女性雇用マタハラ被害の女性たちが「マタハラNet」を設立 「妊娠、出産しても働き続けられる社会を」
働く女性が出産や妊娠をきっかけに、職場で嫌がらせをされたり、解雇や降格などの不当な扱いを受けたりする「マタニティ・ハラスメント」(マタハラ)。アベノミクスで女性の社会進出がうたわれる影で、妊娠経験のある働く女性の4人に1人がマタハラに遭ったことがあるとの調査もある。
身近で起こりうるマタハラの撲滅に向け、被害者の女性たちが「マタハラNet」(正式名称:マタニティハラスメント対策ネットワーク)を設立。7月29日には初めての交流会が東京・千代田区立日比谷図書文化館で開かれ、日本労働弁護団の常任幹事で、女性の労働問題に詳しい圷由美子弁護士も参加、女性7人が自身のマタハラ体験を報告した。今後はネットワークを広げながら、働き続けられる企業のあり方やワークライフ・バランスについて考え、「安心して妊娠、出産、子育てしながら働き続けられる社会の実現」を目標に活動していくという。
■妊娠を会社に報告する時から始まるマタハラ予防
マタハラNetで代表を務める小酒部(おさかべ)さやかさん自身も、マタハラ被害者だ。契約社員として、ある仕事をたった1人でこなしていたが、激務の末に双子を流産してしまった。その後、職場に復帰した小酒部さんは、「私1人では、何かあった時に仕事をまわせない。アシスタントを入れてほしい。同僚に情報共有させてほしい」と上司に訴えたが、かなわなかった。
その数カ月後、小酒部さんは2回目の妊娠。切迫流産の危険があったために、自宅で安静にしていたが、ちょうど契約更新の時期に重なってしまった。「契約を更新してもらうために、無理に出社して通常勤務を続けました。その1週間後にまた流産してしまったのです」
短い期間のうち、2度も流産した結果、小酒部さんは卵巣機能不全になってしまった。主治医からは、次に妊娠したら安定期まで休むよう言われたため、もしも妊娠した場合は仕事を休めるかどうか、人事部長に思い切って訊ねてみたが、理解は全く得られなかった。
小酒部さんは、会社と戦った。小酒部さんは弁護士に依頼、労働審判にかけた。上司たちとの面談の録音が有力な証拠となって、勝利的和解を勝ち取った。「私がマタハラを体験して感じたのは、法律の知識を会社の上司たちは持っていませんでした。知識がある人でも、不法行為に罪悪感をあまり感じていないことでした」
産前産後休業の期間、およびその後30日間の解雇は、法律で禁止されている。また、妊娠中・産後1年以内の解雇は、「妊娠・出産・産前産後休業取得等による解雇でないこと」を事業主が証明しない限り無効となるとされている(労働基準法第19条、男女雇用機会均等法第9条第4項)。しかし、交流会での報告は、いずれもその法律を守っているとは考えられないケースばかりだ。
小酒部さんは、「セクハラのように一個人ではなく、マタハラは会社組織ぐるみでやられてしまうので、本当に悪質です。妊娠をしたことを報告しにいく時から録音をしてください。会社が何か言ってきた場合は、書面にしてくださいとお願いしてください」と助言した。
■マタハラによって、ドミノ倒しのように人生が崩れていく
IT企業に正社員として勤めていたある女性は、子どもを出産後、時間短縮勤務の制度を利用して復職したが、翌日から残業が入れらたという。時には仕事が深夜にまで及ぶことがあった。保育園の退園時間があるため、上司に残業をなくしてもらうよう訴えたが、「甘えるな」「そんな正社員いらない」などと暴言を吐かれ、心身ともに疲弊してうつ病になってしまった。
「何度も死のうかと考えました。子どもに涙を見せたくなかったので、夜に外へ出て行って泣いたことも。そんな状態だったので、マタハラの証拠を残すことができなかった」と女性は話す。結局、3カ月間の休職期間満了後に雇用契約の終了通知を一方的に受けた。その後、労働審判となり、会社側に支払い命令が出たが、会社側がこれを不服として控訴。今後、8月に裁判が行われることになっている。
「マタハラは、少なからず子どもに影響があったと思う。自分の人生にもこれだけ影響したので、労働審判で終わってくれればよかったのに」と女性は会社側に不信感をあらわにする。
他にも、待機児童問題で保育園への入園が難関となっている中で、なんとか子どもをあずけて復職の準備をととのえていたのも関わらず、一方的に解雇された女性もいた。「解雇通知を飲んでしまったら、保育園に通わせることができないのでは」と女性は悩みを打ち明けた。
小酒部さんは、「マタハラ問題は、ただ仕事を辞めせられることで終わらず、ドミノ倒しのように、保育園問題や経済的問題など、次々と崩れていくのが深刻です」と話す。マタハラによる解雇によって無職に陥ると、保育園に入園できないという新たな問題が発生。保育園に入園できないために、転職活動もままならない上、時間短縮勤務をする人材を新たに雇用してくれる企業も決して多くはないという、厳しい現実が被害者には待っているのだ。しかし、女性にも会社側にも、妊娠、出産した労働者の女性に対する法律やマタハラへの認知はまだまだ進んでいない。
マタハラNetに参加している別の女性は、「次に出産する女性たちの被害が1人でも減るように、がんばっていきたいと思っています。マタハラに遭った方たちの体験談を発信していくことを通じて、どんなふうに戦ったか、自分だったらどう戦えるか、手がかりをつかめるようにしたい。情報の蓄積、発信をして、その先の活動、社会に向けてのはたらきかけをしていきたいと思います」と語った。小酒部さやかさんも、「安倍政権はアベノミクスで、女性のマネジメント層を増やすと言っていますが、女性の活用どころか職場に戻れない人たちもいます。まずは、女性の就労の継続が先ではないでしょうか」と話していた。
圷弁護士は、「今回、当事者のみなさんが立ち上がったのは、マタハラは許されないことであり、社会的に改善していく契機になるのではないでしょうか」と語った。
マタハラNetでは、公式ブログのほか、公式Facebookでも情報を発信していく。