AI人事的特異点 ポストHRの時代へ
本連載「AIが切り拓くHRの未来」も無事に第6回の最終回を迎えることになった。最終回では、これまでの第1回~第5回の議論を「人事的特異点 ポストHRの時代へ」という視点から振り返りたい。
第1回
人事3.0 人事の進化なくして第四次産業革命なし
第1回「人事3.0 人事の進化なくして第四次産業革命なし」では、人事1.0(AIが未導入の状態)から、人事2.0(人事業務にAIを導入している状態)への具体的なプロセスを解説した。さらに、RPA(Robotics Process Automation)などのトレンドも踏まえ、人事3.0(人事手動で人事業務を超えて会社全体にAI導入している状態)への進化を示唆した。

人事3.0は言うなれば「人事的特異点」であり、「人事がAIを採用する」という人事版のシンギュラリティの到来だ。人事的特異点の下では、CTOと人事部長の差がなくなり、人事1.0時代の常識が通用しない、ポストHRの時代を迎える。
シンギュラリティの提唱者のレイ・カーツワイルは『シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき』の序章で、テクノロジーはハリー・ポッターの呪文のようであり、「ハリーは、正しい呪文を唱えることで、 魔法の力を解き放つ」と言っている。また「チンパンジーと人間の遺伝的な違いはほんの数十万バイトの情報」であり、ちょっとした違いがテクノロジーという魔法を生み出せるかの差となることを示唆している。
このため第1回では、人事1.0、1.1、1.2、・・・2.0 と細かなプロセスを紹介した。ぜひ、ステレオタイプのAI活用に終始せず、違いの分かる人事を目指してほしい。
第2回
DataRobotで始めるHR Techの最初の一歩
第2回「DataRobotで始めるHR Techの最初の一歩」では、人事2.0への第一歩として、“電子レンジを使うくらい簡単に”誰でもHR TechにAIが導入できるツールの「DataRobot」を紹介した。また、事例として人間が目検で判断していた採用プロセスにおける候補者のレジュメ(履歴書・職務経歴書)の一次審査をロボットで代替する事例を紹介した。

DataRobotを使えば、さまざまなプロセスを予測・判別・自動化することができるため、「AIがもたらすマッチングの進化 ~「外部人事データ」と「内部人事データ」の自然言語解析とは~」を参考にしつつ、ぜひ、取り組んでもらえれば幸いである。
第3回
[実験結果] AI導入で「働き方」は、より人間らしくなる
第3回「[実験結果] AI導入で「働き方」は、より人間らしくなる」では、「AIが雇用を奪うのか」という疑問に対して実証実験の結果を共有した。対象となった職種はデータサイエンティスト。データサイエンティストは、米マッキンゼーの調査によると、2018年までに100万人不足すると算出されている職種である。このため、AIの導入によって生産性が高められることを期待されている分野といえるであろう。
筆者も所属するリクルートホールディングス社では、2015年の11月に前述のDataRobot社へ出資を行い、その後、同ツールをリクルートグループ全社へ導入する実験を行った。実験は、13グループ会社の80組織で行われ、その結果、合計5,000個以上の予測モデルが作成された。作成されたモデルのうちの80%は、データサイエンティストではない職種の人材により作成されており、AI導入で以下の具体的な効果があることが分かった。

第4回
メンタルヘルス × AI 復職支援にAI活用
第4回「メンタルヘルス × AI 復職支援にAI活用 」では、メンタルヘルスへのAI活用について解説した。うつ病の人のための行動記録ツール「うつレコ」に入力されたデータをDataRobotで分析したところ、直近2週間のスマートフォンに入力された睡眠時間、気分、行動などのデータから、次の1週間の体調を80%程度の確率で予測することが可能となり始めている事例を紹介した。
うつ休職からの復職の際、復職面談の時間は平均して30分程度である。産業医の先生が初めて会った人に対して、その日の体調に引きずられながら、復職可能か判断することは、実はとても難しい意思決定である。 このような問題に対し、うつレコを活用することで、産業医の先生が事前にデータを予習し、かつ、人工知能が予測した結果も参考にしながら面談に臨むことが可能となる。

第5回
「AIでより良い社会をつくる人事哲学」
第5回「AIでより良い社会をつくる人事哲学」では、第3回の実証実験に続き、実際にAI で雇用機会を拡大するための仮説について解説した。下記の図のようにある職種において必要なスキルをジョブとタスクに分解した場合、職業訓練をJust in Timeで提供することができれば、AI導入によって雇用機会は拡大するため、AI導入後の世界では、人事による研修の整備が、ますます重要になってくる。

人事的特異点 ポストHRの時代へ
以上により、本連載では、人事3.0へ向かうための具体的なプロセスとツール、AIによって雇用機会を拡大するための実証実験と哲学、そして、AIと職業訓練・研修・教育との関係性について解説した。本連載を読んで頂いた結果、人事的特異点に飛び込むか否かは人事次第だ。ぜひ、勇気を持ってポストHR時代の新しい職業を人事が自ら実践してくれることを期待している。人事が変わらなければ、会社は変わらない。