混迷する女性の活躍推進にヒントをもたらす

女性雇用混迷する女性の活躍推進にヒントをもたらす

2012年に発足した第2次安倍晋三内閣が成長戦略の中核に「女性の活躍」を据えて以降、企業での「女性の活躍推進」が加速しています。その渦中を、冷静に、かつ熱い思いを持って見つめる女性がいます。このほど『「だから女はダメなんだ」と言われない女性リーダーの心得』を上梓した、マネジメントサポートグループ代表の古谷治子さんです。

「私が『女性リーダーの育成』を事業の1つに掲げて創業した23年前は、女性の育成に関心を示す企業はほとんどありませんでした。それでも、企業の成長、日本の成長には女性の力が必要であり、男性に比べてビジネススキルやノウハウを学ぶ機会が少ない女性には、教育の場が必要だという思いをずっと抱いてきました」

こうした思いで、古谷さんは根気強く企業を訪問し、女性のビジネススキルの向上やリーダー育成の重要性を訴え、研修や講演を行ってきました。その数は3000社を超え、女性活躍推進の機運が高まっている近年は、特に数多くの企業から問い合わせや相談があり、最近では毎月10本のペースで女性リーダー育成研修を実施しているそうです。

「政府が企業に対して、女性登用の数値目標を公表するよう義務づける方針を固めたからでしょう。これまでにも女性活躍推進の波は何度かありましたが、ここへ来てようやく多くの企業経営者が、女性リーダーの育成を喫緊の経営課題と捉えるようになっています」

女性リーダー育成には様々な課題が

一方で、育成の現場では「様々な混乱が起こっている」と、古谷さんは指摘します。

「まず一番の課題は、当の女性たちの準備ができていないことです。会社から促されて研修に参加するものの、目的や自身の役割が理解できていない人が多い。これまで女性リーダーのロールモデルが少なく、こうした機会も与えられてこなかったなかで、いきなりリーダー候補とされる戸惑いや不安があるのは無理のないことでしょう。企業側も、その人の資質や能力ではなく、単に年次などで抜擢するケースもあり、双方の理解不足が見受けられます」

さらに、女性の管理職登用やリーダー育成研修の強化は「男性差別」ではないかとの声も聞こえてくるといいます。

「これは予想されたことですが、モチベーションの高い女性が本気でキャリアアップを目指し、その環境も整えば、男性が危機感を持つのは当然のこと。男性もそれだけ、企業が女性リーダーの育成に本気で取り組み始めたことを実感している表れとも言えます」

こうした課題を解決するには、「意識の変革」が重要だと古谷さんは訴える。
これまでの女性リーダーには、プライベートの犠牲もいとわず、質量ともに男性以上に働いてようやく認められるといったイメージが強い。そんなことができるのはごく一部の“特別な女性”だけで、「自分には無理だ」「そこまでしてリーダーにはなりたくない」と思う女性も多いのも事実。しかしこれからは、目指したいリーダー像を自分で描いていけばいいと、古谷さんは話します。

「女性の活躍推進がうまくいっている企業には、女性社員が『あんなふうに働きたい』『あんなリーダーになりたい』と思える女性リーダーのロールモデルが必ずいます。企業はそうしたロールモデルをいかに輩出できるかが、今後の女性活躍を成功させる分かれ目になるでしょう。それには、これまでの企業風土や職場環境を見直す必要があります。女性自身も、この波に乗って、新たなステージへの一歩を踏み出してほしいと思います。スキルは学んだり経験を積んだりすることで、あとからいくらでもついてきます。少しずつステップアップして、自信を高め、自分がなりたいリーダー像を体現していってほしいと思います」

古谷さんはさらに、「女性が能力を発揮して、生き生きと働き続けられる環境を整えることは、決して女性を優遇するわけではなく、性差なく、男性にとっても働きやすい土壌をつくることにつながるのです」と語ります。

「これまでは女性が結婚や出産・育児でキャリアをあきらめるケースが多かったものの、近年では未婚の男性も増え、親の介護問題に直面するケースも増えています。男性もこうした当事者意識を持って、男女の別なく働き続けられる職場環境に目を向ける必要があるでしょう」

キャリアもプライベートも欲張って

「せっかく育てても、女性は結婚や出産で辞めてしまう」「女性に管理職を任せようと思ってもなりたがらない」――。これは、古谷さんが創業当初から企業経営者や男性管理職から言われ続けてきた言葉。そこには、前述したこれまでの日本企業の働き方や職場環境、女性自身の意識といった問題や双方の理解不足が横たわっています。そのために、「だから女性はダメなんだ」「どうせ女性はダメだろう」といった声が聞こえてくることを、古谷さんはいつも歯がゆく感じていたといいます。

「企業が女性の力を適切に理解して、経営戦略に生かしてほしい。キャリアに対するモチベーションの高い女性がスキルと自信を身につけて、能力やリーダーシップを発揮し活躍してほしい。そんな思いが私の原動力となって、実践的で効果的な女性キャリア研修や女性リーダー育成研修などを企画、実施してきました。女性の活躍推進が過去最高の盛り上がりを見せる今、20年以上の経験から培ってきたノウハウを、多くの企業や女性たちに伝えたい――。それが、『「だから女はダメなんだ」と言われない女性リーダーの心得』を出版した動機の1つです」

また古谷さんは、本書を自身のキャリアの軌跡としてまとめ、女性リーダーのロールモデルの1人として、働く女性たちにエールを送りたかったとも話します。

「女性は本来、マルチタスクが得意。同時に複数の家事をこなしたり、業務を効率的に進める能力に優れています。また、女性は短期集中で物事を捉えるため、生産性を高める力もあります。周囲に細やかな気配りやフォローができるのも、女性の強みと言えるでしょう。ただ、女性には横並び意識が強く、組織的な視野を持つことが苦手といった弱みもあり、キャリアに対して積極的になれない人も多い。私はそんな女性たちに、まずは何事にもチャレンジしてみてほしいと思っています」

女性は結婚や出産など、人生のうえでもキャリアのうえでも、選択を迫られる場面が多いもの。そこで迷いや不安があったとしても、まずはやってみてほしいと、古谷さんは言います。

「キャリアも結婚も出産も、どれかを諦める必要はない。自分自身で『私には無理だ』と決めつけないでほしいと思います。女性にはもっと欲張って、自分の人生を歩んでほしい。そのためには、自分で『できない』と限界を決めずに、プラス思考で『どうしたらできる?』と考えるようにしていくことが大切でしょう。その習慣が身につけば、見える世界はもっと広がっていくはずです」