いびつになりがちな「女性の管理職・役員を増やそう」議論の問題点

女性雇用いびつになりがちな「女性の管理職・役員を増やそう」議論の問題点

女性の管理職・役員を増やそうー。働き方改革の一環として、議論されている。政府は「女性活躍」を成長戦略の柱の一つに掲げ、2020年までに管理職など「指導的地位」に占める女性の割合を30%に引き上げることを目指している。だが、総務省の「労働力調査」では、2016年の女性管理職比率は13%。欧米先進国の女性管理職比率は3~4割が多い。


今回は、人事コンサルタントであり、明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科客員教授である林明文さんに、特に大企業において女性の管理職・役員を増やす議論について話を伺った。林さんには、2017年12月掲載の記事「バブル世代の「リストラバブル」はもう止まらない」でもインタビューを試みた。

林さんはデロイト トーマツコンサルティングで人事コンサルタントとなり、その後、大手再就職支援会社の社長に就任。2002年からは、人事コンサルティング会社・トランストラクチャの代表取締役を務める。著書に『経営力を鍛える人事のデータ分析30』(中央経済社)などがある。

30年以上の実績がある人事コンサルタントには、女性の管理職・役員を増やそうとする議論はどのように映っているのだろうか。

いびつになりがちな「女性の管理職・役員を増やそう」議論の問題点

Q 議論をどのようにご覧になりますか?

日本の企業社会において、全従業員に占める女性の管理職や役員の比率は欧米先進国のそれと比べると、たしかに低いのです。

今後、労働力不足が深刻化しますから、多くの女性に何らかの形で就労をしていただくことは好ましいことです。そして、可能ならば、管理職や役員として経営の意思決定に参加していただくことも大切です。

社会として進んでいく方向性は正しく、必然の流れと言えます。しかし、そのプロセスに問題がある、と私は考えているのです。特に政府が「2020年までに管理職や役員の比率を〇%にする」といわば数値目標を掲げ、それを企業に求めているならば好ましくないことです。

私はここ数年、中堅・大企業の人事部から「女性の管理職を増やしたいのですが…」と相談を受けることが増えてきました。内容を聞くと、比率などの数字の導き方に無理がある場合が少なくないのです。

たとえば、今後2年ほどで、女性の管理職比率を3%から10~15%、あるいは10%を30%に上げようとする会社がありました。私がその数字を導いた根拠を聞くと、人事部からは明確な回答がありません。はじめに「10~15%」「30%」という目標数字を立てて、現在の管理職比率を強引に上げようとしているのです。聞く限りでは、社長や役員から指示を受けているようでした。

Q わずか数年で欧米先進国に追いつくかのようなことを語る識者もいます。

私は、女性の管理職や役員の全従業員に占める比率が、欧米先進国のトップレベルの国に追いつくのは25~30年後になるだろうと思っています。この時点が、ある意味での完成形になるはずなのです。

まず、目に見えるような変化が訪れるのは約10~15年後かと思います。それは今の22~27歳が、特に大企業で管理職(この場合は、課長)の適齢期である30代後半~40代前半になる頃です。

多くの大企業で、男女が人事の面である程度、分け隔てなく扱われるようになったのは、ここ5~6年です。新卒の採用者数における男女の比率や入社後の配属、ジョブローテーションや配置転換、人事異動、管理職になるための研修、人事評価、昇進・昇格、日々の指導・育成などです。厳密に言えば、今も男女間に差はあるかもしれませんが、大きな傾向として、かつてのような差はないと言えます。

ここ5~6年、特に大企業では、有給休暇の消化率、残業時間の削減をはじめとして労働時間でも男女の差は減っています。ただし、育児・介護休業など長期休業を申請するのは、依然として女性が中心です。このあたりは、課題を残しています。

しかし、少なくとも今の30~50代の女性社員とは明らかに異なる環境に20代の女性社員はいるのです。20代の男女の社員には、就労において性別の意識はあまりないのかもしれません。「男女の差がない中で働く」という意識づけが、各大企業や企業社会である程度行われているからです。

ここ5~6年に特に大企業に入社した20代が、30代後半の管理職になる適齢期になったとき、男女の比率がほぼ同率になるはずなのです。それが、10年~15年後になります。

この時点では、企業社会全体としてはまだ、発展途上です。その上の世代がいるからです。今の20代よりも上の世代、つまり、現在の30~50代が今後、定年退職などを迎え、しだいにいなくなります。

一方で、今の20代よりも下の世代が成人し、会社員となります。おそらく、「男女の差がない中で働く」という意識づけをより一層強くされた世代でしょう。

今の20代が、40代後半になる20年後から、50代後半になる30年後にかけて、女性が管理職だけでなく、役員でも一定数占めるはずです。この時、管理職や役員の男女の比率はほぼ同等になるのだろう、と思います。

Q 大企業では、30~50代の女性の総合職はたくさんいます。

おそらく、この女性たちは様ざまなハンディを負いながら、懸命に仕事をされているのだろう、と思います。しかし、不幸なことに、この世代は今の20代のような意識づけが十分にされない中、この10~30年いたのです。

企業社会や多くの大企業が、女性の管理職や役員を増やそうとして様ざまな試みをしてきたわけではありません。配属、配置転換、人事異動、研修、人事評価などを通じて、女性社員を男性と同等に扱い、昇格できうる道筋を明確につけてきたわけでもないのです。有給休暇の消化率を上げることや残業時間の大幅削減なども徹底していませんでした。

このあたりは女性社員に限りませんが、労働生産性がさほど上がらず、賃金も本人が期待するほどに上がることもない中、長時間労働をせざるを得なかったのです。

このような状況で管理職になり、全国転勤を受け入れ、しかも、プレイング・マネーャーとしてフルに働くことに抵抗感を持つことはある意味で仕方がないことです。

本来、こういう環境や働き方を女性社員の実態や実情に即して変えることこそが急務なのです。女性の管理職や役員の比率はこのような環境を整備しつつ、定着・育成を計画的に段階的にしていけば、おのずと上がるものなのです。わずか数年で比率を意図的に強引に変えようとすることは、いびつなとらえ方に思えます。

Q 一部の大企業では、女性の管理職比率は高いのではないでしょうか?

化粧品業界や小売業界、流通業界、金融機関などの大企業は15~20年以上も前から女性社員を管理職・役員にするような施策を次々と確実にしてきました。今、これらの企業でも女性管理職の比率は10~40%です。20%を維持することが難しい場合も少なくないのです。

ただし、こういう企業は大企業全体の中で多数を占めているわけではない、と私は思います。この10~30年、多くの大企業では、女性社員を総合職として雇いながらも、それにふさわしい仕事や昇進・昇格のための道筋をつくることを熱心にはしてこなかったのです。

Q 30~50代の総合職の女性の中から、わずか数年で次々と管理職に昇格させることはできうるものなのでしょうか?

私が大企業人事部とのコンサルティングやヒアリングを通じて感じることで言えば、30~50代の総合職の女性は、同世代の総合職の男性に比べて、ローパフォーマーが多い傾向があります。人事評価や業瀬・成果などを「優秀:普通・低い」の比率を男性で見ると、「2:6:2」の場合が多い。一方で、女性は「1:3:6」の場合が目立つのです。

これは、この世代の女性社員の能力が低いからではありません。入社当初は高い人も大勢いたはずなのです。つまり、同世代の総合職の男性と同じ就労意識や労働環境で仕事をする機会や態勢を社会や会社がつくってこなかったからだと思います。彼女たちは、能力を存分に発揮できるきっかけや場が少なかったのです。

違う見方をすると、こんなずさんな管理下で、「優秀」な部類に入る「1」の女性は抜群に優秀なのでしょう。私は、こういう女性社員を管理職、さらに状況に応じて役員にすることは何ら問題がないと考えています。むしろ、するべきなのです。今のまま、多くの女性社員の中で埋もれるのは、惜しい人材です。

しかし、「1:3:6」の「3」や「6」の女性社員を、「2020年までに…」ということで強引に管理職にすることには理解ができないものがあります。

管理職になれば、通常は部下がいます。派遣社員なども多数います。その中でチームを作り、業績を維持し、発展させるのは相当に難しいことです。

しかも、今は管理職にはプレイング・マネージャーであることが強く求められています。労働時間の規制も進んでいます。限られた時間の中、プレイヤーとして部署で最も高い業績を残し、マネージャーとして部署の管理、部下の育成・指導を確実にできるのでしょうか?

それでも、優秀である「1」の女性はきっとクリアするのでしょうが、「3:6」の女性はできうるのでしょうか?「できるかどうかわかならないが、とりあえず、管理職にしてみよう」という時代状況ではないと私は思います。

あるいは、「能力が足りなくとも、男性は管理職になるではないか」という意見もあるのかもしれません。しかし、今、大企業で管理職になるためには、相当に難しいレベルのマネジメントを求められます。20~30年ほど前とは、大きく異なるのです。このあたりの認識が正確にできていないと、深い議論はできないのかもしれませんね。

Q 総合職のあり方も大胆に変えていくべきでしょうね。

総合職は、一般職や専門職、実務職と求められるものが明らかに違います。それらの境界線は常に明確でないと、人件費の厳格な管理はできないのです。結果として、人件費の管理がずさんになり、厳格な数字に基づくコントロールが十分にできなくなるのです。これでは、企業は強くなりません。

総合職の定義や位置づけがあいまいという一例を挙げます。大企業では、30~50代の女性社員で総合職でありながら、非管理職として実際は一般職と同じような仕事をしている女性がいます。成果や実績・貢献度も、一般職とさほど変わらない場合があるのです。この女性社員たちの賃金は、仕事の中身や実績、貢献度などに比べ、全般的に高い傾向があります。離職率も概して低い。

私は、特に大企業では賃金などの面で下方硬直性があり、これが企業の活力を奪っているとかねがね思っています。その一例が、中高年の正社員の賃金が下がってしかるべきなのになかなか下がらないことです。

女性の管理職・役員を増やそうとする動きがある一方で、大企業の総合職で40~50代の非管理職の女性社員の賃金の高さがそのままになっています。本来は、早急に正しい姿に変えていくべきなのです。まして、この層から女性管理職をこの数年で選ぶならば、私にはますます理解ができないことです。

どこかでいびつになっているのが、現在の議論なのではないでしょうか?