派遣労働組合の職人派遣事業が注目
「仕事はあるが職人が見つからない」「大工を社員募集しているが応募が来ない」──。住宅会社が抱える職人不足の悩みに応えるものとして、建設労働組合が組合に所属する職人を派遣する「労働者供給事業」(労供事業)が注目を集めている。
建設業の労働者派遣は、労働者派遣法第4条で禁じられている。これに対し、厚生労働大臣の認可を受けた労働組合に派遣手数料を無料にすることを条件に労働者の派遣を認可しているのが、職業安定法第45条に基づく労供事業だ。法律上は派遣ではなく供給と呼ぶ。
埼玉土建一般労働組合(さいたま市、埼玉土建)は2012年7月に認可を取得し、労働者の供給を行っている。千葉土建一般労働組合(千葉市、千葉土建)は本部と全支部で13年11月に認可を取得。今年中に供給実績をつくることを目標に掲げる。東京土建一般労働組合(東京都新宿区)は1995年に認可を受けた。近いうちに取り組み始めたいと考えているが、体制がまだ整わない。
労働組合が労供事業に取り組もうとしている理由は複数ある。建設会社から職人紹介の依頼が増えていること。仕事の激減や急増に翻弄されている組合員に少しでも安定的な仕事を確保する必要があること。低い請負金額で休みが取れない厳しい労働環境のままでは、組合員となる若年技能労働者が減少するばかりという危機感もある。
供給先は労働基本法を順守
労供事業は一般的に、労働組合と供給先(建設会社)の間で労働者の賃金や労働条件、要求する技能レベル、資格要件などを取り決め、両者で「供給契約」(労働協約書)を結び、それに基づいて供給先と労働者が「雇用契約」を一定期間結ぶ。
労働者は請け負いのように自分の裁量で仕事をこなすのではなく、供給先の指示に従って社員のように働く。供給先は要求する技能レベルを持つ労働者を必要なときに必要な人数確保でき、要求レベルに満たない場合は交代を求めることができる。
あくまで雇用契約なので、供給先は労働基本法を順守して労働者に休日を与え、残業代を支払う必要がある。雇用期間が一定以上の場合は、供給先に雇用保険や労災保険、社会保険の加入が義務付けられる。
一般的な労働者派遣事業との違いは、労働組合と労働者が雇用関係ではなく組合関係になることと、供給先と労働者が指揮命令関係と雇用関係を同時に持つことだ。
日給の目安は年収600万円
埼玉土建の場合、労働者の質を保つため、供給先が労働者を評価する仕組みを取り入れた。資格要件を満たす労働者を増やすため、技能講習会を開き、資格の取得も支援する。
労働者の日給は条件によるが、年収600万円を確保できる金額としている。それより高い日給で雇用され続けている職人や、供給先に気に入られて正社員になった職人もいる。
埼玉土建で、労供事業の労働者として登録している組合員は6月末時点で約700人。問い合わせてきたり、協議したりした建設会社は10数社に上る。供給先は今のところ、大手の分譲住宅会社、注文住宅会社、ゼネコンの一次下請け会社の3社だ。
千葉土建にも供給を希望する建設会社からの問い合わせが複数来ている。ある注文住宅会社とは、労働協約内容をかなり詰めたが、供給契約には至らなかった。理由について千葉土建中央常務執行委員の海老原秀典さんは、「社員大工を多く抱える会社だったので、社長が社員大工と労供事業で来る大工の待遇に差が生じることを懸念した」と説明する。
注目しているものの、活用に踏み切れない建設会社がまだ多い状況だ。埼玉土建本部書記局員の野々山芳人さんは「一緒に建設業界の将来について話し合い、発展させていくために、労供事業を活用してほしい」と建設会社に呼び掛ける。
