女性雇用女性は男性とは違って、フラットな世界で生きています
「女性部下とどうコミュニケーションし、どう仕事を任せればいいか、分からない」
男性の中間管理職によるこんな悩みの声や相談が、私のところに相次ぎ寄せられています。
実は現場のリーダーだけでなく、人事部や経営層も同じような悩みを持っています。「せっかく優秀な女性を雇ったのに、会社として活躍の場を与えられておらず、結局優秀な人から他社に転職されてしまう」という嘆きの声も聞かれます。
では、どうすればいいか。今回は女性に対するキャリア支援で多数の女性社員に接しているキャリエーラの藤井佐和子氏をお迎えし、女性社員に活躍してもらうために、課長をはじめとした現場リーダーはどうすればいいか、そのヒントを伺いました。
私が男性だからかもしれませんが、ご自身が女性であり、かつたくさんの女性のキャリアに関する悩みを解きほぐしてこられた藤井氏ならではの分析には、なるほどと思うことがたくさんありました。4回にわたる対談、ぜひご一読ください。
(聞き手は石田 淳、構成は高下 義弘=課長塾編集スタッフ/ライター)

キャリエーラ 代表取締役
大手光学機器メーカー海外営業部勤務後、人材総合ビジネスのインテリジェンスにて女性の転職チームリーダーコンサルタントとして、女性の転職をサポート。現在は株式会社キャリエーラを設立し、キャリアコンサルタントとして、女性のキャリアカウンセリング、企業のダイバーシティー、大学生のキャリアデザインをテーマとした研修や講演を行う。カウンセリング実績は1万3000人以上。著書は『女性社員に支持されるできる上司の働き方』(WAVE出版)など多数。日経BP「課長塾」講師も務める。(写真:皆木 優子)
石田:日本企業の課長クラスの方々と話をすると、「女性部下とのコミュニケーションがうまく取れていない。どうすればいいか」とか、「女性部下をどうすればもっとうまく働いてもらえるだろうか。とにかく悩んでいる」といった声をよく聞きます。典型的な構図は、40代の上司が20代女性部下との接し方に悩んでいる、というものです。
悩んでいるのは男性管理職ばかりと思いきや、実は女性管理職も悩んでいます。「男性部下のほうが面倒くさくなくていい」とまでおっしゃる。総じて、女性部下が扱いづらいという悩みです。
女性社員が活躍できていないというのは会社や組織にとって大いなる損失です。私が日本企業の経営者や人事部門の方々に話を聞くと、別の角度からではありますが同種の悩みを持っています。「せっかく優秀な女性を雇ったのに、活躍の場を与えられていない。優秀な人から他社、特に外資系企業やベンチャー企業に転職されてしまう」といった具合です。
現場のリーダー、そして会社にとってはもちろん、何よりも女性社員本人にとって非常にもったいない状況で、産業界を挙げて解決すべき問題だと考えています。
藤井:安倍政権は「女性の活躍」をキーワードに掲げ、国として女性が働きやすい環境の整備を進めていくとおっしゃっています。これは非常にありがたい話でして、女性社員の活用に向けた取り組みを始めている企業が増えています。ただ、実際に企業の現場を見ていると、冷めた受けとめ方をしている女性社員が多いというのが実情です。
石田:藤井さんは女性のキャリアに関する相談をたくさん受けていらっしゃいます。その経験から、企業間、あるいは経営層と現場の温度差のようなものは感じられますか。
藤井:企業によってずいぶん差があります。経営者が本気を出して粘り強く取り組んでいる企業は、現場の男性管理職も「変わらなきゃ」と言って取り組んでいて、成果が出つつあります。けれども、一過性のブームのように考えて「ちょっとやってみるか」という雰囲気がぬぐえない企業は、逆に女性陣から見透かされています。
(編集部)女性は勘が鋭いですからね。
藤井:女性社員たちに「うちの組織はポーズだけだよね」などと言われてしまって。
石田:「どっちみち半年もすれば誰もやらなくなるし」などと諦められていると。
藤井:はい。特に大企業の場合、経営トップと人事部門が「女性が活きる組織に変わらなきゃ」と思っていても、現場の中間管理職の方に浸透していないという状況がよく見られます。
やる気があって優秀な女性が「営業をやらせてください」と上司に言ってもデスクワークしかやらせてもらえないとか。私が会った女性の中には、「お茶くみしかやらせてくれないんです」って泣きながら訴えた人がいました。その悩みを親や親戚に相談すると、「せっかくあんないい会社に入れたんだから頑張れ」などと言われてしまうそうです。だから本人は苦しくてしょうがない。こんなことが起きているんです。
石田:非常にもったいないですよね。
藤井:もったいないです、本当に。
女性社員はお茶くみだなんて、一昔前の話のようにも聞こえますが。
藤井:実は最近になって、またそういう相談が増えているんです。本人のポテンシャルとしては十分に仕事ができて、男性と同じように働きますと言っているのに、仕事が振られない。明らかに男性よりも簡単な仕事しか与えられていないんです。
先ほど石田さんに少し触れていただいた通り、私は過去10年間、女性たちのキャリアカウンセリングをしてきました。お会いしてきた人数は、1万3000人ほどになります。この10年における女性たちの変化で一番大きいのが、「定年」という言葉が頻繁に出てくるようになったことです。
石田:女性社員も一生働くつもりなんですね。
藤井:はい、そうなんです。以前は結婚や出産で辞めるかもしれないという条件を前提に仕事の相談を話していたのですが、最近は女性たちも定年までしっかり働くという意識を持っているんです。悩みの中身としては、昔とそれほど変わりはないのですけれども。人間関係がよくないとか、上司との折り合いが悪いとか。
定年まで働くつもりだからこそ、仕事をやらせてもらえない、活躍の場を与えられないという状況が、女性たちにとっては苦しいんです。
石田:特に確たる根拠も正当な理由もなく、ただ何となく、女性の活躍する場が狭められているのでしょうね。
儒教的な文化の影響から離れるべき時期に来た
石田:私のアメリカのパートナー会社の社長は、女性です。また、私自身サラリーマンだったとき、香港に2年ほど駐在していたのですが、中華圏は少なくとも仕事上における男女の区別はない。女性も普通に働いている。日本に戻ってくると、女性社員に対しては腫れ物を触るような雰囲気が強くて、奇妙な違和感を得ました。
筋道立てて冷静に考えれば、性差に関係なく優秀な人間が活躍するというのは当然のことなので、気にすることはないんじゃないかなと思うんですけど、どうなんでしょうね。
藤井:日本では儒教的な考え方が浸透していて、家長である男性は女性よりも立場が上という思想が根付いていると指摘されています。実際に儒教がどれだけ影響を及ぼしているかどうかはさておき、男性・女性という性別に対する従来の見方や考え方が、今いろいろな形で弊害を起こしているのは確かだと思います。
女性は女性で自分たちの仕事の範囲を限定してしまっています。「重要な仕事は男性がやるべきでしょう」とか、「責任は男が取るものだ」というふうに思い込んでいます。これは女性側が改善すべきことです。一方、男性は「男が頑張らなきゃいけない」という配慮が強すぎて、逆に女性を甘やかすことになっているんです。
石田:もう性別で企業における仕事の役割を区別するような時代じゃないと思うのですけれども、なかなか変わっていませんよね。文化と仕事をごちゃ混ぜにしているのが問題なのかもしれません。文化をいきなり変えるのは難しいでしょうが、少なくとも仕事と文化を切り離して考える習慣を付けたほうがいい。
課長さんの悩みで「年上部下が扱いにくい」という話がよく出ますが、女性社員の扱いと根っこの部分は同じかもしれません。年上部下がしばしば年下上司との関係性で悩むのは、上司と部下の関係性を人間としての価値の上下と勘違いしてしまっているからです。アメリカに行くと、誰も年上部下と年下上司のことを問題にしていない。日本ではそれがしばしば問題になるんだと話すと、なぜ問題になるのか理解できないという返事が来る。
そんなことを職場でいちいち問題にしていると、仕事がこなせない。結果、市場の競争に負けてしまいます。繰り返しますが、本来なら年齢や性別に関係なく、つまり文化的な習慣と仕事を切り離して、いかに優秀な人間を活躍できるポジションに持っていくかを至上命題にすべきなんです。特にいわゆる伝統的な日本企業は、もう本気で性別による差の撤廃に取り組まなければいけない時期に来ていると思います。
女性社員の活躍に取り組めば古き文化が一掃できる
藤井:この前、ある企業で女性の管理職候補の皆さんに、管理職になるための心の準備についての研修をやらせていただきました。その際に、「女性の管理職が増えたら、会社にはどんなメリットが生まれるか」というテーマについて、グループで考えてもらったんです。そうしたら、あるグループから「この会社に根強く残っている年功序列の文化が崩せる」という意見が出ました。
女性は男性とは発想の根底にあるルールが異なります。一つ例を挙げますと、男性社員の間にある「やはり年上の人は立てないと」という考え方が女性は薄い。ですので、女性管理職が増えれば、年齢に関係なく部下を評価し、優秀な部下を適切なポジションに据えるという雰囲気が定着するだろうという話になり、出席者の多くの方が同意していたのが印象的でしたね。
石田:女性管理職たちが活躍するようになれば、その会社はきっと強くなりそうな気がします。
女性と男性のルールの違いというのは、例えばどういうものがあるのでしょうか。

藤井:男性はいわゆる縦社会というルールの中に身を置いて物事をとらえる傾向が強いですが、女性は「誰も彼もがみんな同じフラットな立場にいる」という認識で生きています。極端な話、心の奥底では「社長は確かに偉いかもしれないけれども最終的には私と同じ人間ですよね」という理解の仕方をしているのです。つまり、女性たちは「フラットな世界」で生きています。
以前、ある男性の課長さんが「自分の課にいる女性部下が、おれに話を通さず直接部長に意見を言った」と怒っていました。男性の場合は組織のヒエラルキーを重んじていて、そのルールを無視する女性を嫌がります。でも女性の場合はフラットな世界で生きていますので、横に並んでいる人たちのうち、一番適切な立場にいる人に話をしようと思って、ただ行動に移しただけなのだと思います。だから、なぜこの男性課長が怒っているのか、たぶん理解できないはずです。
石田:なるほど、同じ空間を共有していても、意識の内側にあるルールは男性と女性とでだいぶ違うというわけですね。
藤井:女性社員は、男性が配慮する社員同士の力関係の感覚が分からなかったりします。「仕事なんだからこの人にすぐ話をすればいいのに、なんで関係ないこの人にいちいちお伺い立てなきゃいけないんですか」といった疑問をぶつける女性社員は結構います。
ある意味、女性社員の素直な見方は公正でかつ公平で、好感が持てることが多いです。でも男性の上司からは、「あの女性社員は頭がよくて行動力もあるんだけど、使いづらい」と見られてしまうことがままあります。
ちゃんとその辺りを配慮しておけば、社内でしかるべきポジションに立てて、家庭と両立させながらいい仕事をこなしていけるかもしれない。なのに、そういうところで余計な損をしてしまっている女性社員は意外に多いです。