女性雇用30年のキャリアから見れば、 出産や育児の数年のブランクは取るに足らない
なぜ今、ワークスタイルが変わりつつあるのか
この連載でも度々紹介してきたように、ワークスタイルは今、急速に変わりつつある。その理由は大きく分けて2つ挙げられるだろう。
1つは、スマホやタブレットといったデバイスの多様化、ネットワークの高速化、Web会議システム、クラウドサービスといったICT(情報通信技術)の高度化だ。時間と場所にとらわれることなく、業務に必要な情報に瞬時にアクセスできるようになり、自由な働き方ができるようになった。テクノロジーの進展を背景に、テレワーク制度やフリーアドレス制などの導入に踏み切る企業も多い。
もう1つは、企業のダイバーシティ(多様性)への取り組みだ。社員の人生設計や価値観が多様化するなか、さまざまな社員をつなぎとめておくことができるように、多様化を前提としたワークスタイルを検討する企業が増えている。そこには、さまざまな意見や考え方、経験などが尊重される企業文化を育むことによって、変化の早いビジネス環境や顧客ニーズ、グローバル化に的確に対応し、競争優位性を築きたいという狙いがある。
こうしたなか、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容)を積極的に推し進めているのが、世界的なヘルスケア企業、バクスターだ。腎不全、血友病、輸液、麻酔、疼痛管理の領域に特化した米バクスターインターナショナルインクの日本法人で、医薬品や医療機器、バイオ医薬品を中心とした医療サービスを提供している。
ダイバーシティ&インクルージョンに力を注ぐ背景について、リマ・ジェラルド・代表取締役会長兼社長(BGRアジア・パシフィック地域総責任者)は次のように話す。
「なぜ当社がこうした方向に進んでいるのか。その理由の1つは、ナレッジワーカーの働き方自体が変わってきていることです。仕事の内容は今日と明日では違いますね。また1日のうちでも朝と夕方ではやっていることが異なります。打ち合わせをしていることもあれば、1人で集中して作業していることもあります。ですから、仕事の内容に合わせた柔軟な働き方を取り入れるのは当然ではないでしょうか。
もう1つは、アジア・パシフィック地域では、役員を含む全階層で男女比50:50を目標に掲げているからです。そのためには今まで以上にフレキシブルに働ける職場を築き上げることが必要なのです」
狭い枠の中では優秀な人材を見つけることは難しい。枠を広げれば広げるほど、実力のある人は見つけやすくなる。その代表例が「女性」で、とくに日本では大卒の半数が女性であり、優秀な人材がもっと多くいるはずだという考えもあるようだ。
希望すれば
週5日の在宅勤務も可能!
バクスター日本法人のリマ・ジェラルド・代表取締役会長兼社長(BGRアジア・パシフィック地域総責任者)は、自ら企業のダイバーシティ推進とワークスタイル革新を主導する Photo:DOL現在、アジア・パシフィック地域における男女比は52:48程度。目標はまだ達成していないが、今年は管理職以上の女性比率25%を目標に掲げている(現在は23~24%程度)。バクスターは米国でも女性比率が20%半ばと、一般的な欧米企業(20%程度)よりも高い。
対して、厚生労働省の雇用均等基本調査によると、日本企業の課長職以上に占める女性の割合は2013年度でわずか6.6%だった。政府は管理職の女性比率を2020年までに30%まで引き上げることを目標にしているが、これを達成するためには後押しする制度の導入・見直しや社員の意識改革が不可欠だろう。
そのあたり、バクスターではどのようなサポートを行っているのだろうか。
「女性により活躍してもらう環境をつくるためには、通勤時間や勤務時間帯など、育児の妨げになる障害をできる限り減らすことが必要。ですから、柔軟な働き方を実現する各種制度を拡充しています。たとえば、育児休業後、復帰しやすくするためのフレックスタイム制をはじめ、週5日可能な在宅勤務制度、2015年から最大3年になる育児休業制度などがあります」
男女平等に
昇進のチャンスを与える
さらに、アジア・パシフィック地域では、管理職の男女比率を均等にすることを目指す取り組みを推進しているという。
「具体的には3つあります。1つは、採用時の候補者の男女比率を50:50にすること。2つめは、多彩な教育プログラムを用意し、男女問わず、すべての社員にキャリア目標を追求する機会を与えること。3つめは、昇進機会を公平に提供することです」
たとえば、女性社員のキャリア目標の追求を支援する「Women@Work」というものがある。ここでは、ネットワーキングの場やリーダーとの対話、討論会など、さまざまな成長の機会を提供している。また、女性社員のキャリア開発を支援するプログラムとして、女性向けのメンター制度(先輩社員が若手をサポートする制度)なども導入済みだ。
「相当な時間をかけて優秀な人材を発掘し、入社後も一人ひとりの能力やポテンシャルに応じて新たな役割やチャレンジの機会を与え、社員のキャリア目標の実現を支援しています。このように多くの労力や時間を使って育てた人材をみすみす手放すのは惜しい。何より、30年のキャリアを考えれば、育児や病気などによる1、2年のブランクは取るに足らないもの。長いスパンで人材を財産としてとらえていくということです」
育児中の女性が自然な形でキャリアと家庭を両立させる――そんな自然体のプロフェッショナルのロールモデルを、1人でも多く育成していきたいという。こうした方針や環境が、女性社員のモチベーションを高めているのは言うまでもないだろう。
ただ、忘れてはならないのは「業績はしっかり結果を残す」のが基本原則ということ。言い換えれば、どんな働き方をしていてもパフォーマンスをきっちり出してさえいれば問題ないというわけだ。
「イクボス」的な
文化の定着を図る
バクスター日本法人では、独自に「イクボス(育ボス)」キャンペーンも展開している。
イクボスとは、社員の生活や部下の育児参加などに理解のある上司のこと。子育てに積極的な男性はイクメン、そのイクメンにならい、仕事とプライベートを両立しやすい環境づくりに努めるリーダーがイクボスだ。
「ダイバーシティを当然のものとして受け入れ、組織に根付かせるうえで、イクボスの考え方を理解し、リーダーシップを発揮できる上司の存在は不可欠です。そうした思いから、遊び感覚で『イクボスシール』をつくって、イクメンを奨励してあげようという雰囲気を盛り上げています」
育休に入る前に、上司がメンバーのビジョンについて話し合ったり、部下が希望したら育休中も連絡を取り合ったりするのは、同社ではよくある光景。イクボス的な文化がしっかり根付いているようだ。
違う部署の人と会話が弾む
完全フリーアドレスの新オフィス
柔軟な働き方を進める一方、性別だけでなく、異なるバックグラウンドの人材が集い、議論を重ねて付加価値を生み出すような対面のコミュニケーションも大事にしているという。
9月24日にオープンしたばかりの虎ノ門ヒルズ(東京・港区)の新オフィス(冒頭の写真)で、これまでの営業部門だけでなく、ほぼ全社員を対象にフリーアドレス制を導入したのも、コミュニケーションを促すのが狙いだ。
そこには、どのような思いが込められているのだろうか。
「私が考えているのは、とてもシンプルなこと。ワークスタイルレボリューション(働き方革命)を、この場所で実現することです。自分の席が決まっていないので、いろいろな人たちが偶発的に出会い、会話を交わし、付加価値を生み出すコラボレーションが起きることを期待しています」
ナレッジワーカーが柔軟な発想力やコラボレーションなどを基に生み出した付加価値の高いアイデアや企画こそが、企業の競争力に直結する。彼らに求められるのは、常識にとらわれない創造性や感性であり、今の時代、その一人ひとりの多様性を生かすことが経営の大きな課題となっているのだ。一方、社員は自由な働き方が認められる分、よりクオリティの高い仕事が求められるようになることを自覚しておいたほうがよさそうだ。