女性雇用アベノミクスに乗り遅れるな-深夜勤務に別れ告げる女性官僚
9月12日(ブルームバーグ):今年2月のある朝、東京都文京区の住宅地にある古びた人事院の研修施設に霞が関の将来を担う女性官僚19人が集まった。4日間の女性職員の管理職養成研修だ。男性優位の官僚制度を見直し、女性幹部の積極登用を促すための初の試みだった。
研修に参加した11人が中心となり、子育てと仕事を両立できる「働き方改革」について30ページの提言を取りまとめ、今年6月、内閣人事局長の加藤勝信官房副長官に提出した。在宅勤務の導入や勤務時間内での業務処理など、家庭を犠牲にし深夜までの長時間労働を余儀なくされる生活を改善する10項目の具体策が盛り込まれた。
研修後もメールで女性官僚ならではの共通の悩みをやりとりするうちに、参加者の1人、厚労省の河村のり子補佐(38)が「つぶやいているだけでは物事は変わらない。何かアクションを起こしていこう」と声を掛けたのがきっかけだった。次々と入省してくる後輩たちに自分が経験したような苦労をかけさせたくないという思いもあった。
生産年齢人口の減少の中で、女性の活躍促進を掲げる安倍晋三政権は女性官僚の採用・登用を促進するため、2015年度末に政府全体に占める課長級以上の女性幹部の割合を13年10月の3%から5%程度に、女性採用者の割合を13年度の26.8%から30%に引き上げる数値目標を設定。育児期間中の短時間勤務や在宅勤務を促す方針も明確にした。
2人の子育て中
河村補佐は4歳と1歳の2人の子育て中。今は定時の午後6時半に帰宅している。仕事にはやりがいを感じているが、「夜中まで最前線で働く男性の同期に対し、キャリアの不安もある。周りに迷惑をかけているという自責の念も常にある」という。保育園への送り迎えなど研究者の夫の全面的なサポートを受けているが、限界もある。
今年4月に入省10年から20年目の女性123人を対象に行ったアンケート調査では、全員が仕事と家庭の両立に「困難や不安を感じたことがある」と回答した。官僚として最も経験を積まなければならない時期に出産や子育てが重なり、勤務時間内に仕事が処理できないのが主な理由だ。子どものいない女性職員も約8割が同じ悩みを持つ。
霞が関の中でも女性職員が多い厚労省では続々と女性が育児休暇から復帰しているが、ポストに限りもある。女性採用者が3割となれば配慮しきれなくなり、周囲の負担も大きくなる。河村補佐は「どこのポストでもやりくりすれば子育てができるよう仕事のやり方を基本的に見直していかなければならない。時間の猶予がない」と強調する。
7歳の息子を持つ環境省の内藤冬美補佐(40)は提言提出後、男性の後輩から「応援している」と声を掛けられる。「男性もワークライフバランスを考え始める世代になってきている」。子育てだけでなく、親の介護を抱える職員も増えつつある。働き方の見直しは男女問わず「霞が関全体の問題」だとあらためて認識したという。
人事院の資料によると、国家公務員に占める女性の割合はフランスが54%(11年)と高く、英国53%(12年)、米国44%(同)が続く。女性の管理職の割合も2-3割だ。各国ともに1970年代ごろから保育サービスの充実やフレックスタイムの導入などの整備を整えてきた。
財務省にも変化の兆し
霞が関随一の「硬派」官庁の財務省も流れに乗り遅れまいと、女性の積極登用へ大きく方向転換している。7月の幹部人事では初めて女性の小部春美審議官を起用した。1985年入省の紅一点。板東久美子消費者庁長官を筆頭に、他省庁で続々と局長級以上に女性が登用されているなか、同省としては鳴り物入りの人事だった。
04年度以降、国家公務員の女性採用者数の割合は2割超で推移するなか、財務省はわずか6%。女性の積極登用を図った木下康司前事務次官は「多くの女性が財務省を志望してくれていない。どうしても男社会、体育会系のイメージがある」と認めた上で、「何よりも女性官僚の数を増やし、ロールモデルをつくることが重要だ」と強調する。
同省が今年度採用した22人のうち女性は5人と過去最高。来年度の採用担当に初めて女性を指名し、さらなる拡充を目指す。徹夜、土日出勤も当然という労働環境のイメージを払拭するため、女性官僚を集めて改善点をリストアップした。昨年9月から在宅勤務を促すため、自宅パソコンで業務ができる環境と整えたほか、女性休養室を2カ所に新設。若手女性の助言・指導をする「メンター制」も導入した。
01年入省の城田郁子補佐は霞が関で一番遅れをとる財務省が動くことで女性の活躍促進がスピードアップすると期待する。「これまでの財務省の働き方や人事のあり方は仕事しかしない男性を念頭にした仕組みが多い。男女を問わず能力が認められるが、出産を意識する年ごろになると、自分たちには時間的な制約があると意識する」と言う。
霞が関の3大悪
深夜にわたる予算査定のための各省ヒアリング、国会質疑の答弁書作成、法案立案作業は「霞が関の3大悪」と言われる。特に国会答弁の調整は官邸を含め複数の省庁が関わるため、その連絡待ちのためだけに午前3時や4時ごろまで省内に残ることも少なくない。
主計局は2月、予算査定時のヒアリング時間を勤務時間内に終わらせ、原則午後8時までに退庁することを目標とした「申し合わせ」を決めた。城田補佐は「男性の2倍、3倍は働かなくてはならないと言われてきたこれまでのスーパー女性官僚ではなく、普通の感覚を持った女性の視点を政策立案に生かすことを求める動きがある」という。
4月には自民党が国会審議での質問内容を政府側に伝える期限を「2日前の午後6時」に設定。前日夜に集中し、徹夜の作業も多かった答弁書の作成作業が大きく改善された。党の国会対策委員会に直接掛け合ったのは財務副大臣の経験を持つ小渕優子経産相(40)だ。
2人の息子を育てながら職務をこなす小渕氏は「女性官僚が2割を占め、産休を取るようになり役所の仕事が回らなくなったきた。今の段階で役所の構造を変えなければならない」と理解を求めた。小渕氏自身も「家庭と仕事の両立は正直難しい。国会議員も男性がやるべき仕事としてシステムができている」と共通の問題を抱えている。
日本総研の高橋進理事長は「日本は少子化対策で出生率引き上げも一緒に取り組まなければならない。長時間労働でへとへとになっていては育児ができるはずがない。男性も含めワークライフの改善は切り離せない」と指摘。その上で「国家公務員の働き方を率先して変えていく必要がある」と述べ、民間への波及効果に期待をかけた。