世界最大級の人事コンサルに聞く、企業は人工知能をどう受け入れるべきか

AI世界最大級の人事コンサルに聞く、企業は人工知能をどう受け入れるべきか

「将来的に人間はAI(人工知能)に仕事を奪われてしまう」と懸念する声を最近、数多く耳にするようになった。これに限らず、さまざまなテクノロジーによる破壊的なイノベーション(デジタル・ディスラプション)に関する話題が急激に増えている。そうした中、企業はどう組織を構成し、人材を育成・確保して成長(Thrive)していくべきなのか。世界最大級の組織・人事コンサルティング会社であるマーサーのパートナー グローバルプラクティスリーダーであるケイト・ブレイブリー氏に話を聞いた。

(聞き手:ビジネス+IT編集部 松尾慎司)


photoマーサー
パートナー
グローバルプラクティスリーダー
ケイト・ブレイブリー氏


人の仕事をAIが奪う未来はやってくるのか?

―― AIを始めとするテクノロジーが人間に取って代わる、あるいは雇用を奪うという見方もありますが、実際のところどうなのでしょうか。

ブレイブリー氏: AIや機械学習、ブロックチェーンなどの革新的な技術は、これからのすべての仕事に影響を与えると思います。AIが人間に取って代わることができる仕事を見れば、その分野での雇用は減るかもしれません。一方、これらの技術によって雇用が増加する仕事もあると認識しています。

雇用が減る仕事としては、製造業やサービス業、法律・会計関係、人事関連などが考えられます。雇用が増加する分野としては、IT関連はもちろんのこと、戦略的なリーダーシップが必要だったり、あるいは何か新しい創造的なものを生み出したりするような仕事が挙げられます。

全体的に捉えると、実は仕事の総数が減るとは考えてはいません。

もう一つ付け加えたいのは、今後は仕事というもの自体の考え方がまったく違うものに変わるということでしょうか。技術革新によって、より無駄なことを省いていく仕組みへと大きく変わると考えています。

日本における人材育成・獲得の課題とは?

――ビジネスを取り巻く環境の変化が速すぎて、多くの企業がそれに追いつけていないのが現状だと思います。そうした仕組みは本当に実現可能なのでしょうか。

ブレイブリー氏: まさしく多くの企業が一番懸念している課題だといえます。組織として進むべき方向性が見えない状況に直面しているのです。あらゆる変化が一度に起こっているのですから。

私たちは「2017年 グローバル人材動向調査(Mercer Global Talent Trends Study)」を毎年実施しています。この調査では、経営層や人事部門、従業員の3つのレイヤーに対して人材育成や組織の在り方などについて尋ねています。2017年の調査では、デジタル時代における激しい変化について、多くの経営層が「変化への機敏性を備えていない」と回答しています。その要因としては、組織にとってより戦略的な役割を担う人材の確保が難しいことが挙げられます。

この点は、特に日本における大きな課題ではないでしょうか。日本の中途採用市場の規模はそれほど大きくありません。また、契約社員や派遣社員などの形態で労働力を確保することが頻繁に行われている一方で、より戦略的な役割を外部にアウトソーシングすることには慣れていません。

現時点での変化に対応する人材を確保しながら、これから先を見据えて必要となる人材を育てたり、獲得したりする必要があります。その両立が難しいのは言うまでもありません。

また、日本でも近年、働く時間や働く場所、休暇の自由度を高めた働き方「フレキシブル・ワーキング」が取り入れられるようになりました。政府が主導する「働き方改革」などの後押しもあって、残業時間を減らす施策を行う企業が増えています。


日本企業が2018年に注力したい分野

しかし、実際には「有給休暇を取りたくても取れない」「上司や部下の手前、早く帰りづらい」といった社内の雰囲気がまだあるようです。また、今後減る仕事の中には、就労者の女性比率が高かったり、就労希望者が女性に多い職種が含まれています。何も手を打たないと、女性の社会参画率がどんどん低くなることも予想されます。

若手人材を惹きつけるために必要なこと

――さまざまな課題が浮き彫りになりつつあるようですが、日本国内では特に少子高齢化によって若い人材が不足しています。その点についてはどうお考えですか?

ブレイブリー氏: 他とは違う差別化要因を企業・組織側が伝える必要があると思います。私たちは「Customer Value Proposition(CVP)」のように「Employee Value Proposition (EVP)」という言葉を用いています。

私自身も日本企業をサポートしているのですが、多くの若い従業員が大切にしているのが「報酬の透明性」です。ここでいう報酬とは、単に給与・賞与のことだけではありません。この組織で働くことで「どういうキャリアパスがあるか」「どういう技術が身につくのか」という点も含まれます。また、フレキシブル・ワーキングについては「昇格・昇給に影響があるのではないか」という懸念がまだ根強いようです。若手従業員が満足できる報酬の透明性を確保することも日本の組織の課題だといえます。

(クリックで拡大)

従業員が自分の職場環境の改善につながると期待する項目(日本)

――先ほど、日本企業は戦略的な人材のBPO(ビジネスアウトソーシング)が上手くないという話が出ましたが、海外人材を獲得する動きはもっと進めていくべきものなのでしょうか。

ブレイブリー氏: 現時点での変化に対応しつつ、これから先を見据える必要があるため、海外からの人材を獲得する流れになるでしょう。国内の人材が不足しているということであれば、教育機関にも協力を仰いで人材育成に努めることも必要になってくるかもしれませんね。

――有能な人材を組織内で育てていくべきなのか、外から獲得してくるのかは経営層の意思決定が分かれるところだと思います。デジタル化時代においてどう動けばいいのか、御社の見解を教えてください。

ブレイブリー氏: 過去にはベストプラクティスがあり、それを他の企業に適用するコンサルティングを私たちは行っていました。しかし、ビジネス環境が目まぐるしく変化する中で、今までは入手できなかったビッグデータやソーシャルデータをさまざまな形で収集して分析できるようになり、ベストプラクティスを真似るというよりは、その会社独自の在り方をより強く考えなければならない時代になったと思います。

EVPに加えIVPへの配慮が求められる

――報酬や福利厚生以外の要素で若い人たちを惹きつける必要があるとのことですが、従業員一人一人にカスタマイズされた仕組みが求められつつあるということでしょうか。

ブレイブリー氏: おっしゃる通りです。従業員のための価値提案「Employee Value Proposition(EVP)」に加え、個々人のための価値提案としての「Individual Value Proposition(IVP)」が求められています。それぞれの多様な要求、あるいは要請に応えられる価値をいかに提供していけるかが、デジタル時代のIVPを高める鍵ではないかと考えます。個々人それぞれが働きやすい環境の中でそれぞれの力を最大限に発揮できることが理想的な姿ではないでしょうか。

――そうなると、従来型の評価方式では評価をする側の判断が非常に難しくなってくると思います。これからはどう従業員を評価していけばいいのでしょうか。

ブレイブリー氏: デジタル時代においては、個々人が協力・協同するネットワークの中で新しいものを見出していくことが求められます。これまでとは違う新しい革新的なものを生み出そうとするときには、個人の評価よりも広い観点で評価することが重要です。たとえば、マイクロソフトでは、評価基準の中にビジネスへの影響度だけでなく、社会への影響度を測ったりするような動きが見られています。

また、一人の上司が年に1回評価するのではなく、頻繁に個人間でのフィードバックをデジタルベースでもらう仕組みを採用する企業も増えてきました。そうしたデータを収集、分析することで、欠勤率や休暇の取り方などから退職を考える人の兆候を検知して退職率を予測することも可能になっています。

これまでラインマネージャーが目でやっていたことがデジタルに置き換えられたことで、評価だけではなくて人材のつなぎ止めなどにも活用できる時代が訪れています。

――マーサーがサポートするIVPを実践する先進的な企業はありますか?

ブレイブリー氏: 一つ挙げられているのは、GE(ゼネラル・エレクトリック)ですね。GEでは、従業員のさまざまなデータを活用することでIVPの向上を実践しています。

IVPの重視は大きな動きですが、IVPだけでは上手くいきません。そこには組織として何を大切にしているかという「信条(クレド)」が必要になります。従業員が共感できる価値提案があったうえで、個々人のIVPにも対応できているのが重要だと考えています。

GEに限らず、デジタル時代をけん引する企業は、常に戦略を定義しなおしています。四半期ごとの収益だけに焦点をあてるのではなく、会社としての中長期的な方向性を考え続けています。そういう中で人事部門ではどうやって人材を育成、獲得するのかという課題を抱えています。その部分を私たちがサポートしています。

今すぐ取り組むべきアクションとは

――最後に、この記事を読んだ人にどういうアクションを取ってほしいですか?

ブレイブリー氏: AIで仕事がなくなるという論調ではなくて、もっと前向きに捉えてほしいと考えています。AI化やデジタル化によって得られるメリットの方がずっと大きいと思います。

AIによって、今まで時間や人手がかかっていた業務の自動化が進みます。そうして得られた自分の時間でもっと面白くて楽しいことにチャレンジできるという変化を感じることができるでしょう。

──本日は貴重なお話をありがとうございました。