の介護など、女性同様にキャリアの継続が難しくなる機会はありえますので、男女ともに対し、制約を意識せずにフレキシブルに働くことができる環境を整える必要がありました。

経営戦略として「柔軟な働き方」を促進

――テレワークのほかにも、フレックスタイム、時短勤務、最大3年の育児休業、ノー残業デーといった柔軟な働き方を実現する制度が充実していますね。

吉本:生命科学ビジネスを生業としている以上、イノベーションは私たちの生命線です。革新的なプロダクトやソリューションを生み出すためには、様々な考え方を持った人々が集まる多様性の高い組織である必要があります。

そこで、私たちは多様性を活かす文化を根付かせるために「インクルージョン・アンド・ダイバーシティ」(インクルージョン:多様な人材が企業と一体化し、成果を出せる文化の醸成、ダイバーシティ:多様な人材の採用)を推進しています。個々の社員がそれぞれの事情に応じた働き方ができる環境は、社員への配慮という意味合いもありますが、経営戦略としても重要なものと考えています。最大週5日利用できるテレワーク制度も、そうした自由で柔軟な働き方を促進するためのひとつです。

――テレワーク制度を利用するにあたって、どのような手続きが必要なのでしょう。

吉本:テレワーク制度は工場勤務を除く、管理職を含めた全社員が利用できます。基本的に事前に直属のマネージャーに申請して許可を取れば、いつでも在宅で仕事ができるようになっており、それぞれの管理もすべて直属のマネージャーにお願いしていますし、人事に断る必要もありません。

――では、「子供が熱を出したので今日は在宅勤務をしたい」というような突発的なケースでも、テレワーク制度を利用できるのですね。

吉本:そうです。そういったケースを含めて、すべて直属のマネージャーとのやりとりの中で決めています。「毎週3日は自宅で集中して仕事をしたいから在宅勤務」と定期的にテレワーク制度を利用している社員だけでなく、さまざまな形で多く活用できます。テレワークは、育児をしながら働いている社員だけでなく、多くの社員に好評です。

バクスターは2014年9月に虎ノ門ヒルズに本社を移転した。写真はカフェ。開放的な空間が広がる(写真:バクスター)

無意識の偏見を取り払う

――社員にとってはワークライフバランスの向上にもつながる制度だと思うのですが、マネージャー層からテレワーク制度によって「管理や評価が難しくなる」といった反応はなかったのでしょうか。

吉本:とくに大きな抵抗はありませんでした。以前からマネージャー層には「インクルージョン・アンド・ダイバーシティ」を促進するトレーニングを実施しています。そこでは、例えば「親の介護や、子供の育児のため定例会議に出席できない社員にはどう対応するべきか」といったテーマを設けてディスカッションをすることで、個々の社員の事情に対してどのような配慮が必要なのか、配慮することでどのような利益があるのかということを考えます。

そのときに重要になるのが無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を取り払うことです。「オフィスで仕事をした方が効率的だ」とか「長時間働いた方が業績は上がる」など、根拠がないにも関わらず、固定化してしまっている思い込みを取り払って、一度考えてから社員とコミュニケーションを取るようにする習慣をつけることが狙いです。

こうしたマネージャー層の意識を高めるためのアクティビティを続けてきていたので、テレワーク制度についても抵抗がなかったのでしょう。そもそも管理職も在宅勤務をすることが多いですから(笑)。海外とのやりとりで電話会議などを活用する文化が定着していたことも影響しているかもしれません。

――テレワーク制度の導入にあたり、オフィス環境については、どのような工夫をされていますか。

吉本:虎ノ門ヒルズにオフィスを移転すると同時に、フリーアドレス制を導入してペーパーレス化を促進しました。全社員にスマートフォンとノートパソコンを支給して、自由に持ち出せるようにもしています。名刺に記載されている電話番号も基本的にオフィスの固定電話ではなく、支給された携帯電話の番号です。ノートパソコンにもソフトフォン(電話)機能を搭載してあります。オフィスにいなくても会議に出席できるようなITネットワークを充実させ、場所に縛られることなく働ける環境を整えています。

バクスターのオフィスエントランス(写真:バクスター)

女性管理職が20%超に

――そのような取り組みの結果として、どのような効果がありましたか。

吉本:全社員のうち女性社員の比率は約40パーセント、女性管理職の比率も20パーセントを超えました。女性役員の中には育児休業から復帰して、テレワークやフレックスタイムを利用して活躍しているメンバーもおり、優秀な人材の確保という意味では、成功しているといえるでしょう。昨年末に行った社員への調査では、こうした取り組みの結果、8割以上の社員が「柔軟な働き方ができて効率が上がっている」と回答しています。

――テレワーク制度など、社員の自由度を高めて柔軟な働き方を実践するためには何が必要なのでしょう。

吉本:会社が掲げていた理念のひとつに「一人ひとりを尊重し、多様性を原動力に」というものがあります。このような考え方が文化として根付いていることが、多様な働き方の広がりに貢献していると考えています。また、「オフィスにいない社員を管理できない」というのもアンコンシャス・バイアスのひとつです。フレキシブルなワーキングスタイルの実現も、やはりマネージャーと社員がお互いに敬意を払い、信用することが第一歩となるでしょう。

――多様性を認め、働きやすい環境を整えることで、経営上も大きなメリットにつながるのですね。

吉本:「インクルージョン・アンド・ダイバーシティ」によってイノベーティブなものが生まれれば、それで競争において優位な立場になりますし、革新的なプロセスが生まれればコストダウンにつながります。経営面から見ても当然、大きな意味のあることです。

現在、フレキシブルなワーキングスタイルを実現する制度はある程度出来上がっていると考えています。今後はその考え方や活用を文化として根付かせ、より浸透させていくためのアクティビティを続けていくことになるでしょう。