AI採用活動で活躍し始めた「AI面接官」
2018年卒の大学生・大学院生の採用活動が本格化している。経団連に加盟する大企業の選考が6月1日から解禁されたが、外資や中小など非加盟企業では6月よりずっと前に選考が始まっている。人手不足を背景に採用競争が激化しており、経団連加盟企業でも優秀な人材を確保しようと解禁前に実質的な選考を進めている企業が少なくない。
リクルートキャリアによると6月1日時点での就職内定率(速報値)は61%だった。これは前年同期に比べて9.7ポイントも高い水準で、学生優位の売り手市場が続いている。短期決戦で重要になるのが、自社で活躍できそうな学生を素早く見分け、的確にアプローチする技術だ。
そんな中、採用活動では新しい“面接官”が登場した。AI(人工知能)である。これまで人間が手掛けてきた書類選考や1次面接をAIが代行し、業務負荷を大幅に減らしつつ採用の精度を高める。さらに、職場の雰囲気を改善し、最適な人材配置を考える役割もAIが担い始めた。企業活動の根幹となる人事分野にAIなどの技術を活用することを、総称して「HR(Human Resources)テック」という。
過去の合否判定から学習
ここに商機を見いだしたのがNECだ。同社のAIシステム「RAPID機械学習」を基に、独自の人材マッチングシステムを2015年12月に構築した。
多くの企業は書類選考後に面接を複数回実施して、採用候補となる学生を絞り込む。RAPIDを使う狙いは、このプロセスを簡略化すること。AIが面接官の代わりとなることで、膨大な志願者の中から、自社に最適な人材を高精度で抽出できるという。
カギを握るのがRAPIDの機械学習機能だ。まずは企業の人事担当者が約2000人分の履歴書データと、採用試験の合否判定結果を人材マッチングシステムに入力する。するとAIが企業ごとの採用基準を学習。履歴書の文面などから、AIが自動的に適切な人材を選抜できるようになる。
NECクラウドプラットフォーム事業部の上保正之シニアマネージャーは「AIは過去の合否情報を基に、適切な候補者を選ぶ。条件に合致しない学生を選ばないため、従来通りの人数を採用する場合、面接する学生の数は半分に減らせる」と話す。AIの精度が高まれば、書類選考だけでなく適性検査や1次面接すらも省けるようになると期待している。
AIはコンピューター上に人間の脳を模した神経回路を作り、条件分岐しながら認識したり、推論したりする技術だ。神経回路が短いほど早く答えを導き出せる。RAPIDに搭載したAIはその神経回路が以前より700分の1と短いのが特徴だ。一般的なパソコンでも使えるため、企業の採用選考にも適用できるようになった。NECは既に複数の企業と共同で試験を重ねている。
AIが面接官代わりとなることで、人事担当者の“思い込み”を正せる可能性もある。
例えば「ガッツがある人」を採用したい企業の場合、人事担当者は体育会系の部活動出身の学生から探そうとする。だがAIが過去の合否を基に判定すると、体育会系よりむしろ、履歴書に「積極的に取り組む」「着実に役割をこなすことが得意」といった趣旨を書いた学生を選ぶ方が効果的だと分かった。AIを活用すれば、無駄な面接や採用にかかる時間を減らせ、採用したい学生に向き合える時間が長くなる。
NECは企業の人事情報システムとの連携も視野に入れる。3~5年後の人事評価と組み合わせてAIが分析することで、採用時の判定精度をさらに高められると考える。「いずれは経営幹部に出世した人の履歴書や異動履歴をAIに学習させたい」(上保シニアマネージャー)。NECはRAPIDを基にした人材マッチングシステムを求人サイトを運営する企業などへ売り込み、2017年度は10社程度の導入を見込んでいる。
優秀な社員の特徴をAIに学習させ、似たような素養を持つ学生を自動的に探す。こうした技術開発に取り組むのが大阪市のアイプラグだ。
舞台となるのが同社の新卒採用サイト「OfferBox(オファーボックス)」。学生から応募する一般的な就活サイトとは逆に、企業が気になる学生にアプローチするのが特徴だ。登録する学生数は約4万人に達する。
まずは企業内で活躍している社員にアンケートを実施し、「協調性」や「困難に立ち向かう力」などを数値化。企業ごとに理想の人物像を作り上げる。それと似た回答をした学生をAIで抽出。企業側に面接を申し出るよう促す。
AIが“社風”に合った学生を選抜するため、採用後の早期退職が防止できる効果がある。アイプラグの中野智哉社長は「我が社で活躍する社員とAIが抽出した学生を比べたところ、部活のほか、半年で20kgダイエットした経験があることまで同じで驚いた」という。自社で活躍できそうな人材を発掘するのも、AIの役割になりそうだ。
万歩計で組織の性格を見抜く
HRテックが注目されているのは採用の分野だけではない。どんな優秀な社員でも、組織になじめなければ能力を最大限に発揮できない。学生が入社しても、3年以内に3割が退職するという問題もある。部署の雰囲気を定量的に測定し、職場を活性化するという観点でもAIが脚光を浴び始めた。
ヤフーと東京大学は2015年、歩行のパターンから組織内の人間関係を推定する技術を開発した。活用するのは、社員が持つスマートフォンに内蔵した歩数計だ。同じ組織で働くメンバーが歩いた時刻や歩数、歩行のテンポなどをインターネット上のデータベースに送信。蓄積したデータをAIで分析する。同じタイミングで動き、止まるといった歩調が似た人たちは行動を共にしている可能性が高いため、組織内のグループ構成が浮き彫りになるという。
データ分析を深めることで、職場の雰囲気も見えてくる。昼食と夕食では、どちらを一緒に食べることが多い職場なのかといったことが分かる。
Yahoo! JAPAN研究所の坪内孝太氏は「夜遅くまで一緒にいると仲が良い組織と判定できる半面、そうした付き合いを嫌う人もいる。事前に組織の特徴が分かればミスマッチが起きづらい」とみる。さらに組織内のメンバー同士の会話の頻度も分かるため、誰がコミュニケーションを主導しているかも推定できる。新入社員の配属先だけでなく、人事異動の参考情報として使えるかどうか研究を続ける予定だ。
上司にいつ声をかけるべきか
首にぶら下げた名札型の端末を使い、社員の「幸福感」の測定に挑むのが日立製作所だ。昨年6月からスマートフォンと組み合わせた実験を始めた。

端末に内蔵した加速度センサーで身体の様々な動きを計測。動いている状態なのか、止まっている状態なのかといった情報をサーバーへ送信する。これまでに約50億点に上る行動データを蓄積している。
これらの情報を日立が開発したAIが分析。端末を装着した人物が何をしていたのかを推定し、組織の活性度と幸福感を測定する。「特定の人物が会議で話すことが多いのか、聞き役なのか。そこまで推定できる」(日立の矢野和男技師長)。幸福感の指数によって、組織になじんでいるかどうか、能力を発揮できているのかも分かる。
新たな実験では、グループ内の営業部門約600人を対象に、AIが各人の行動データを分析。幸福感をさらに高めるためのアドバイスをスマートフォンなどへ送る。
「5分以内の短い会話を増やしましょう」「上司のAさんと話すのは午前中がお薦めです」など、職場内でのコミュニケーションを円滑に進めるための行動を促す。矢野技師長は「新入社員や異動したての人でも、長年いる人と同じように会話のタイミングを見計らえる。余計なことを考えずに済むので仕事に集中しやすい」という。実験を通じて、アドバイスの精度を高める考えだ。
今回紹介したHRテックは、まだ初期段階のものにすぎない。野村総合研究所は昨年、10~20年後に日本の労働人口の49%がAIやロボットに代替される可能性があると発表。中でも、「人事係事務員」は代替される可能性が高いと指摘した。AIが進化し精度が高まれば、人事担当者が果たす役割も大きく変わりそうだ。


