「査定」のような言葉を安易に使わない 女性が輝く人事評価制度のつくり方

女性雇用「査定」のような言葉を安易に使わない 女性が輝く人事評価制度のつくり方

女性が輝く会社づくりの出発点となるのが、会社の理念と方向性を明確にする「ビジョン実現シート」です。これはA3の用紙1枚に「経営計画書」と「人材育成計画」を盛り込んだもので、人事評価制度を運用していくなかで、原点として何度も立ち返ることになるものです。

山元浩二(やまもと・こうじ)
日本人事経営研究室社長。1966年生まれ。福岡県の地方銀行に勤務したのち、人事制度の研究に取り組み、2002年に日本人事経営研究室を設立。小さな会社の人事評価制度の導入を専門にしたコンサルティング事業を開始。会社のビジョンを出発点として人材を育成することを軸にした「ビジョン実現型人事評価制度」を提唱しており、導入先の社員の人事評価への納得度は9割を超える。

「1枚の紙に、そんな重要なことをすべて盛り込めるものなのか?」

そう感じるのも当然です。しかし、会社のゴールと、ゴールに向かうプロセスを1枚のシートに表現することには、全体像がひと目で理解でき、全社員に浸透させやすいという利点があります。オフィスにシートをはるなどして社員の目に触れるようにしておけば、会社の方向性を浸透させやすいのです。

「経営計画書」を冊子にして配布する形態をとると、詳細に記述できるのはいいのですが、多くの社員はたいてい机の中に入れっぱなし。目にする機会がほとんどないという状況に陥ってしまうことも多いのです。

「ビジョン実現シート」に盛り込むもの

「ビジョン実現シート」には、次のような要素を盛り込みます。

(1)経営理念
社長が考え抜いた会社の存在意義、目指すべき最終ゴールを明記する。

(2)基本方針
「経営理念」を実現するために必要な会社の基本姿勢、考え方を明記する。

(3)行動理念
「経営理念」「基本方針」を実現するため社員に求める行動を示す。

(4)ビジョン
「経営理念」を実現するための、「5年後の会社の姿」を定める。

(5)事業計画
現状、3年後、5年後の利益目標を掲げる。

(6)経営戦略
「事業計画」を達成するための戦略を明記する。

(7)現状の人材レベル
現状の社員たちの強みや課題を明記する。

(8)5年後の社員人材像
5年後の事業計画を実現するため求められる人材像を表す。

(9)ギャップを埋めるために必要な課題
現状と理想の人材像から課題と対策を明記する。

(10)人事理念
人材に対する根本的な考え方を表現する。

(11)プロジェクトコンセプト
プロジェクトが目指す方向性と成果を明確化する。

 

具体的なイメージをつかんでいただくために、九州で化粧品や生活雑貨の小売店を展開するクライアント企業を例にとって、実際の「ビジョン実現シート」に書かれた経営理念、基本方針、行動理念、ビジョンを抜粋して以下に引用します。

(1)経営理念
「私たちは、快く、楽しく、温かみのあるライフスタイルを提案し続け、お客さまを幸せにします」「私たちは、みんなとともに未来を考え、物心両面の豊かな生活を実現します」

(2)基本方針
(お客さまに対する方針)「期待を上回るサービスを追求し、感動と満足を与え、お客さまを幸せにします」
(人材育成に対する方針)「夢や目標を持ち、それに向かって成長していく人間力のあるスタッフを育成します」

(3)行動理念
「プロとしての誇りを持った仕事をし続けます」「お客さまをもっともっと幸せにするために、自発的に考え行動します」

(4)ビジョン
「化粧品、生活雑貨小売業界で九州ナンバーワン」

このように、経営理念に基づく会社の考え方や、社員に実行してほしいこと、人材育成方針を盛り込んだものが、「ビジョン実現シート」なのです。シートを全社員で共有することでみんなの意識を一本化し、ベクトルを合わせて邁進していく準備が整うと考えてください。

女性の人生の歩みに思いをめぐらす

経営理念を考えるのは社長の役割ですが、理念が定まったら、中核となるスタッフとともに考えることが、女性の活躍のためには欠かせません。

どんなに大きなビジョンや事業計画を打ち出したとしても、社員みんなに「そうなりたい」という意欲を感じてもらえなければ、シートは単なる絵に描いたモチにすぎません。

女性は自分の仕事だけではなく、家族の生活と健康を守っているという責任感が強いものです。会社の方針や求められる人材像が、仕事のスキルのみを重視しすぎる内容だったり、すべての社員に例外なく強いリーダーシップを求めるものだったりしたら、女性はどう思うでしょうか。

「私の務めは、会社の仕事ばかりではない。到底、ついていけない」

そう思われてしまうでしょう。

一方で、目指す人材像が、「このような人物になれたら、会社だけではなく、家庭でも地域社会でも慕われる人になれる」と感じられるものだったら、どうでしょうか。

「これこそ、私が目指す女性の理想像だ」
「このような人間に、ぜひ成長したい」

女性社員がそう感じ、理想の姿に向かっていくことに意欲を持てるようなシートをつくることができれば、会社にとっても、社員にとってもプラスになる道をともに歩んでいけます。

そもそも、会社の目的とはいったい何でしょうか。全社員の幸せを実現することだと私は考えます。人事評価制度の目的もまた、全社員の幸せの追求に他なりません。

全社員の幸せをかなえるには、制度導入の初期段階から女性社員を巻き込んでいくことが必要になってくるのです。「男性正社員」中心で会社を運営していくことは、もうとっくに限界を迎えています。そのことは、中小企業経営者の多くが痛感しているのではないでしょうか。

女性が「その気になる」ビジョンや人材像はいったいどのようなものなのか。女性社員の意見に耳を傾け、彼女たちの考え方を取り込んで「ビジョン実現シート」を作成してください。

人事評価制度のつくり方

「ビジョン実現シート」をもとに、全社員それぞれの今の仕事量やレベルを把握し、自社にふさわしい評価基準を定めたうえで、詳細な評価項目を作成することになります。

評価項目には、次の4つの区分があります。

(1)業績項目 数値結果によって評価可能なもの

(2)成果項目 業績に直結する重要な役割や仕事に関するもの

(3)能力項目 実績・成果の実行・実現のために必要な能力、知識、資格に関するもの

(4)情意項目 仕事に対する考え方や姿勢を明確にしたもの

このうち、(1)から(3)までは、自社の業績目標や仕事内容、スキルの内容などに応じて決めます。

私が強調したいのは(4)の情意項目です。情意項目は、明確な基準を設けることも、基準に従って仕事を実践することも、難しいと一般には考えられています。しかし、情意項目こそ、会社のビジョンを全社員に浸透させ、また社員みんなの幸せを実現するためにいちばん重要な項目なのです。

特に、女性が活躍できる会社を目指すのなら、情意項目の部分に力を注ぐべきです。情意項目は、「このような人間に、ぜひなりたい」という、女性の心に強く訴えかけることが可能な部分だからです。

なぜ、そう言い切れるのでしょうか。先ほど「ビジョン実現シート」の抜粋を紹介したクライアント企業を例にして説明しましょう。

同社の行動理念は全部で7つあるのですが、6番めは「おもてなしの心でお客さまに接します」、7番めは「元気で明るく、心を込めた挨拶をします」というものです。ひと言でいえば、「おもてなしの心」を持つということです。

「おもてなしの心」に関する情意項目の目標、すなわち仕事に対する姿勢の要点として同社が挙げているのは次のようなことです。

「忙しいときや閉店間際の時間帯であっても、お客さまに対して快く対応できていたか?」
「困っていたり、迷っているお客さまに率先して声かけをし、対応できていたか?」
「お客さまへの挨拶を徹底し、笑顔で対応できていたか?」

こうした目標は人の心の奥深くに訴えかけてくる性質のものです。周りとの協力的な姿勢を大切にすることや、困っている人を優先して助けること。こうしたことは、ほとんどの女性にとって「人としてあるべき姿」と映ります。ですから、「このような人間に私はなりたい」という気持ちが自然とわきおこってくるのです。

情意項目に沿って女性が取り組んでくれることは、当然のことながら会社の理念に沿って行動することになるのですから、願ってもないことです。

自己評価をするときに、目標を達成していたかどうかについて具体的な内容を書かなければなりません。「このような行動をしたので、私は自発的に仕事に取り組めていた」と、上司に示さなければならないのです。

目標をきちんと頭に入れて常に意識的に行動しなければ、自分の行動を具体的に報告することはなかなかできません。つまり、常に経営理念に基づいた行動をする力が身につくことにつながります。

このように「ビジョン実現型人事評価制度」では、評価の対象となる行動をしっかりと実践することを通じて、評価項目と経営理念がダイレクトにつながる仕組みになっています。特に情意項目は、みんなの心が一つになり、大きなベクトルとなって会社を成長へ導く重要な役割があるといえるでしょう。

「人事」「評価」という言葉を使わない

同社と力を合わせて経営改革の取り組みを進めていたとき、気づいたことがありました。それは、「人事」や「評価」という言葉を使うと、女性は身構えてしまう傾向があるということです。

「『人事』か……。カタそうなイメージだな。難しい話をされてしまうのだろうか?」
「『評価』か……。評価されるとなると、ちょっと緊張しちゃうな。厳しく追及されたらどうしよう」

そのような雰囲気を感じ取った私は、こう提言しました。

「『人事』や『評価』という言葉を使わない仕組みにしましょう」

「人事評価制度」は「キャリアアップ制度」、「計画」は「プラン」、「査定」は「キャリアチェック」。「人事」や「評価」といった言葉の持つ堅いイメージをやわらげ、女性により浸透させやすいように工夫をこらしました。

このように、柔らかな言葉を使い、「人事評価制度」という言葉が持つとっつきにくいイメージから脱却するのも、女性に受け入れられる制度づくりの工夫です。

特に経営陣が男性ばかりの会社の場合には、要注意です。経営にかかわる会議資料の中に、聞くだけで身構えてしまうような言葉がないか、一度女性社員たちに聞いてみると発見があるかもしれません。

言葉づかいの工夫をしたのは同社のケースが初めてでしたが、それ以来私はそれぞれの会社の雰囲気に応じて、さまざまな言葉の工夫をしています。

女性社員の願いをかなえる勤務制度を導入

同社が女性社員のためにつくった制度の1つに「ハッピーシフト制度」というものがあります。これは結婚後、会社の状況に応じて8時から17時までの早番固定勤務や短時間勤務を選べるというものです。

同社は小売店ですから、閉店まで勤務すれば、帰る頃には深夜の時間帯になることも珍しくありません。すると、家族にご飯をつくるなどということはできなくなってしまいます。

「結婚したら、夕飯どきには家に帰って、家族においしいご飯をつくってあげたい」
「家族と過ごす時間を十分にとって、良い関係を築き上げたい」

女性社員のそんな願いをかなえる勤務制度といえるでしょう。至れり尽くせりにみえますが、この仕組みを利用するには一定の条件があります。勤続年数や成長段階によって受けられる支援に制限があるため、「ハッピーシフト制度を利用できるように頑張るぞ」と、社員のやる気が高まる仕組みになっています。

社長を中心として女性たちがひざを突き合わせて考え、女性のためにつくった制度なので、効果は抜群。女性社員が活躍できる理由になっています。

女性の優遇ではなく会社の発展と全社員の幸せのため

こうした勤務制度の背景には、「宮崎県で女性が働きやすい会社ナンバーワンを目指す!」という考え方がありました。

この考え方は、同社の基本方針の1つである、「夢や目標を持ち、それに向かって成長していく人間力のあるスタッフを育成します」に結びついています。

「夢や目標」は、仕事上のものだけとは限りません。伴侶を得、子どもをもうけ、かけがえのない家庭を築くこともまた、夢であり目標です。

それに向かって成長できるよう、支援する方策がハッピーシフト制度です。

また、この基本方針は、「私たちは、みんなとともに未来を考え、物心両面の豊かな生活を実現します」という経営理念から生まれたものです。

ハッピーシフト制度が「女性を応援するための制度」という視点にとどまらず、会社の経営理念に沿った取り組みとして誕生したことに注目してください。

「女性活用が叫ばれているから、女性のためを考えて、育休制度をつくった」というだけでは、社員からは「女性優遇のためだけの制度」であるととらえられてしまいます。

それでは、育休を取れない社員から不満が生まれてくるのも無理はありません。

会社の発展、ひいては全社員の幸せをかなえるために必要不可欠なものなのだということを、導入段階から全社員が理解できるようにしなくてはなりません。

「この制度は、会社の発展とみんなの幸せにどう貢献するのか?」

社員のそんな疑問を自らすぐに解消できるように、「ビジョン実現シート」をいつでも手元に置いてもらうことが必要なのです。