女性雇用「両立支援」だけでは実現できない「女性の活躍」
「女性の活躍」という言葉を聞かない日はない。安倍首相が今後の日本を担う重要な成長戦略として前面に打ち出し、国会でも積極的に言及しているほか、ビジネスの世界でも今春、大企業を中心に女性役員誕生のニュースが続いた。しかし、女性リーダーはまだほんの一握りの存在に過ぎない。
では、企業内で女性がリーダーとして活躍するためには、どんな環境整備が必要なのだろう。結婚、出産という人生の大きなイベントでキャリアを中断しがちな女性を、従来の日本型雇用による社員育成システムにあてはめれば無理が生じる。そこで、昨年11月に「提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題」を中心になってまとめたリクルートワークス研究所の石原直子主任研究員に、女性リーダー育成モデルについて、話を聞いた。キーワードは「スピード」、「女性のキャリアは年齢との競争」と言い切る内容だ。全5回で提案の内容を伝えていく。
第1回は提案の背景とそこに込められた意図を聞いた。
Q.「提案」をまとめられた背景は?
「両立支援」推進の陰で軽視された「女性の活躍」
「女性の活躍」にはこれまで、何度かのブームがありました。まず、1986年施行の男女雇用機会均等法、続いて、97年の均等法の第1回改正(改正法施行は99年)。
そして2003年ごろ、少子化が問題視され始め、原因は働く女性が増えて産まないからではないか、ならば、子どもを産みながら働くことを可能にという制度が整備され始めました。「次世代育成支援対策推進法」(03年成立、05年度から10年間の時限立法)が制定されましたし、前後して中央省庁のある霞が関の「かすみがせき保育室」(01年)、資生堂の事業所内保育所「カンガルーム」(03年)などの動きも注目されました。
これらを受け、05年から07年にかけ、企業の「ダイバーシティー(多様性)ブーム」が起きます。その時の主眼は「両立支援」。企業内託児所や時間短縮勤務制度の具現化、育休取得の推進など大企業中心に次々に整備されました。民間の託児業者も増えてきました。
ただ、「女性が企業の中でどう活躍するか」というもう一つの視点は、軽視されたというか、なおざりにされたままでしたね。
ワーキングマザー増えて、組織運営が困難に?
07、08年あたりの不景気を経て、10年ごろ、再び企業がダイバーシティー施策に力を入れ始めたのですが、企業の多くの人事担当者の本音は、「ワークライフバランス(仕事と生活の両立)を推進して、ワーキングマザーは辞めなくなったが、活躍もしていない。企業にとってのリターンは何?」という感覚でした。
このころ、大企業ではワーキングマザーが急増しました。支援制度が充実し、「辞めなくてもいい」というメッセージが出て、これまで産むのを控えていた40歳前後も含め、「産んでかつ働くのも大丈夫らしい」と、出産ラッシュ。第2子以降を産む人も増えましたね。
それ自体はいいことなのですが、企業は、ワーキングマザー支援は当たり前の一方、かつ「がんばれ」って言ってはいけない状況と誤解した。その代わり、残って仕事をしている人に「しわ寄せ」というような状況もありました。企業はコストをかけた投資をした割に、それに対するリターンがよく見えない、ワーキングマザーが増えて組織運営が困難になるという「息切れ」が起こっていました。
「正式な仲間」と認めていなかった
なぜそうなったかというと、「出産などでも会社は辞めなくてすむ」という施策を進めると同等に、「女性が活躍できる場をもっと増やす」「女性が偉くなる道筋をちゃんと作る」べきだったのに、05年のダイバーシティー推進の中にはその観点がなかったからです。
企業側が、自分たちの「投資」をどうリターンするか、というイメージを持っていなかったのです。結局、「両立支援するから会社に居場所を見つけてあげたよ、だれも辞めろといってないよ」といいつつ、「あなたたちは、私たちが見てるフルのメンバーじゃないよ、正式な仲間とは認めてないよ」という状態にしていたのが、2000年代の後半から2010年代の初頭の状況と言えます。
そういう「ぼやき」がだんだん強まる中での、2013年4月の安倍首相の発言だったわけです。これから女性の活躍進める、女性のリーダーを増やすんだ、多くの会社、上場している会社は少なくともひとりは女性の取締役を、ということに安倍首相が言及した。これはすごく大きな転換点だったと思うんですね。
この安倍首相の発言を受け、私たちのこれまでの研究実績から、女性リーダーの持つ経験やモチベーション、女性リーダーを生む会社の風土などの要素をまとめていけば、女性リーダー育成に関心のある企業に役立つ提案を発表できるのではないか、と思いました。
Q.安倍首相の「女性活躍」発言の影響は
首相が女性活躍を言い続けるインパクト
「女性の活躍をもっと促したい、リーダーを増やす」と首相が口にしたことは大変インパクトがありました。これまで、ほとんどそんな首相はいないですから。
また、言いっぱなしではなくて、政府主導でどんどん手を打ってきている。外務省主導で女性たちの国際シンポジウムを開催したり、経済産業省が「ダイバーシティ経営企業100選」を公表したり、経産省と東京証券取引所が「なでしこ銘柄」を発表したり、いろんなことを考えて実行し、世の中に向けた大きなメッセージになっています。
企業が女性をリーダーにする理由を問わなくなった
この政府の後押しで、「なぜ女性のリーダーを増やさなくてはいけないか」という問いを企業がしなくなりました。女性リーダーがなぜ必要か。それは、組織に所属するすべての人の価値を最大化することが、会社にとっての最上の戦略になるからです。
しかし、これまで「女性の管理職を増やす数値目標は導入しません」という会社が大変多かったのです。「男性でも全員が課長になれないのに、なぜ女性を課長にしなくてはいけないのですか?」と、真剣にある会社の人事の課長さんに聞かれたものです。「どうして男性が先なんですか?」と問い返すと、「いや、それはあたりまえですよね」というような反応でした。女性がいきいきと働くのは大切だけど、管理職にする必要はないだろう、と。
でも、安倍さんが女性活躍推進をひたすら言い続けることで、女性のリーダーを生まなくてはいけない、そうしなければみっともない会社だという認識が広まってきました。本当に多くの会社がこの1~2年の間に女性の管理職の登用目標みたいなのを導入しましたし、あるいは多くの会社で執行役員クラスの女性がこの4月に相当多く誕生しました。
「なんで女性を昇進させなくてはいけないか?」、この質問がなくなっただけで、女性リーダーの育成を進めるのがすごく楽になったと思います。

