女性雇用「女性が働きやすい職場」はヤクルトに学べ ママに嬉しい「時短」「家近」「託児付」
今から50年前――。東京オリンピックが開催され、日本は好景気に沸いていた。女性雇用者数は年率5~6%で増え続け、それに伴い主婦(有配偶者の女性)の就業率も大きく上昇。「OL」という言葉が企業で働く若い女性の呼称として登場し(1964年)、「共稼ぎ」という言葉が夫だけでなく妻も職業を持ち、夫婦がともに生計を担う家庭を指して使われ始めたのもこの頃(1965年)だ。
女性の社会進出を後押しした「ヤクルトレディ」
「ヤクルトレディ」が登場したのは、日本がそんな時代に突入しつつあった1963年のことだ。「ヤクルト」の顧客は家庭の主婦が中心。勝手口から訪問し、商品のよさや健康面へのメリットを伝えながら手渡しで届けるというスタイルは、男性よりも女性にフィットする。地方で始まったこの販売制度は、やがて全国で組織化された。その背景には、女性が男性と同じように働くことに対してまだ戸惑いや賛否両論がある時代に、女性の社会進出を後押ししようという思いもあったと言う。
当時のヤクルトは、牛乳と同じように毎日早朝に宅配が行われていた。そのため「朝ごはんまでに帰ることができる仕事」として、女性の中でも特に主婦に人気の職業となったという。1970年代には、小さな子どもを持つ女性でも安心して仕事ができるよう、いち早く事業所内保育所を設置。定年もなく、どのようなライフイベントを迎えても女性が一生続けられるよう、さまざまなサポートが行われてきた。
現在、宅配は朝でなく昼に1週間分をまとめて届けるという形態に変わったが、働く女性をサポートする体制は変わらず、20~70代まで幅広い年齢層の女性がヤクルトレディとして働いている。
ヤクルトレディの日常は?
神奈川県内の営業所でヤクルトレディとして働く佐橋あゆみさん(25)。毎朝8時過ぎに3歳の子どもと共に自宅を出ると、自転車で10分ほどの営業所(センター)に出社する。センターの2階が保育所だ。いったん上に上がって保育者に子どもを預けると、身支度を整え宅配の準備をする。
原付3輪スクーターで担当地域を回り、1日40~50件の家庭に商品を届ける。その多くが、週1回の佐橋さんの訪問を心待ちにしている顔なじみの客だ。商品を手渡しながら、世間話にも花が咲く。そんな会話の中で、毎週2パック注文していた客が「夫も飲みたいというから5パックいただくわ」と注文数を増やしてくれることもある。またある客は、訪問のたびに好意でお菓子をくれる。訪問のたびに子どもの話で盛り上がっていたある客は、子どものダンスの発表会の様子を録画したDVDを貸してくれたという。
一方で、毎週2パック注文していた客に「飲み切れないから1パックでいいわ」などと言われてしまうこともある。「1日1本」がヤクルトの勧める飲み方だ。「それでも余るということは、まだ商品のよさが十分に伝わっていないということ。もっと頑張らなきゃって思います」と佐橋さんは言う。
さらにショックなのは「やめたい」と言われたときだ。理由はさまざま。無理やり引き止めても仕方がない。数カ月後に訪問してみると再開してくれることもあるので、そういう場合はいったん引くことにしているという。
時には、訪問先の近隣の家庭のインターホンを押してみる。話を聞いてくれそうなら、商品の説明をして勧めてみる。訪問したすべての家庭が顧客になってくれるわけではないが、佐橋さんは平均して月に3~5件の新規客を開拓している。ヤクルトレディに売り上げノルマが課せられているわけではないが、何もしなければ歩合制の給料が増えることはない。仕事を始めた頃は、知らない家庭のインターホンを押すことに抵抗を覚えたが、2年経った今では何の戸惑いも感じなくなったという。
こうして1件ずつ担当先を回り、センターに戻ってくるのは13時近くだ。同僚とテーブルを囲んで弁当を食べる。同じセンターで働くヤクルトレディの年齢層は幅広いが仲がよく、ランチタイムは楽しみのひとつだ。1日の訪問の様子を話したり、先輩に商品の説明の仕方を教えてもらったりもする。後輩の仕事の話から学ぶことも多い。
また、同じような年齢の子どもの話で盛り上がることも多く、洋服のお下がりが頻繁にやり取りされているという。夕飯のおかずの話やファッション、健康、地域の話題に至るまで、女性同士が集まれば、とにかく話が尽きることがない。
急な休みも「お互いさま」で「当たり前」
当日の売り上げをまとめて、翌日の商品準備を終えるとその日の業務は終了。15時ごろに階上の保育所に子どもを迎えに行って、一緒に帰宅する。
佐橋さんがヤクルトレディを始めたのは、子どもが1歳10カ月の頃だ。学生時代、就職活動はしたものの、大学卒業後すぐに出産をした佐橋さんには、社会人として働いた経験がなかった。それでもどうしても働きたい。だが、働いていないと保育園には預けられないし、子どもを預けなければ就職活動ができない。そんな中で見つけたのがヤクルトレディだ。
保育所が併設されているので、子どもを預けることについて心配はない。しかも未経験でもできる仕事だと書いてある。ただ、インターネット上には、ネガティブな書き込みも散見されたのが気になった。ちょうど中学時代の先輩がヤクルトレディとして働いていた。相談してみると、心配したようなことはないという。「あゆみには向いていると思うよ」とひと言。それで心が決まった。
併設の保育所は通常6~7人の子どもが在籍しているが、春休みや夏休みの期間になると幼稚園に通っている子どもが加わり、賑やかになる。子どもたちは毎日楽しそうに過ごしている。月にかかる保育料は5000~6000円(地域によって異なる)。認可保育園に比べても格段に安い。
子どもの病気などで急に休まなければならなくなったときは、同僚が担当先を代わりに回ってくれる。「急なお休みは申し訳ない気持ちでいっぱいになりますが、同僚のほとんどが子どもを持つママなのでお互いさま。逆に自分が同僚の担当分を回る日もよくあります」。訪問先が増えれば時間もかかるが、売り上げも増える。また、事前に休むことがわかっていれば、訪問予定日の前後に調整するなど、顧客とのコミュニケーションを通して自分でやりくりできる。
働き始めて丸2年。自身で顧客開拓をしたり、既存客の注文を増やしたりできるようになって、働き始めた頃よりも「たくさん売れる月」が増えてきた。ヤクルトレディは個人事業主として各販売会社から業務委託を受けて販売を行っており、売り上げに応じて手取り収入が決まる。全国のヤクルトレディの平均月収は約8万円。佐橋さんの収入は月によって異なるが、多い月だと約17万円に達することもある。
採用は難航気味だが…
現在、ヤクルトレディはヤクルトの乳製品売り上げの約6割を担う。全国に104ある販売会社(2014年6月末)で約4万人が働いている。だが、その数は年々減少傾向にあるという。特にここ数年は、女性が仕事を続けるための選択肢が増え、採用も難航気味だ。地域によっては、求人チラシを何千枚と配布しても、応募が1件もないという状況があるという。
女性が働き続けるためのサポートやモチベーションを上げるための仕組みを取り入れる企業が増えているのは確かだ。ただヤクルトには、もともと時間の制約がある子育て中の女性を前提として発展してきた組織ならではの一日の長がある。
今でも、事業所内保育施設を設置しようという企業が頻繁に視察に訪れ、女性のモチベーションを上げる仕組みについて研究したいという企業も多い。「女性活躍推進」が声高に叫ばれている今、女性が働きやすい職場を築いてきた先駆者として学ぶべき点は多い。