女性雇用ママが働ける環境を作るのは企業の責任です
「プロフェッショナル対談」は、次の時代を切り開くリーダーに話を伺い、キャリアについてのホンネを引き出す連載。今回は、働くママの力で日本を元気にする「リーママ プロジェクト」リーダーの田中和子さんに話を聞く。
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働くお母さんのための「リーママプロジェクト」とは?
塩野:田中さんは「リーママプロジェクト」というものをしていらっしゃいますが、その内容はどういうものですか。
田中:「リーママ」って、ある言葉の略ですけど、なんだと思いますか。
塩野:「サラリーマンのママ」だという気がします。
田中:そうです(笑)。「リーマン」、つまり「サラリーマン」で、なおかつお母さんである人たちのことです。長時間労働の男性社会の中で頑張らざるをえないお母さんたちを総称して、「リーママ」と名付けました。今の日本では、フルタイムで正社員で働くお母さんというのは、まだまだマイノリティです。そのマイノリティのお母さんたちを束ねてみようかなという思いから、博報堂の中で始まったプロジェクトですけど、いろんな企業のお母さんたちと交流して、育児のことも働き方のことも情報交換しながら、新しい自分たちの生き方を生み出してみようというプロジェクトです。ママらしく、「ランチケーション」したりして。
塩野:飲みニケーションみたいな。そこがもうおっさんの発想のように思います。
田中:確かに(笑)。
塩野:今、マイノリティとおっしゃいましたが、実際はどれくらいのパーセンテージですか?
田中:少しずつ増えているとは言われていますが、ざっくり言うと全夫婦世帯のうち、フルタイムの共働きは15%です。この15%のうちの半分は、夫婦のどちらか、もしくは両方が公務員。企業で働くフルタイムの夫婦は、半分の7~8%になります。子供がいるとなると、さらに少なくなる。基本的に6~7割の女性は子供ができると仕事を辞めると言われているので、単純計算しても本当に数パーセントです。その数パーセントが増えてきていますね。
塩野:直感的には増えている感じはしますね。
田中:増えてはいるけれど、働き方が変わらない。それをどうするのかが私たちの課題でもあります。でも逆に、働く母の働き方にみなさんが合わせていただけると、みなさんがもっとハッピーになるんじゃないの?という問いかけをしています。
塩野:その、「みなさん」とは、どなたですか?
田中:塩野さんのような男性です(笑)。あとは子育てに従事しなくてもいい方々です。独身や、場合によってはDINKSも含めて。
いろんな人事の方との交流の中で、この間、ひとついい言葉を伺ったんですよ。最近、プレーヤーが変わってきているんですって。今までは仕事を一生懸命やることだけが人生の充実だったけれど、これからは仕事だけじゃなくて、ほかのことも大切にしたい人たちが増えてきている。会社だけじゃなくて、夜は学校に行ってMBAを取りたいとか、習い事をしたいとか、会社以外のネットワークも大切にしたいという人たちが増えている。例えて言えば、今までの働き方はプロ野球みたいだった。延長試合がOK。仕事が終わるまでずっとやる。そうじゃなくて、限られた時間の中で終わらせたいという人たちが増えてきていますね。
半分にするのは人か時間か?
塩野:なるほど。日本のホワイトカラーの生産性って、OECD先進国でいちばん低いと報告されていますね。実を言うと、おそらく日本のホワイトカラーの半分はいなくても大丈夫です。実際にある大企業は、業績不振のときに本社のホワイトカラーの人たちを半分にしてしまいました。今は業績を回復していますが、外形的には半分で仕事が回るのか、とみんな思いますよね。
田中:ドラスティックに(笑)。私は半分の人がいなくていいというのはかわいそうだから、みんなが働く時間を半分減らせばいいと思います。
塩野:あともうひとつ。シリコンバレーのベンチャー企業なんかは、ある時間内に一定のアウトプットが出せないと能力が低いと見られてしまう。時間内にどれだけアウトプットできるかを、優秀さの定義に置いている。定義の違いかなという気がします。
田中:真の成果主義ですよね。あとはマネジメントの管理の仕方。その道のプロの塩野さんには釈迦に説法だと思いますけど、労使関係が全然違いますよね。
塩野:なるほど。それはどういうことですか?
田中:使われている身からすると、私が提供する時間は9時から5時までです。その間にできる範囲の仕事をマネジメントするのがマネジャーの仕事でしょう、だから5時になったら帰りますよと本当は言いたい。
塩野:残業しなければいけないのは、管理者が悪いということですか。
田中:そのとおりです。
塩野:それをどこかで発言すると、みんななんて言いますか。
田中:だいたい想像つくでしょう。みなまで言わせるな(笑)。日本の会社は「1を言ったら10わかるのが成長だ」という感覚じゃないですか。だから、たぶん、会話が成り立ってないんですよね。上司が「あなたに求める仕事はここまでです」と言い、それに対して部下が、「その中で私ができるのはこれです」という会話が成り立っていない。
本当は成果主義って、双方の合意をスタートラインとして、これから1年間、あるいは半年、頑張りましょうとなる。それから成功を測っていくんですけど、たぶんそこがあいまいなんですよ。
まじめなお母さんほど壁にぶち当たる
たとえば、今まで男性並みに10時間、12時間働いてきた女性が、子供ができて勤務時間を6時間、7時間と出産前の半分以下に減らす。そこでまじめなお母さんほど、ぶち当たる壁があって、それは今までと同じ成果が出せないということ。
塩野:そうですね。それは本当によく聞くお話ですね。
田中:でも本当は時短しているのだから、お給料を返上しているんですよ。返上した分、私の業務も返上させてくれと言いたいんだけど、それは言えない。

塩野:それはなぜ言えないんですか。
田中:やっぱり、「あなたの求める成果はこれで、私のできることはこれ」という会話がなされていないからでしょうね。
塩野:その会話を企業側もするべきですね。極論すると、野球選手と球団の関係のように、「これだけ働くから、これだけください」というような。そういう直接的なコミュニケーションが、一般的にはなされていないという意味ですね。
田中:たぶん、なされていないと思う。だからお互いに、何をさせていいかわからない。上司は短い時間で働く人に何をさせていいのかわからない。お母さん側は、やりたいけれども、ちゃんとできるかどうかわからないし、どこまで踏み込んでいいのかわからない。
塩野:私自身は投資銀行やコンサルティングなどのプロフェッショナル・ファームにいて、20代の頃からけっこう女性上司が多かったんですね。私は女性上司にも、月500時間以上働かされてきたわけです。「この仕事が期限内にできてないのは、あなたが寝たからでしょ? そういう人はこの仕事は向いてないから」と言われて育ちました。そういうハードな環境ですが、戦略系コンサルはプロジェクトベースなので、いわゆる部署がないんですよ。なので、最初はすごく大変でも、一定のハードスキルを身に付ければ、たとえば長期間の育休をとっても絶対に帰ってこられる。自分の部署やポジションがなくなることはない。新たなプロジェクトが待っているだけなので、職場復帰がしやすいというのはあります。
塩野:あとは「結果がすべて」というコンセンサスができているので、時間の使い方がわりと自由なんですよね。たとえば午後の早い段階で家に帰って、子供が寝静まってから仕事をする、みたいなことが、けっこうできてしまう。
この環境はすごく特殊だと思うのですけど、実現できている事例として存在します。一方で、先ほど田中さんがおっしゃったような、9時から5時の勤務時間のはずなのに、上長とのコミュニケーションがうまくとれていないから、長く働いてしまって、家庭という事業もやっているのに、今までと同じパワーは発揮できないという悩みを抱えている人もいる。このギャップはどうしたら埋められますか。仮に、何でもできるとしたらどうしたらいいですか。
働き方の価値観は多種多様
田中:まず、みんながみんな100%働きたいのだという固定観念を外したほうがいいと思いますね。今の、家に帰ってから働くというやり方。私も1回寝てから2時に起きて仕事することはありますが、みんながそこまでしたいわけではない。でも、それをやりたい人たちもいるんですよ。人の価値観はそうとう多様になってきているので。
塩野:そうですね、そう思います。世の中、そんなに働きたい人も働いている人もいないと思います。
田中:今の話は、労働時間に関係なく成果に対して報酬を払う、ホワイトカラー・エグゼンプションみたいな話ですよね。ハードワークで命を縮めるかもしれないけど、その代わり報酬はたっぷりある、それでいいという合意の例じゃないですか。
あらゆる職業で働くお母さんが、子供を持ちながらさらに仕事を続ける環境が整うためには、やっぱり自分が提供できる時間と成果をはっきりさせて、企業側と合意を形成することだと思います。
塩野:明示的な合意形成ですね。
田中:あと、ちょっと厳しい言い方をすれば、本人側も自分ができる範囲をちゃんと計算しなければならない。今の自分の身体の状態、生活の状態では何時間くらい働けそうで、どれだけ成果を出せるかを、シビアに考えていかなければならない。たぶんそういう発想って、残念ながら今は少ないかもしれない。
あとは短い時間で働けるということが、すべての職業でできるようになるといいですよね。家に帰ってから働くというのも、結局は長時間労働なので。たとえばすごく極端な例を言えば、すごくスキルのあるお母さんが、三つ子ちゃんを生みました。ひとりはすごく身体が弱かった。でも自分はこの職業が好きだから続けたいけれど、子供がもうちょっと大きくなるまでは、どうしても短い時間でないと自分の体力がもたない――という場合に、対する対処がちゃんとできる環境が整うといいですね。
塩野:その環境をつくるのは、今は企業の役割ということですか?
田中:企業側だと思います。
塩野:私自身、マネジメント側にいて思うのは、企業の寛容性の問題がすごくあるということです。男女問わず、1年や2年くらい育休をとるのは個人の自由だと思いますし、企業も寛容になるべきでしょう。また、女性のほうが長生きすることを思えば、実は数年抜けても、最終的には同じくらいの勤務期間になるのではないかと思います。
田中:そうね。理論的にはそうなんだけど、やっぱり働き続けることがとても大切だと、私は自分の育休を通して実感として思っていますね。
塩野:時短でも続けるということですか?
田中:そう、時短でも。一概には言えませんけど、「子育て・主婦モード」という脳の使い方があると思うんですよ。ある先生がおっしゃっていたんですけど、まだ言葉を発しない子供は動物に近い状態ですよね。その言葉を発しない大切な生き物と会話をする能力が、母親には備わっている。そのときすごく働くのが右脳。匂いとか感触とか泣き声とかで赤ちゃんの状態がわかる。でも右脳ばかり使ってあまり左脳を使わない状態が続いてしまうと、仕事に復帰したときどうなるか。みんな、「言葉が出ない」って言うんですよ。私もそうでした。会議についていけないし、発言を始めても途中で自分が何を言いたかったか忘れちゃう。これはもともと理系だった人とか、バリキャリだった人のほうが多い。自分が期待している仕事への参加度合いと、現実とのギャップが激しいんでしょうね。
だから私は、続けたいなら時短でもいいし、在宅でもいいから、ゆるゆると続けたほうがいいと思う。ただそれは子供と離れていく心の準備だとか、子供の状態とも大きくかかわってくるので、それを見極めながら、どこかのタイミングでフルスロットルに入れるのがいいんじゃないの、って話をしています。
塩野:なるほど。この続きは後編でお聞きしたいと思います。