女性雇用「ダイバーシティ」は経営戦略! 実践企業10社と今後の展望
グローバルでの競争力強化のためにも経営トップのコミットメントが必須だ。フォーブス ジャパンが選ぶ、経営戦略としてダイバーシティを実践する10社を紹介する。
カルビー/松本 晃 会長
「女性の活躍なしにカルビーの成長はない」という経営トップのぶれることのない強いリーダーシップを背景に、女性執行役員数26.7%を達成し、7期連続増収増益。
資生堂/魚谷雅彦 社長
大企業としていち早く女性活躍に取り組み、トライ&エラーを繰り返しながらも先進企業として前進する。「女性に優しい会社」から「働きがいのある会社」へ方針転換を進める。
日産自動車/カルロス・ゴーン 社長
コアタイムなしのフレックス勤務制度、半休制度、在宅勤務制度、労働時間のモニタリング、週間PDCAの推奨などの制度を導入。業務の効率化や生産性の向上に取り組む。
2009年の大赤字を転換点として、採用・育成戦略を大きく変更。経営トップの強いコミットメントの下に、多様な人材の能力を企業の競争優位につなげるため、組織全体の変革に取り組む。
LIXIL/瀬戸欣哉 社長
住生活産業のグローバルリーダーとしてダイバーシティの推進は不可欠と位置づける。「カーテンレール付き窓枠」やケニアにおける「循環型無水トイレシステム」など商品開発を女性が推進。
楽天/三木谷浩史 会長兼社長
トップの強い推進力の下に、積極的な外国人社員の登用、社内での英語公用語化を進め、2011年に「グローバル人事部」、13年に人事データベースの統合や評価制度の標準化を進める。
ダイキン工業/十河政則 社長
2度の大型買収を経て、グループの社員数の約8割が外国人に。現地のニーズを的確にとらえ、自律的にビジネスを進めていくため、海外拠点トップ対象の「グローバル経営幹部塾」などを開設。
日本板硝子/森 重樹 社長
2006年の英ピルキントン社買収を機に組織変革。グローバルで同一システムを利用した個人業績評価、グローバルマネジメント育成プログラムなどで長期的なグローバルリーダー育成に取り組む。
KDDI/田中孝司 社長
企業理念の第1章の1つに「ダイバーシティが基本」を掲げ、経営課題としてダイバーシティの推進に取り組む。女性幹部の育成・登用を見据えた女性リーダー輩出のパイプライン形成を推進。
サトーホールディングス/松山一雄 社長
経営戦略・中期経営計画の柱にダイバーシティを据え、社長直轄による推進室を設置。部長職の女性が独立・起業するなど、社員の創造性を高めるためのダイバーシティを実践。
<選考基準>
経営トップがしっかりとコミットして実践し、「女性の働きやすさ」といったCSRの観点から、競争力を高めるための「経営課題」としてのダイバーシティへ、次のステージへ移行している企業を選定した。
「生産性の低さへの厳しい視点」が、ダイバーシティ「経営」を推進する大きな要素であるー。そう語るのは、リクルートワークス研究所の所長であり、「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」のメンバーである大久保幸夫だ。人材マネジメント、労働政策を専門とする同氏に、「ダイバーシティ経営」の現況と展望について、話を聞いた。
日本企業の女性活躍を含めたダイバーシティへの取り組みはいまだCSR的な要素が強く、「経営」としてのダイバーシティを本当の意味で行っている企業は少ないと言わざるをえません。
ダイバーシティとは多様な人が集まっている状態です。しかし、それだけでは組織はよくなりません。多様な人材、一人ひとりがその個性を思う存分発揮して活躍する「インクルージョン」の領域にまで達しなければ、本当の価値はないのではないでしょうか。
「インクルージョン」はアメリカでも比較的新しい概念で、企業経営の中で使われるようになってから時間が経っていません。しかし、中でも象徴的なのは、ダイバーシティ先進企業といえるIBMで、それまで「チャレンジ」だった女性活躍のメッセージを、2015年に「Be Yourself(自分らしく)」に変えました。
また、分かりやすいマネジメント哲学として取り入れたのがトレンドマイクロ社です。同社は「P(業績)=p(潜在能力)−i(障害)」をマネジメント哲学として掲げています。人はそれぞれとても大きな潜在能力を持っているが、周囲の環境やマネジメントの助けなしには才能を開花させることはできません。だから、i(障害)を取り除くことに経営のエネルギーを注ぎ込む、という考え方です。
さらに、それを実現する仕組みとして機能しているのが、アメリカで広く導入されて、普及している、EAP(Employee Assistance Program)です。
日本でEAPはメンタルヘルス、いわばうつ病などの従業員に対するものという印象が強いのですが、本来は業務のパフォーマンスに影響を与えている、介護や子育ての悩みなど多岐にわたる個々の問題について、専任のスタッフが交通整理をして専門家につなげ、それを取り除くことでパフォーマンス向上につなげる。いわばインクルージョンを支える仕組みとして広がっています。
日本でのダイバーシティへの取り組みは、少子化問題が深刻となり、00年代初頭に社会政策の法整備から入ったこともあり、そのひずみが出てきている段階です。
「資生堂ショック」(編集部注・15年、同社では時短育休勤務の女性とその他の従業員の待遇の差が深刻な問題となり、育児中でも遅番は土日勤務に入ってもらい、勤務制度を平等とすると発表したところ、メディアで「ショック」という言葉と共に取り上げられた)の問題では、お客が最も多いピークの時間帯に美容部員が不足する、という会社の利益と女性の働きやすさが相反する事態が生じました。
日本で女性活躍に積極的に取り組む先端企業としての事例ですが、会社と従業員がお互いにウィンウィンの関係でなければ、持続的とはいえません。
また、日本でのダイバーシティ経営先進企業は、消費者に向き合っているB2C企業に集中しており、B2B企業は全体的に遅れている傾向があります。その理由の一つとして、これまでダイバーシティ経営を推進してきた大きなエネルギーは消費者目線、顧客ニーズの発掘だった、ということにあります。
住生活事業での洗面所システム開発など、メーカーでは女性を起用し、消費者の半数を占める女性のニーズを捉えた商品・サービス開発で成功した事例が多くあります。しかし、人材不足に直面する日本市場と、グローバル展開を考える企業は、B2C企業に限らずダイバーシティ「経営」は避けては通れない道です。
一人ひとりのタスクが明確にあり、自立した権限を与えられ、場所と時間、集中とコミュニケーションが自ら管理できれば、究極的には一番効率が上がっていくと思います。
また、これはダイバーシティ「2.0」ではなく、さらに先の「3.0」の話になるかもしれませんが、社員の「自律」が進めば、必要以上に「管理しない」ということも大事なことです。本来管理は効率を上げるためのものなのだが、管理しやすくするための無駄も多い。「人事評価」に関しても同じことがいえます。そもそも組織運営そのもの、ルールそのものまで根本的に踏み込んでいく、いずれはそういう段階になると思います。
組織や人事評価、管理システムにまで踏み込んだ改革は、トップの強いコミットメントなしには進みません。「社員の働きやすさ」という優しさの視点と共に、「生産性に対する厳しさ」という両輪の価値観を明確に発信している経営者が今、求められているのではないでしょうか。