AIによるエントリーシート選考が“攻めの採用”を加速させる 500時間の工数を削減した“ソフトバンク流”未来の新卒採用(後編)

AIAIによるエントリーシート選考が“攻めの採用”を加速させる 500時間の工数を削減した“ソフトバンク流”未来の新卒採用(後編)

ソフトバンク株式会社は2017年5月末から、新卒採用活動におけるエントリーシートの選考に「IBM Watson」を活用。一人の採用担当が、たった3ヵ月で進めたプロジェクトが、採用活動に大きな変化をもたらしています(前編参照)。インタビュー後編では、導入によってどのような成果があったのか、また、今後の展望についてお話をうかがいました。

ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長 稲見 昌彦さん

ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長

源田 泰之さん(ゲンダ ヤスユキ)

1998年入社。営業を経験後、2008年より現職。新卒および中途採用全体の責任者。ソフトバンクグループ社員向けの研修期間であるソフトバンクユニバーシティ、後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(ソフトバンクイノベンチャー)の事務局責任者。ソフトバンクユニバーシティでは、経営理念の実現に向けて社員への研修を企画し、社内認定講師制度などのユニークな人材育成の制度を運用。また、大学でのキャリア講義や人材育成に関する講演実績など多数。

ソフトバンク株式会 社人事本部 採用・人材開発統括部 人材採用部 採用企画課 課長 中村 彰太さん

ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 人材採用部 採用企画課 課長

中村 彰太さん(ナカムラ ショウタ)

2011年入社。新卒採用担当を2年経験後、社内人事制度(等級、評価、報酬、各種サーベイ)の企画・運用に携わる。その他に人事システムの開発・運用、人材戦略の企画・立案を経験し、2017年より現職。

ES選考に係わる時間を、約500時間削減

AIによるエントリーシート(以下、ES)選考を、どのように実践に移していったのでしょうか。

源田:導入する前に、一つの懸念点がありました。AIを活用するに当たり、学生と社会全体に周知するためにプレスリリースを発表したのですが、「人生を左右する大切な選考を機械に任せてよいのか」というネガティブな反応があるのではないかと考えたのです。学生からどう感じてもらえるのかがとても気になりました。

発表に際して私たちは、二つのことを丁寧に伝えました。「AIの方が、人間より公平なジャッジができる」「AIによる選考で不合格となったESは、人間が改めてジャッジする」という2点です。結果として、批判的な意見はほぼありませんでした。逆に、テクノロジー企業としての先進性が、学生マーケットにおいて広く認知されたように思います。

中村:AIによる選考は、ESのテキストデータを採用管理システムからダウンロードし、Watsonにインポートすることで行います。数秒で合否が判定されるのですが、Watsonが不合格としたESは、人間の目で再度チェックを行います。現時点での対象は文系総合職のみですが、今後はほかの職種にも拡げていく予定です。ちなみに、Watson自体がどのようなアルゴリズムでどのような処理をしているのかを、私たちが見ることはできません。

AIを導入することで、どのような効果がありましたか。

源田:成果としては、工数を削減できたこと。これが一番大きいですね。これまで採用担当者はESの選考のために、1年間で約680時間を使っていましたが、今年は170時間に短縮される見込みです。約500時間削減できるので、削減率は約75%に上ります。

文字数が長いものであれば、五つのES項目を評価するのにかかる時間は人間の場合は約15分ですが、Watsonなら約18秒。およそ17倍のスピードでの選考が可能になりました。人間が担う工程は、不合格となったESのチェックだけです。

中村:ESの提出がピークになる頃は、採用担当者が1日数百件ものESをチェックする日が何日もあり、他の業務を圧迫していたのが正直なところです。このような事態を防ぐために、ES選考の作業を採用アウトソーシングサービス会社に外注している企業もあると思いますが、その費用を削減できると考えると、より理解しやすいかもしれません。

ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長 源田 泰之さん/ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 人材採用部 採用企画課 課長 中村 彰太さん

源田:工数を削減できただけでは意味がなく、浮いた時間を本来やるべき仕事にあてることができて初めて、成功したと言えるでしょう。

弊社には、「ソフトバンクという会社の魅力が学生に伝わりづらい」という課題があります。携帯電話だけでなく、法人向けのITサービス、フィンテックなどの新規事業など、幅広い事業を手がけているので、何の会社なのか、どうしても分かりづらい面があるからです。リアルな仕事やキャリアパスを理解してもらうことにも課題を感じているので、浮いた時間には人事が学生との接点を増やして、きちんと伝えていくようにしています。

それに加えて、新しい採用手法を考えたり、インターンのために現場を巻き込んだりといったことに時間を使えるようになりました。冒頭にお伝えした「攻めの採用」へのシフトが一気に進むようになったのは、非常に大きいと思います。

採用領域における人とAIのすみ分けは
どうあるべきか?

時間を削減したことにより、「攻めの採用へのシフト」以外にも、何か成果はありましたか。

源田:公平かつ客観的なジャッジが可能になったことですね。学生が書いたESを人間が判断する場合は、どうしても主観が介在するため、評価にブレが出てしまうことを否定できません。もちろん、明確な基準を設け、事前に目線を揃えて臨みますが、100%公平に判断するのは難しい。しかしAIによるジャッジには、ブレが存在しません。AIの設定段階において、現場の採用担当が本人の知見や日々の肌感覚をもとに、大変細かいチューニングを徹底的に行ったことで、非常に高い精度でのジャッジを実現することができました。

ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長 源田 泰之さん/ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 人材採用部 採用企画課 課長 中村 彰太さん

中村:採用スタッフがWatsonで不合格になったESの再選考を行っても、合否の結果が変更されるものは一定数だけ。それだけ、AIの精度が高いと言えます。現状ではこのシステムに大きな課題は見られませんが、テクノロジーの単語など、トレンドによって使用頻度や意味合いが変わってくるワードもありますので、今後は継続的にチューニングしていく必要がありますね。

今後、HR領域でAIはどのように展開されていくとお考えですか。

源田:「HR Tech」はバズワードになりかけていますが、リアルの世界でしっかりと活用できるようになるのは、これからだと思います。ソフトバンクは世界を代表するIT企業でありたいと思っていますので、HRの領域でも率先して、新しいテクノロジーを活用していきたいですね。今回の取り組みを通じて見えてきたのは、人事がやるべき仕事とAIがやるべき仕事との境界線です。AIでESのジャッジはできますが、会社の魅力を説明して学生を動機付けすることはできない。ここは人が担保する必要があります。人と人との接点に関する仕事に人事が注力することによって、より効果的な採用活動を実現できるでしょう。

現状では、合否を判定するまでに留まっているのですが、合格者の中でも高得点の人とそうでない人との差が見えるようになるかも知れません。さらに、その先の入社後の活躍との相関性が見えてくると、次の進化のポイントになります。活躍人材のフラグ立てが可能になれば、工数削減のために1次面接はパスするとか、現場社員を動員してしっかりと動機付けするとか、これまでとは違った採用選考が可能になるかもしれません。

中村:入社後にどれだけ活躍するかを見極める基準は難しく、その要因となる変数も非常に多いので、なかなかAIでは判断しづらいかもしれません。ただし、今回の取り組みを進める中で、可能性は十分にあるなと感じました。上司と部下とのマッチングやメンバー同士の相性など、アナログな人間関係の領域にもAIが踏み込み、可視化と判断が行われることも考えられます。そうなると、社員の配属にも応用できるかもしれません。

源田:工数を削減することができ、選考がより公正になり、導入リスクもほとんどない。私たちが感じた効果や、導入に至るまでの試行錯誤の経験は、きっと多くの企業にとっても価値があると思っています。

最後に、企業でHR Techに取り組む人事の方々へメッセージをお願いします。

中村:Watsonを用いたES選考は、どの会社でも可能です。これまでの採用活動を振り返り、確かなデータや判断基準をAIに読み込ませることができれば、一定の精度でシステムはつくれると思います。一度、検討してみてはいかがでしょうか。

源田:HR Techの導入に当たって大切なことは、失敗を積み重ねること。私たちも、最初から「Watsonありき」で進めていたわけではありません。さまざまな手法を試し、失敗を重ねて検証していく中で、見えてきたものがたくさんありました。そういった積み重ねがあるからこそ、社外の方からご提案を受けても、一歩踏み込んだ話ができるわけです。失敗は必ず財産になるので、まずは自ら動いてみることが重要だと思います。

ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長 源田 泰之さん/ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 人材採用部 採用企画課 課長 中村 彰太さん

取材は2017年7月13日、東京・港区のソフトバンク本社にて