AIAIが働かないと私たちは貧しくなる
人口減少による著しい人手不足が今後も加速していく可能性が高い日本。このままでは、あらゆる業界で過労問題が発生するだろう。「AIが仕事を奪う」という心配をしている場合ではない。AIに働いてもらわなければ経済(社会)が回らなくなるという事態になりかねないのだ。
日本では若年層人口の減少が進んでおり、これがさまざまな問題を引き起こしていることは多くの人が認識している。例えば、このところ長時間労働が社会問題化しているが、これも密接に関係している。特に外食や小売といった業界は、労働力の中心が若年層労働者であることから影響は大きい。以前、牛丼チェーンの「すき家」で、深夜の1人運営体制(いわゆるワンオペ)が批判されたが、この問題も結局は若年層の労働人口減少に行き着く。
国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、2040年の総人口は1億728万人と現在より15%ほど減少する見込みであり、いよいよ総人口の減少が本格化してくる。しかも、60歳以上の人口はまだ増加が続き、2040年には今より374万人多い4646万人になる。一方で、企業の労働力の中核となっている35歳から59歳までの人口は、現在との比較で何と26%も減少してしまう。次の20年間、日本社会は中核労働力の減少という深刻な事態に直面するのだ。
人手不足で負のスパイラルに陥る可能性も
若年層労働力が減少した結果、外食や小売といった分野では人手不足が深刻化し、サービス残業など社会問題を深刻化させた。電通の過労自殺事件も同じような文脈で考えることができるだろう。だが、今後は同じようなレベルのインパクトが、あらゆる業界に及ぶことになる。このまま何も対策を打たない場合、今まで以上に人手不足が原因で業務を継続できなくなる企業が出てくるだろう。
企業が労働者の不足によって生産を抑制するようになると、経済はどうなってしまうのだろうか。考えられるのは供給制限による経済のシュリンクである。
経済というものは、企業がモノやサービスを生産し、これを消費者が購入することで成り立っている。企業の労働者は消費者でもある。モノやサービスが売れることで労働者は賃金を受け取ることができ、その結果として、消費にお金を回すことができる。
労働力不足で企業が供給を制限すると、モノやサービスが足りなくなってインフレを誘発する。モノやサービスの内容が変わらず値段が上がるので消費者の購買力は低下し、これが企業の業績を悪化させる。企業の業績が悪くなると賃金が下がるので、労働者が消費に回すことができるお金は減少する。場合によっては、需要不足がさらに生産を縮小させるという負のスパイラルに陥る可能性も否定できない。
こうした状態を回避するためには、労働者の総数を増やして生産を維持するか、生産性を向上させ、少ない人数で同じ生産を実現できるよう工夫するしか方法はない。労働者の総数は急には増えないので、前者を採用する場合には、外国人労働者を受け入れるということになる。
AIを導入しないと貧しくなる
現在、日本では約100万人の外国人労働者が働いている。2040年までに中核労働人口(35~59歳)は1100万人減少する見込みなので、同じ労働者数を維持しようと思った場合には、今の10倍の外国人労働者を受け入れなければならない。ちなみに、外国人労働者の受け入れに極めて積極的なドイツや英国でも外国人労働者の数は300万人程度である(国籍を取得した移民は含まない)。
外国人に対する許容度が低い日本社会の現状を考えると、多くの外国人を受け入れることは現実的に難しいだろう。そうなってくると、生産性を向上させるにはAIやロボットなどを投入し、より少ない人数で多くの業務を処理する必要が出てくる。
日本の場合には、AIの普及が特定の仕事を奪うという側面だけでなく、積極的にAIを導入しないと製品やサービスの供給に重大な支障が生じるという別の側面がある。これは人口減少が著しい日本特有の問題といってよいだろう。
AIが従来の仕事を奪うのかどうかはコスト面の影響が大きいと言われているが、人手不足が著しく、業務の維持がままならないという状況の場合、多少コストが掛かってもAI・ロボットの導入が決断されることもある。日本における社会のAI化について議論する際には、こうした視点を持つことが重要である。
人手不足が深刻なサービス業
具体的にどのような業種で人手不足が深刻になっているのだろうか。日銀が四半期ごとに行っている全国企業短期経済観測調査(短観)を見ると、2016年12月末現在、国内の大企業において人手不足が最も深刻なのは、建設、宿泊・飲食サービス、小売、情報サービス、運輸といった業種である。
全般を通じて見ると、非製造業において人手不足が顕著になっていることが分かる。人手不足の上位に並ぶ業種の多くは非製造業であり、製造業はどちらかという下位に並んでいる。日本は製造業の国というイメージが強いが、圧倒的にサービス業の規模が大きい。現在、国内には約6000万人の労働者が存在するが、このうち製造業に従事しているのはわずか1000万人である。
労働者の大半を占めるサービス業において人手不足が深刻であるということは、人手不足によって経済に供給制限が発生する可能性が高いということを意味している。
基本的に人手が足りていない業種の場合、AI導入のインセンティブは高まることになるが、当然のことながら人手不足だけでAI導入が決まるわけではない。AI導入を決断する際のポイントになるのは、業務の代替可能性とコストである。業務の代替可能性については英オックスフォード大学が行った調査研究が有名だが、経済産業省がこの結果をもとに日本におけるAI化について試算を行っている。
サービス業はAI化する?
この試算は、厳密には社会のAI化について、何もしなかったケースと積極的にAI化を進めたケースに分けてその影響を調べたものだが、業種ごとのAIによる代替可能性についてもおおよその情報を得ることができる。
それによると、従事者数の減少がもっとも多いのは製造業となっており、2015年から2030年の間に製造業全体のうち約3割の仕事がAIによって代替されるとしている。工場の無人化・省力化が進むことで、直接製造に携わる労働者の減少が著しい。調達部門については、サプライチェーンのIT化が進むことで、調達管理や出荷、発送に携わる労働者の数が減少するいう。
非製造業では、卸、小売、金融など役務提供型サービス部門での代替が進むと試算している。この分野には約2000万人の労働者が従事しているが15%近くの仕事が消滅する。このほか、情報サービス部門が約3%、宿泊・飲食などが12%、運送・電気などのインフラ系が15%の減少となっている。
絶対数、割合ともに卸・小売といった業種が、割合のみに限定すれば宿泊・飲食、インフラなどへの影響が大きいことが分かる。一方で介護・医療などの分野については、従事する労働者の数はむしろ増加すると試算されている。
この試算で得られたAIへの代替可能性に関する情報と、日銀短観から得られる人手不足の情報を掛け合わせると、最もAI化のニーズが高い業種が見えてくる。
先ほど解説したように人手不足感が最も強い業種は、建設、宿泊、飲食、小売、情報サービス、運輸であった。一方、AIによる業務の代替が容易な業種は、小売、情報サービス、宿泊、飲食、運送。基本的に両方の業種は大きく重なっていることが分かる。
小売業界へのインパクトが大きい
これらの中でもっともインパクトが大きいのは、やはり従事者数が多い小売業界ということになるだろう。小売業に従事する人の数(卸売含む)は1000万人を超えており、これは日本の労働者の6人に1人に相当する。しかも人手不足が深刻であり、かつAIによる代替可能性が高い。
AIによる小売業の変革ということになると、米アマゾンの無人コンビニのようなケースが想定される。アマゾンは、AIを活用したレジのない完全自動コンビニの展開を明らかにしている。店内にレジを設置せず、顧客は専用アプリをスマホにインストールし、商品を手に取って店を出れば自動的にアマゾンのアカウントで課金される仕組みを採用した。
もし無人コンビニの普及に成功した場合、アマゾンは自動運転車を使った商品の配送網の確立を試みる可能性が高い。これが実現すると、小売店の運営についてほとんど人手をかける必要がなくなってくる。日本ではアマゾンの無人コンビニは黒船というイメージで語られているが、日本経済が直面している供給制限の現実を考えると、むしろそれは逆に考えるべきだろう。
コンビニを初めとする日本の小売業界こそ、積極的に無人店舗の運営を検討し、人手に依存しないオペレーションを検討すべきである。
対人サービス分野への人材シフトを
先ほどの日銀短観では、介護など対人サービスの分野の人手不足感はかなり強いとの結果になっているが、この分野のAIによる代替可能性は高くない。対人サービス業務は、臨機応変な対応が必要であり、AI化・ロボット化を進めることが思いのほか難しいからだ。
しかし、この分野に人材が供給されなければ、ここが日本経済における最大の供給ボトルネックになってしまう可能性がある。小売・卸分野に積極的にAIを導入するとともに、小売の分野から介護をはじめとする対人サービス分野への人材シフトを促す措置が必要となるかもしれない。


