出社は週3日だけ!「兼業正社員」の働き方

女性雇用出社は週3日だけ!「兼業正社員」の働き方

「在宅勤務」「テレワーク」「週3日出社」など、新しいワークスタイルを選択する人が増えている。企業にとっても、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を受け入れることは、多様な人材の活用を進める上で大きなメリットがある。「フルタイムの正社員として、週5日、決まった時間に出社する」という従来のスタンダードにとらわれることなく活躍する女性たちのワークスタイルを紹介する。

大手証券会社からフリーランスへ

出社するのは週3日、でも「正社員」――。都内のベンチャー企業に勤務する坂下理紗さん(31)が選んだ働き方だ。坂下さんの出社日は火・木・金曜日。営業職として多数のクライアントを担当している。

一方、月・水曜日の坂下さんには別の顔がある。フリーランスとして、資産管理のコンサルティングや広報・PRなどを幅広く手がけているのだ。多忙な毎日だが「今は本当に仕事が楽しい」と話す坂下さん。彼女はどのようにして、現在の働き方にたどり着いたのだろうか。

大学院で物理学を学んだ坂下さんが最初に入社したのは、大手証券会社だった。「柔軟な働き方」とは縁遠い、典型的な日本企業で、週5日のフルタイム勤務はもちろん、深夜残業も当たり前の日々を過ごした。投資銀行部門のアナリストとして金融の知識を身につけたのち、英語力を生かせる外資系メディアのアナリストに転職する。

外資系企業のオープンな社風は自分に合っていると感じていたものの、2011年、東日本大震災をきっかけに外資系企業の撤退が相次ぎ、坂下さんの勤務先も一時閉鎖されてしまう。そんな中、「本当にやりたいことに挑戦したい」と、以前から興味のあった絵画の世界への転身を決意。知人の誘いで、画廊のPR業務を手がけることになった。

画廊では、イベントのプレスリリース作成をはじめ、国際会議に合わせてプロモーション活動をするなど、日本人アーティストと海外のクライアントをつなぐためのさまざまなプロジェクトを手がけた。この挑戦をきっかけに、「人と人をつなぐ」仕事の楽しさに目覚めた坂下さん。次第に大きなプロジェクトを引き受けるようになり、12年春にはフリーランスとして独立を果たす。坂下さんのオープンな人柄からか、イベントのPR以外にも、前職の経験を生かした金融コンサルティングや、不動産のPRなど幅広い仕事が舞い込むようになった。

「週3日でいい。正社員になってほしい」

昨年夏には、手掛けていた大きなプロジェクトが一段落。フリーランスの仕事と両立できる新たな仕事を探し始めた。そんなとき、知人のSNSを通じて知ったのが、ハイスキルな女性と企業のマッチングを行う人材紹介会社の存在だ。登録した会社からさっそく紹介されたのが、高い技術を持つ中小企業と、新商品・新サービスを開発したい大企業のマッチングを手掛けるベンチャー企業リンカーズの営業を担当する「統括マネジャー」だった。

これまで、アナリストやコンサルタントとしてキャリアを積んできた坂下さんにとって、今回の仕事は大きな「キャリアチェンジ」にも見える。しかし、「これまで顧客とリレーション構築しながら業務を遂行してきた私の経験を活かせる仕事だと思いました」と坂下さん。その理由は、既存の商品やサービスを売るのではなく、中小企業と大企業をマッチングするというリンカーズのビジネスモデルにある。リンカーズの統括マネジャーに求められるのは、まさに坂下さんが得意とする「人と人とをつなぐ」能力だったのだ。

坂下さんは、プロジェクト単位で仕事を請け負う「業務委託」という形でリンカーズと契約を結び、週3日出社ほどのペースで働き始める。当初は坂下さん自身も、正社員になれるとは思っていなかった。しかし、坂下さんの営業センスのよさを見抜いたリンカーズの前田佳宏社長は、彼女が働き始めて1カ月も経たないうちに、「正社員として、当社の事業に継続的にかかわってほしい」と持ちかけた。

前田社長はもともとコンサルティング業界の出身で、結果さえ出せば働き方にはこだわらないという仕事観を持っていた。坂下さんに「成果を上げてくれれば、出社は週3日で構わない」という条件を提示。リンカーズでは、社長の方針により、正社員であっても兼業が認められている。坂下さんにとっても、正社員として安定した収入を得ながら、フリーランスとしての仕事も大切にできるリンカーズの提案は魅力的だった。

こうして坂下さんは「週3日出社の正社員」になった。出社義務があるのは火・木・金曜日だが、そのほかの曜日も、クライアントからの電話やメールに自宅や外出先で対応することはある。リンカーズでは、インターネットと電話があれば会社にいなくても仕事ができる、いわゆる「テレワーク」のシステムが確立されている。そのため、週3日出社でも仕事の上で不自由を感じることはない。

また、全国の中小企業が受注先になるビジネスモデルの性質上、社員は出張が多く、普段からオフィスにいないことが多い。週3日という勤務体系でも、坂下さんだけが特に不在がちという状況ではないという。

「月・水曜日は出社する必要はないのですが、都心にあるリンカーズのオフィスは便利で快適。集中して仕事をするために、自主的にオフィスへ行くこともあります」という坂下さん。「そういえば、理紗さんは週3日出社の契約ですよね?」と同僚から確認されることもあるほど、リンカーズの雰囲気に違和感なく溶け込んでいる。

2つの「スイッチ」で仕事にメリハリ

週に3日の出社といえども、坂下さんのリンカーズでの活躍ぶりは、週5日、フルタイムで働く正社員に勝るとも劣らない。アナリストやコンサルタントとして培った分析力を生かし、企業が自社の課題を解決するためのツールとして、リンカーズのサービスを提案。大手企業への新規営業を次々と成功させた。

リンカーズでは、自身が開拓したプロジェクトの運営に、統括マネージャーが最後までかかわる。坂下さんも、もちろん例外ではない。ほかの社員と連携しながら、受注側の中小企業、発注側の大手企業、両者をつなぐ公的機関や外郭団体のコーディネーターの三者とやりとりし、プロジェクト全体を統括する役割を果たす。

成長著しいベンチャー企業の中核として、多忙な日々を送る坂下さんだが、意外にも19時~20時には帰宅することが多く、ストレスを感じることは少ないという。週3日の正社員、週2日はフリーランスという2つの「スイッチ」があることで仕事にメリハリが生まれ、業務の効率化にもつながっているのだ。

正社員になったことで責任も重くなったが、同時に仕事の幅も広がった。営業の仕事に加え、もともと好きだったという法律の知識を活用し、顧問弁護士と協力して契約書を作成するなど、法律に関する業務を担当するようにもなった。業務の領域が限定されない正社員ならではの経験は、「私自身のキャリアの上でもプラスになると感じています」と坂下さんは言う。

現在、坂下さんは、リンカーズにとって初めてとなる海外企業の案件を担当している。彼女が培ってきた「人と人をつなぐ力」を存分に発揮することができるプロジェクトだ。

「このような働き方が向いている人もいれば、そうでない人もいると思います。少なくとも私自身は、今の働き方が一番楽しいです」

「週3日出社の兼業正社員」として、坂下さんの挑戦はこれからも続く。