未分類イマドキ上司に求められる「内発的動機付け」とは?
井上 前川君とはリクルート時代の同期ということで、今回の対談はフランクにやりましょう。FeelWorks(フィールワークス)さんの創業は、当社のちょっと前、2008年だったよね。そのときの思いというか、考えていたことからまずは改めて聞かせてもらえますか?
前川 そのときの僕の問題意識は、「中長期的に若い人たちがイキイキと希望を持って働いていけるよう応援したい」というものでした。というのも、僕は、2005年~2007年に就職支援サイトの『リクナビ』統括編集長をやっていて、今はもうなくなってしまった『リクナビカフェ』という伝説のメールマガジンを作っていたので。就職前後の若者の本音を聴き続ける中で、学生にとって就職はゴールではなくてスタートなのに、その後、現実にぶつかってドロップアウトしてしまう人たちが結構いることが気になって仕方がなかった。当時は、『若者はなぜ3年で辞めるのか?年功序列が奪う日本の未来』(光文社新書)がベストセラーになるなど、若者の早期離職が問題になった時代背景もあったよね。
僕自身も管理職をやっていたし、企業をいろいろ見てわかったのは、企業に人を育てる余裕がどんどんなくなっていたこと。バブル崩壊後アメリカから入ってきた成果主義は上手くいかず、軌道修正はなされたけれど、短期的な業績のプレッシャーから、人を育てることの優先順位がどんどん下がってしまうという現状があった。そもそも、日本が戦争に負けて戦後の焼け野原から奇跡の復活・高度成長を成し遂げたのは、国が教育を軽視する一方で、気骨ある企業・経営者が未熟な若者を採用し育ててきたから。「その『人が育つ現場』が廃れつつある現実を何とかしなければいけない」というのが、FeelWorks創業の思いだった。

井上 若い子のキャリア支援からスタートして、その後、企業内教育へと足場を移していったよね。
前川 僕の性分として、「就活対策講座はやりたくない。それよりも働く未来を伝えたい」と思って若者支援を始めた。でも、それが軌道に乗らなかった理由は2つあって、まず、お金のない若者から受講料をいただくということがどうしてもできなかった。逆に、持ち出しみたいなことになって、これはビジネスにはならないな、と(笑)。
もう1つは、若者たちの希望を育み働く動機付けをしても、それぞれの会社に戻って行ったら上司と上手くいかなくなって、結局辞めてしまうということがあった。それに、僕自身も管理職として人をたくさん育ててきたからその苦労がわかるけど、上司自身も部下の指導や育成に悩んでいる現実を痛感した。そうなると、上司の育成力を支援していく方が、結果的に若者たちのためにもなるし、ここにはB to Bで企業内教育というマーケットがあるのでビジネスが成り立つと創業3年目くらいに気づいたんだよね。創業前の2006年に『上司力トレーニング』(ダイヤモンド社)を書いてヒットしていたこともあり、「上司力」というコンセプトにこだわって10期目に入ってきたという感じかな。
井上 前川君から見て、上司の悩みというのは、この10年間変わってないんだろうか?
前川 「今どきの若者論」というのはローマ時代からあるというし、根本的には上司の悩みの構造は変わっていないと思う。ただ、10年前とは環境が如実に変わってきているよね。
1つ目は、グローバル競争の波が来るなどして、スピードが求められるなかで、部下を育てることの大切さはわかっているけれども、時間がかかるため、できていないこと。
2つ目は、長く就職氷河期が続いてしまったがゆえに、30代と40代初めのくらいの中間層の社員がごそっといないこと。シニア層が「最近の若者がわからない」と言いながらも、中間層に人がいれば、彼らが間に入って翻訳してくれた。しかし、今はそこがいない。
3つ目は、少子化。そもそも45年前と比べて15歳以上人口のシェアが半減以下になっていて、いわゆる就職氷河期に厳選採用していた20数年の間に若者が如実にいなくなっていたことに企業が今慌てふためいている。平成の初期までであれば、若者を大量に採用し仕事の厳しさに耐えられる者だけ育てればよかったかもしれないけれども、今は採用して育てようにも、そもそも若者がいない。
4つ目は、ダイバーシティ。かつてのように新卒で採った男性の集団をつくるのではなく、女性やシニア、外国人、非正規雇用者など、いろんな人たちに総力戦で活躍してもらわなければいけない時代になっている。この環境の変化が、上司の悩みをさらに増幅させているという感じがする。
井上 なるほど。ところで、僕が昔から前川君を見ていて思うのが、一貫してヒューマンチックなところだね。
前川 我ながら、どろくさいよね(笑)。
井上 AI時代なんかくたばれっていう(笑)。
前川 AIは否定しないけれども、僕たちのアプローチはものすごくベタでアナログだね。
井上 そこは、改めて、とても大事なところだと思うんだよね。今は、みんなが忙しくなっていることもあって、コミュニケーションが減っている。若い世代、というか、今やミドル世代とも言える30代くらいの世代が上司と飲むのを嫌う傾向にある。一方で、最近は「飲みニケ―ション」と、また言われるようになってきた感じもするけれど、前川君から見てそのへんはどうなの? 帰属意識みたいなことは……。
前川 このあいだのGALLUP社の「エンゲージメント調査」で、日本で働いている人のエンゲージメント(仕事に対する熱意度)は、世界139カ国のうち132位だった。
井上 最下位というデータも聞いたことがある。
前川 いろんなデータがあって、例えば、ケネクサの「従業員エンゲージメント調査」では28カ国で最下位だった。
井上 企業への忠誠心がないんだな、日本人って……。
前川 ない。寂しいよね。
井上 我々時代はそんなことなかったと思うけどね。

前川 そう。職場が楽しくてしょうがなかった。それはさておき、会社への忠誠心や仕事への満足度が低いということは、各種データで明らかになっていて、僕が現場にお伺いしても、やっぱり楽しくなさそうな人や、メンタルが不調の人も増えてきている。一方、上司も忙しい。管理職といっても、プレイングマネージャーが9割だから、彼らもどうしていいかわからない。彼らは現場仕事とマネージャー業務をこなしつつ、ノルマも達成し、ハラスメントにも注意しなければいけない。しかも結果責任だけ負わされて、十分な裁量も与えられていない。
職場の飲みニケ―ションがまた見直されているという声も聞くけれど、僕が見る限り、そんな話はあまりないかな。あいかわらず「なかなか最近の若い奴は飲みニケーションについて来てくれない」という声が多い。
井上 全般的にはそうなのか……。
前川 あとは、共働きの人も増えてきているからね。急に誘われても、子供のお迎えがあるから無理なことも多い。あとは介護だね。
井上 介護は確かに多いね。
前川 特に地方の企業のお客さまと話していると感じる。
井上 うちも、30~50代の転職の局面に一番かかわっているので、離職理由に介護問題が絡んでくることが当たり前のようになっている。話を聞いていると大変だと思うよ。親の面倒を見なければいけなくなったときに、昔だと「ごめん」と奥さんに頼んでいた男性が多かったと思うのだけれども、今はそういう時代ではないと思うし……。
前川 そういう意味で、「人材不足でダイバーシティ」という文脈の中で言うと、企業から個人にパワーシフトが起こっているよね。
これまでは、一応表面上は60歳定年でその後年金がもらえるから、ある程度は一生安泰であることが保証されていた。その代わり、辞令一枚で「転勤せよ、残業せよ」というのが通用したけれど、今は企業が年金をもらうまでの雇用を保証できない。しかも、国は財政難から年金支給開始年齢を引き上げようと躍起になっている。さらには非正規雇用者が4割いるわけだから、この人たちはそもそも終身雇用になっていないという矛盾もあり、かつ、それぞれにいろんな家庭の事情がある。今まで与えていた安心を提供できないから、もう強権人事ができなくなっている。
井上 そういうことに対しては、まさに前川君が今、管理職の皆さんに対して働きかけて、職場改善をサポートしているわけだけれど……。
前川 企業と個人が対等になりつつある中で、命令で人を動かすことはもう無理なわけでしょう? となると、信頼関係を育んで、お互いに、個人のキャリア、もしくは、ライフキャリアと企業の発展成長のすり合せをしていく――という役割を、今は管理職が担わなければならないのだと思う。また企業はその難題と向き合う管理職層を支援しなければならない。
命令で動かすというのは「アメとムチ」の外発的動機付けで動かすということだけど、今の時代、それは通用しない。上司には「信頼関係ですり合わせる」という内発的動機付け、つまり、今までとは違うコミュニケーション能力が求められている。しかし、多くの管理職層はそういったトレーニングをしてきていないんだよね。だから、そこは我々がお手伝いしながら、内発的動機付けによって働きがいあるチームをつくる方法などを訓練しなければいけないと思っている。