「女の社会進出」に必要な「男の家庭進出」

女性雇用「女の社会進出」に必要な「男の家庭進出」

女性の社会進出が叫ばれるようになって久しく経つが、未だ女性にとって本当に働きやすい環境が整備されているとは言いがたい。

プラチナ構想ネットワークが20~50代の男女を対象に実施した「『女性の活躍』に関するアンケート」(2014年5月実施、有効サンプル合計2067)では、女性の社会進出の阻害要因があらためて浮き彫りになっただけでなく、これまで数値化されてこなかった家族関係や育児に関する影響についても興味深いデータが得られた。

今回アンケートを行ったプラチナ構想ネットワーク会長の小宮山宏さんと、「女性の活躍ワーキンググループ」の主査であり、東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀さんにそのインパクトと分析について話を聞いた。

 

プラチナ構想ネットワークとは、「エコで、老若男女が参加し、一生を通じて人が成長を続け、雇用がある『プラチナ社会』」の実現のために、地域起点のイノベーション運動を展開する全国規模のネットワーク組織。2010年に設立され、現在、250を超える様々な企業や自治体、大学・研究機関などが参加し、「プラチナ社会」実現に向けた啓発やイノベーションの推進活動を行なっている。

「『女性の活躍』に関するアンケート」の結果について、本田さんはこう話す。

「女性の社会進出を促進するには、男性の『家庭進出』が大きなカギになるというのは以前から言われている通りです。しかし、その障害になっているのが、『粘土層』と呼ばれる家庭と仕事の両立に理解のない職場の中高年男性の存在。組織の中で管理職も多いこの世代の意識は未だ古く、ワークライフバランスに対しても理解がない。そのせいで、男性の家庭進出、育児家事介護の分担が阻害されているということが、調査結果からうかがわれました」

粘土層の男性は、“家族を養い守るのは男の責任”“子どもをきちんと育てるためには、子どもが3歳になるまで母親が家にいたほうがいい”“夫より妻の収入が高いのは嫌だ”“女性が男性を立てると物事がうまく運ぶことが多い”といった性別役割分業や男尊女卑を肯定する意識を持っている。さらに、この粘土層が多い職場で働く男性ほど、こういった旧ジェンダー意識が強く、逆に、男性と同じ内容の仕事をしている女性が多い職場で働く男性ほど、旧ジェンダー意識が低いという結果が出た。

男性の家庭進出は家計や家族関係の安定に繋がる

改革を促すには、「経営トップや管理職の意識改革が重要」と、本田さんは指摘する。

「職場の上層部にメスを入れなければ、男性の家庭進出は進みません。これは、下からの働きかけでは難しい。国や自治体から、しっかりとメッセージを発し、社会的な機運を高めていく必要があるでしょうね」

また、“女性の社会進出が進むと家族関係の崩壊に繋がるのでは”という否定的な見方が、単なる偏見であることが、今回の結果で明らかになった。

既婚女性に聞いた「家族と仲が良い」度合いの調査では、バリキャリ女性(年収300万円以上の女性をバリキャリ、300万円以下をゆるキャリ、収入なしをハウスワイフと定義している)の40.5%が「家族と仲が良い(とても当てはまる)」と答えているの対し、ゆるキャリは17.5%、ハウスワイフは21.3%。バリキャリ女性ほど、“家族ととても仲がいい”と認識していることが分かった。

「女性側からすれば、家庭に閉じ込められている、犠牲になっているという思いがない分、ストレスや不満も少ないのでしょう。男性は仕事に専念し、女性は家庭を守るという役割分担が効率的だった社会は、もはや昔。今は男性も非正規である場合が少なくなく、リストラにあうことも増えていますから、家計面からみても女性が働いた方がいいことは明らかです。さらに、バリキャリの夫は、育児介護に協力的な“カジメン”(家事育児の分担比率が40%以上の既婚男性)が多い。女性の社会進出(特にバリキャリ層)と男性の家庭進出(カジメン)が、家計や家族関係の安定に繋がっていることが分かります」

既婚男性へのアンケートによると、カジメンの妻は、35.6%がバリキャリ、46.6%がゆるキャリと、仕事を持っているケースがほとんど。対して、非カジメンの妻のバリキャリ率は18.3%、ゆるキャリが51.6%。30.1%が仕事をしていないハウスワイフだった。

女性が働くことは、育児にいい影響を与える

さらに興味深いのは、仕事と育児の関係に関し、これまでの「常識」を覆すような結果が出てきたことだ。

子どもを持つ母親にとって、働く上で大きな重荷になるのが、育児に対する“後ろめたさ”。働きながらでは子育ての責任や役割が果たせないと考える人も少なくない。

「危惧されるのは、これだけ社会が不安定化する中で、子どもにもっと手をかけなきゃ、もっと世話してあげなきゃという意識を持つ女性が増えているということ」

しかし、今回の調査結果により、「母親が仕事を持つことは、育児にとっても実はメリットが多い」という結果が表れた。

「子育てをひとりで抱え込まず、社会の様々な人たちに触れさせたり、自立した一人の人間として子どもにお手伝いなどの家庭運営に携わってもらう。そういったことが、実は子どもの積極性などの育成にも良い影響を与えるということが、今回の結果で出てきたのは嬉しい驚きでした。これは働く女性だけでなく、これから家庭や子どもを持ちたいと考えている若い世代にとっても、明るい要素になるのではないかと期待しています」

子どもの育て方を見てみると、「子どもと話すことが多い」という項目に関しては、バリキャリ、ゆるキャリ、ハウスワイフとも、ほぼ同じくらいの数値を示しているものの、「子どもに家事などのお手伝いをさせることが多い」という項目では、バリキャリの54.2%が「まあ当てはまる」と答えているのに対し、ゆるキャリは35.3%、ハウスワイフは32.7%にとどまっている。

「祖父母や近所の人たちに子どもの面倒を見てもらうことが多い」という項目では、バリキャリの16.9%が「とても当てはまる」、32.2%が「まあ当てはまる」と回答し、全体の49%が、なんらかの面倒を見てもらっているという結果になった。ゆるキャリの場合は、7.2%が「とても当てはまる」、22.7%が「まあ当てはまる」と答え、ハウスワイフは、「とても当てはまる」が3.1%、「まあ当てはまる」が11.7%と、面倒を見てもらう割合が低い。

さらにアンケートの結果によると、「子どもに家事の手伝いをさせることが多い」「祖父母や近所の人たちに子どもの面倒を見てもらうことが多い」ほど、子どものてきぱき度・はきはき度が高くなっていることが表れている。

ちなみにアメリカでは、「母親が外で働いていると、子どもの語彙が増える」という研究結果も出ているという。母親が外で働くと母親本人の語彙が増えるため、その母に接している子どもの語彙も増える。さらに、母親以外のさまざまな人に関わることで多様なボキャブラリーに触れながら育つため、子どもは非常に豊かなボキャブラリーを得ることができるそうだ。

働き方をどう変えていくか

一方で、女性が働く環境に目をやると、まだまだ課題は多い。子育ての支援制度を掲げる企業は多いものの実際には利用者が少なく、例えば育児休暇を取得しづらかったり、利用しても肩身の狭い思いをするなどといった問題も生じている。

本田さんも、「正社員の長時間労働というかつての働き方はそのままに、女性はそれに加えて、家族を支える重荷も背負えと要求されている状況」と警告を鳴らす。

そういった状況を踏まえ、「今、必要なのは働き方を変えること」と強調。

「長時間労働になっている正社員の働き方を軽減するとともに、家庭の家事育児を家庭外の社会が担う部分を増やして、個人が動きやすいような状況を作り出すことが大事。今は、ちょうどその過渡期だといえます」

また、プラチナ構想ネットワーク会長であり、東京大学総長顧問の小宮山宏さんは、女性の社会進出を進めるにあたり、「IT関連の在宅ワークが進めば、働き方がもっと自由になる」と提言。しかし、そこには課題があると指摘する。

「日本の職場は、仕事の分業ができておらず、正規社員の仕事内容がしっかり分けられていないことが大きな問題。そのため、海外との協力ができないという状況も起きています」

さらに本田さんも、「ITを駆使した在宅ワークがやりづらい理由は、本当に仕事をしているのか? という疑いの目や、仕事の進捗の報告などが難しいということ。新たな管理体制が必要になり、これまでの働き方とは適合性が悪いということが阻害要因になっている」と話す。

「仕事の切り分け」を、進めていくには何が必要なのだろうか。

「まずは、専門性が高くて切り分けやすいような仕事から、ジョブとして切り出すことに着手する。また、女性が働きやすい環境を整備していくためには、やはり組織の中で発言力があり、人数の多い「粘土層」の意識をいかに変えていくかが重要。すでに、若い世代のなかには、変わっていく日本に適応して、ジョブの切り分けや短時間勤務の在り方を模索している人たちもいる。過渡期を迎えている今は、自分たちのスタイルを確立できるチャンスだと思っています」