女性雇用“できるママ”が集まる企業の「仕掛け」とは? 4社の実例で効果的な手法が分かった!
子育てに励むと同時に、仕事への意欲も高まっていく――。夫の転勤や出産などを機に女性が企業勤めを辞めてしまうと、復職へのハードルは高い。とりわけ、小さい子どもを抱えて時短勤務を望む女性を積極的に採用する企業は少ないからだ。しかし、その現実を逆手にとって、子育て中の優秀な女性を呼び込むことに積極的な企業もある。
サービスを自分事としてとらえてくれる女性が必要だった
『子育て中のママの採用も積極的に行っています。時間短縮や曜日指定なども可能ですので、お気軽にご応募ください』
子供がいても安心して働ける!
採用情報ページにあるこのフレーズを見て、安心して応募することができたと語るのはウェルスタイルでディレクターを務める太田悠紀子さんだ。
兄弟の影響もあって幼いころからゲームに慣れ親しんできた太田さん。大学卒業後ゲーム会社に就職。数十人がかかわる大型作品のゲームプランナーとして、ハードワークをこなす毎日を送っていた。やがて結婚、出産。育休後に復職した約8カ月後に、太田さんは退職した。
「会社のサポートもありましたし時短勤務で復帰したので、物理的な問題はありませんでした。辞めたのは心境の変化からです。ゲームプランナーの仕事は自分もゲームをすることが必要で、日ごろからプレーしていないと感覚もついていかない。ところが、育児をするようになると、自分が使える時間は1日に1~2時間あるかないか。その時間をゲームに使うか、育児などに使うかと考えると……。子どもが喜ぶことをしたい、子どもにつながる何かをしたいと、思考のベクトルが変わったのです」
家族限定のクローズドSNS『wellnote(ウェルノート)』を運営するウェルスタイルは、子育て世代と祖父母といった家族間で動画や写真を共有するアプリを提供している。フェイスブックで子どもの写真を共有するのは抵抗がある、離れて住む祖父母に孫の様子を見せてあげたいといったニーズに支えられ、この半年で伸び率は倍増中。「コンセプトは“スマホで持ち歩ける茶の間”。ユーザーには無償でアプリを提供し、シニアまで含めたインターフェイスをしっかり作っている。
子育て世代の両親と、祖父母というシニア層にアプローチしたい企業に対して、マーケティング支援を行うのがビジネスモデル」と谷生芳彦社長。実際、ユーザーの3割が50歳以上だという。4月からは家族と教育・保育施設をつなぐ『wellnoteスクール』の展開も本格化。これは、教室で子どもが過ごしている様子を写真や動画で家族に配信するサービスで、施設の差別化にもつながりそうだ。
採用ページにママ大歓迎をうたう理由について、谷生社長の答えは明確だ。「このサービスを自分事としてとらえ、ママのニーズを取り入れてサービスを改善していきたいから」。その期待を背負う一人である太田さんは現在、8時から17時までのフルタイムで勤務している。
「フルタイム勤務になって自分自身もウェルノートのヘビーユーザーになりました。一緒にいられない時間を穴埋めできますし。子どもを介した話題が増えたことで、両親とのコミュニケーションもとりやすくなりました」。ユーザー目線に立った企画や改良を進めていく予定だ。
柔軟な働き方にすることで、ほかで働きにくい女性が来てくれた
「先輩、私を雇ってくださいよ」「いいよ。とりあえず来てみない? 数字が得意だろうからマーケティングの仕事やってよ。いろいろ勉強になるし、子どもが熱出たら帰っていいからさ。高い給料は払えないけど」
金融業界の最前線への復帰は難しかった
大学のゼミの同窓会で南章行社長と再会した山浦美里さん。そんな会話がきっかけとなり2013年9月からココナラで働くことになった。
現在マーケティングリサーチャーとして働く山浦さんだが、大学卒業後は日米の金融機関でファンドマネジャーやポートフォリオマネージャーとして活躍するなど、金融業界の最前線で過ごしてきた。
そこに転機が訪れる。ニューヨーク勤務中に知り合った男性と結婚することになり帰国。その後、英国留学を決めた夫に同行するため退社。自身も英国で経済学を学び2012年末に修士号を取得したが、その間に第1子を出産した。
このまま子育てに専念する選択肢はなかった。「子育てだけをしていると、人と話すことに飢えてしまう。刺激がなく人生がゆっくりしすぎるというか――」。山浦さんは社会復帰を考えるようになり、ヘッドハンター経由で金融業界への復帰を模索する。
ところが、「金利の情報が流れるとピピッと反応する」ほど債券の仕事が生活の一部となっていた山浦さんにとって、金融の仕事を片手間にこなすのはどうしてもイヤだったという。「この世界では、夜7時、8時に終わるような仕事では何かを端折らないといけない。かといって、アシスタント業務に就くとなるとフラストレーションがたまる」ことは明らか。南社長と再会したのは、金融業界への復帰が難しいことを痛感していたときだった。
山浦さんにとって社会復帰をする理由は二つあるという。能力維持と社会貢献だ。「私は周囲の人や運に恵まれ、時に熱くなりながら仕事をやってきた。その仕事によって磨かれた能力を腐らせたくないという思いがありました。またボランティアやコミュニティを作るといった方法だけでなく、意義のある仕事をすることもまた、社会貢献の一つだと思っています」。
2011年創業のココナラは、『一人ひとりが「自分のストーリー」を生きていく世の中を作る』ことを理念に掲げ、個人の知識、スキル、経験を売り買いできるウェブサービスを運営している。1回500円(基本)で売り買いできるところに特徴があり、占い、似顔絵・イラスト作成、ビジネス支援など21カテゴリーを持つ。現在登録者数は約15万、取引件数は月2万にのぼる。
「フェイスブックで『働きかた、日数など超柔軟です』と募集したら、外資系や大企業などで働いていたすごく優秀な女性が4~5人応募してくれました」と南社長。また、子どもが熱を出したら帰っていいという一言は、主婦に“刺さる”メッセージになると指摘する。
いろいろな勤務形態で働くことができる
ココナラでは、フルタイムだけでなく週2~3日勤務の業務委託など、いろいろな勤務形態の人が働いている。「働き方を画一的にする必要はない」というのが南社長の持論だ。「ベンチャーが大企業に勝てるのは柔軟さ。柔軟にすることで、ほかの会社では働きにくい女性が来てくれるし、新しい価値を生み出すサービスを展開する上でも女性は必要ですから」と、優秀なママ社員を採用するのは、経営者として合理的に判断した結果なのだ。
リモート&短時間でも高いバリューを出してくれる
再生医療関連サービスや医療コンサルティングを展開するアクウェストの高崎宏之社長は、コンサルティングファームの戦略コンサルタント出身。マーケティングを担当する猪野美里副社長は、前職での同僚で社歴では先輩にあたる。
「iPS細胞が話題になるなかで、医療に機軸を置いた新しいビジネスをしようと決めたときに、真っ先に声をかけました。理念に共感してもらえると思ったからです。前職での猪野さんは企業戦士でしたね。それでいて、現場目線があってきめ細やか。小さなお子さんがいることはネックになりません。8時間労働だから8時間フルに集中して仕事をしているかといったら、そんなことはない。本当に集中する時間は2~3時間では。それくらい仕事をしてくれれば、ふつうの人の1.5人分くらいのバリューを出してくれますから」(高崎社長)。
声をかけられた猪野さんは当時、第1子出産後に復職したものの、流産をきっかけに「ここでコンサルタントとして働き続ける体力は自分にはないと、見切りをつけた」タイミングにあった。同じ社内でバックオフィス(事務・管理業務)の仕事に変わるという選択は考えにくく、アクウェストでチャレンジする道を選んだ。
「育児の合間にやってよというニュアンスで誘われたのですが、いざ働き始めると楽しくて、がんばりすぎて帯状疱疹になってしまったことも。体力に限界を感じて前職を辞めたのにこのままではいけない」(笑)と、体力と仕事のバランスを再調整しながら、子育てとの両立を図ってきた。その後第2子を出産し、この夏には双子の出産を控えている。
猪野さんは、基本的には自宅で仕事を進め、週2~3日はクライアント先などに出かけるペースで働いている。高崎社長とは、普段からスカイプなどを利用してやりとりすることが多い。「前職でもそうやって仕事をしていました。職場の上司が日本にいるとは限りませんでしたし。リモート(遠隔)でも、会話のキャッチボールをしながらいいものができていくことを知っているのは、われわれの強みかもしれません」(高崎社長)。
アクウェストは現在、歯科向けコンサル事業を強化している。実は歯科業界、スタッフの9割を占める女性が働きやすい職場を作ることが課題となっている。国家資格の歯科衛生士の資格を持ちながらそれを生かさず眠らせている人が多い一方、歯科衛生士を採用したいという医院は多く、人材のミスマッチが生じているのだ。その課題解決に向けて6月上旬、歯科衛生士を対象にしたマッチングサービスを開始する予定だ。
「『どうせすぐ辞めるだろう』と思っているせいなのか、社保完備の医院は少なく、安定を求める女性にとって就業環境はよくない。子育てなどでキャリアを中断した女性がスムーズに復帰できる仕組みを作ることが、業界にとってますます重要になる」と高崎宏之社長。「母親が子どもの面倒をみてあげたい気持ちもよくわかるので、働きたいときに”がっつり”とは違うスタイルを掘り起こしていきたい」と猪野さん。それこそ、多くの女性が待ち望んでいる働き方に違いない。
インターンシッププログラムに残ったのは優秀な女性ばかり
グーグルでは、5年以上の業務経験があるものの、職場やキャリアから半年以上離れているプロフェッショナルを対象としたインターンシッププログラム「gCareer Program」を実施している。
2013年、2014年に続き2015年も実施する方向で調整中だ。担当するダイバーシティビジネスパートナーの山地由里さんは、「初回に4ケタの応募があり手応えを感じました。女性に限ったプログラムではないのですが、結果として採用したのは女性ばかり。うち半分以上が正社員になりました」と言う。
プロフェッショナルを対象としたプログラム
2014年のインターンシップ期間は16週。お試しの意味もあるので、週40時間ではなく30時間勤務とし、チームや上司と相談のうえ在宅勤務を組み入れるなど、それぞれの事情に合わせて運用するというから本格的だ。
インターン終了後、正社員として契約しなかった人の中には、「まだ自分が働く時期じゃないと判断した人もいたし、グーグルではないフィールドで働きたいと気づいた人もいる。そういった場合、ほかの企業に求められれば推薦することもあります」(山地さん)。
瀬戸川紀子さんは、インターンを経て社員になった一人。大学院卒業後7年働いたシンクタンクでは、リスクマネジメントの仕事に従事していた。夫の海外転勤のために退社して一緒に渡米。帰国して2013年5月に出産し、3~4カ月後に復帰を考え始めたところに見つけたのが、gCareerProgramだった。
「退社できる時間がきちんとしている会社がいいと人材コンサルタントに希望を出していたのですが、そうするとなかなか紹介案件がなくて。秘書系の仕事だったらありそうと、検討しているときでした。グーグルは、お母さんに限らず社員がフレキシブルな働き方をしているとあったので、挑戦してみようという気持ちになりました」(瀬戸川さん)。
11月からインターンを開始したが、ネックは保育園だった。ようやく見つけたのが職場近くの保育園で、最初のころは一緒に通勤していたという。
現在、ネット広告の不動産チームに配属され、クライアントに提案書を書いたり、アドバイスをしたり、ユーザー調査をしたり、といった仕事を担当している。「正社員になりたいと思いました。前職でやっていた分析スキルが使えるという実感を持つこともできましたし、やっぱり働くのっていいなと。仕事と育児を両方やっているとバランスがとれる。グローバルな雰囲気が好きなこともあるし、グーグルはカルチャーが明るいですね」と話す。
子どもが小さいこともあり時短勤務で働いているが、いずれフルタイム勤務へ切り替えることも考えているという。

今回は4人のケースを取り上げたが、そこから浮き彫りになるのは、小さな子どもを持つ女性の中に優秀な人材が多く存在し、ある程度柔軟な働き方さえ可能になれば、そういった女性たちのパワーを活かすことができるということだ。ベンチャー企業やグーグルの事例は、多くの示唆を与えてくれる。