AIAI時代のサムライ業(下)人工知能どう考える
野村総合研究所は2015年、英オックスフォード大学との共同研究で企業法務に関する士(サムライ)業が「10~20年後に人工知能(AI)に代替される可能性が高い」と指摘した。業界団体首脳はどう考えるのか。日本弁理士会の渡辺敬介会長と日本弁護士連合会の中本和洋会長に聞いた。
(聞き手は編集委員 渋谷高弘)
代替分、コンサルに活路 日本弁理士会 渡辺敬介会長
――野村総研などの研究で、弁理士の仕事の実に92.1%がAIで代替可能と指摘されました。
「我々もAIの影響はあると思っている。ただ、同研究は弁理士の仕事を定型的と断定したようだが半分は間違っている。弁理士の主な仕事である特許出願の場合、特許庁への各種定型書類の提出と、(中核的な書類である)特許明細書を書く業務に大別できる」
「前者は弁理士以外がAIを使って処理できそうだが、後者は一品料理を作るような極めて個別的で創造的な仕事だ。発明者は発明の内容を理解しているが、特許として有利に記述するノウハウは持たない。弁理士は発明者の話を聞きながら、その表情も読み取りつつ、明細書を書き上げていく。当面、AIにできるとは思わない」
――手続き業務も合わせれば、5割代替されるということでは。
「5割はいかない。ミスのチェックなど弁理士自身がAIを使って業務を効率化できることを考慮しても、せいぜい4割といったところだ」
――それでも弁理士の業務は減りますね。
「そこは特許出願前後の有料コンサルティングを顧客に提供し、補うべきだと考える。特許出願前には、どんな分野の特許を増やすべきかなどを日常的にコンサルし、出願後は、取得した特許を用いてどう収益を上げるかなどをコンサルする」
――弁理士志願者が減る懸念はありませんか。
「すでに受験者が減少気味だ。AIの影響というより国内の特許出願が減っているためだ。弁理士の広報を充実する。学校の授業に知財の大切さを説く講師を派遣するほか、弁理士を紹介する漫画『ひらめきの番人』も作成し、今年中に当会サイトなどで公開する」
IT化ですら遅れ、憂慮 日本弁護士連合会 中本和洋会長
――弁護士のAIによる代替可能性は1.4%と、他のサムライ業より大幅に低いようです。
「日弁連ではなく私個人の考えだが、弁護士は問題を理解するための幅広い知識、依頼者から話を引き出す対話力、紛争解決のための創造力などが問われる。それらを備えた弁護士なら大丈夫ということだろう」
「ただ、定型的でデータ量の多い、例えば交通事故の紛争はAIが代替するだろう。大量の法律相談データを有する会社もあり、簡単な相談業務もAIに取られるかもしれない。スキルの低い弁護士は淘汰される可能性がある」
――海外の弁護士も同じ認識でしょうか。
「近年、法曹の国際会議ではAIの話題が必ず出るが、日本とは危機感が違う。米国にはクラスアクション(集合訴訟)やディスカバリー(裁判前証拠収集手続き)など大量データ処理が必要な制度があり、5~10年の間にパラリーガル(法律事務職員)の47%、1年目の弁護士の35%、2~3年目の弁護士の19%はAIが代替するとの報告もある」
「日本の弁護士はAIはおろか、IT(情報技術)化すら進んでいない。だから日本の一般の弁護士は危機感がないのだと思う」
――日本の弁護士はいつまでもITやAIに無縁でよいのでしょうか。
「日本は他国に比べて法的紛争の分野の情報化が遅れており、デジタル化された判決は全体の3~5%にすぎない。AIが学習するためには情報がデータ化されている必要がある。だが、日本の法曹界はIT化、AI導入の前提すら整っていない。これでは弁護士業務をAIによって効率化することもできない。憂慮すべき状態だと思う」

